名刀再誕、夜明けを運ぶ紅き一閃
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
週末の土曜日。
冬の朝特有の、突き刺さるような冷気が心地よい。
ひよりは玄関先で、身支度を整えながら仲間に声をかけた。
「じゃあ、行ってくるね!」
その言葉に、リビングから鉄がひょいと顔を出す。
「ボス、お一人で大丈夫ですか? 俺も行くっすよ?」
「大丈夫だよ! 気分転換に散歩もしてくる予定だし。鉄は観たい映画があるんでしょ? 楽しんでて」
ひよりが笑って返すと、ソファでタブレットを操作していた透がクスクスと肩を揺らした。
「テッちゃん、スパイ映画にハマり過ぎてうずうずしてるもんね。今もエージェントになりきってる最中だよ」
「……申し訳ありません」
涼が申し訳なさそうに頭を下げる。
ひより組の拠点は、今日も平和そのものだった。
「みんなも気分転換に出かけたらいいよ! 自由に過ごしててね」
そう言ってドアに手をかけたひよりに、透の鋭い一言が飛ぶ。
「ひよりん……くれぐれも、一人で『試し斬り』とか言ってダンジョンに行かないようにね……?」
「うっ……! だ、大丈夫だよ!」
核心を突かれ、ひよりの肩がびくつく。「バレた」と顔に書いてあるようなものだったが、彼は強引に笑顔を作って誤魔化し、逃げるように拠点を出た。
透の忠告を頭の隅に追いやりつつ、ひよりは神楽坂の街を歩き出した。
今日はあえてスキップしたくなる気持ちを抑え、ゆっくりと街並みを眺める。
「あそこの2階にあんな店があったのか……。あ、あのおしゃれなバー、涼に似合いそうだな。帰ったら教えてあげよう」
そんな風に仲間の顔を思い浮かべながら歩く時間は、トップ探索者として駆け抜ける日々の中で、穏やかで温かい時間だった。
やがて、目的地の小林鍛冶店にたどり着く。
暖簾をくぐり、使い込まれたカウンターへ声をかける。
「すみません。預けた刀を取りに来ました」
そこに座っていたのは、店主の孫である匠だった。
「おう! 闇王、待ってたよ!」
「やめてくださいよ! ひよりで大丈夫です」
面と向かって二つ名で呼ばれる気恥ずかしさに、ひよりは顔を赤くする。
「そうか? 二つ名、かっこいいじゃん! でもまあ、ひよりって呼ばせてもらうわ。爺ちゃんなら奥で最終チェックしてるぞ」
「ありがとうございます。……ずっと、楽しみにしてたんです」
「そうだろそうだろ。期待してていいぞ。俺が視てもばっちりの仕上げだ」
匠の太鼓判に期待が膨らむ中、奥の工房から重厚な足音が響き、店主の源治が姿を現した。
「おう、坊主。待たせたな」
その手に握られた「鬼灯」は、以前よりも深みのある光沢を放ち、まるで生き物のような力強さを湛えていた。
源治から手渡された刀を握った瞬間、ひよりの全身に電気が走ったような衝撃が突き抜けた。
「……さらに吸い付くように馴染んでる。これ、凄いですよ」
「銘を名刀・鬼灯【暁】という。……抜いてみな」
促されるまま、ひよりはゆっくりと柄を握り、親指で鍔を押し上げた。
――パキッ。
静かな店内に、空間そのものが割れるような硬質な音が響く。
次の瞬間、鞘の中から溢れ出したのは、かつての「焔」のような猛る火ではなかった。
それは、深淵の闇すらも焼き切る、あまりにも純粋で、あまりにも紅い「夜明けの光」だった。
「……あ……」
隣で見ていた匠が、呆然と吐息を漏らす。
抜刀された刃には、血管のような紅い脈動が走り、その一振りを中心に、周囲の空気は一瞬で浄化されていくように感じられた。
夜を終わらせる太陽。
その圧倒的な熱量。
手に馴染む感覚は、もはや武器を超えて「自らの腕」そのものだった。
ひよりが軽く一閃させると、残像さえも紅い軌跡となって空間に刻みつけられる。
「小林さん、ありがとうございます。……これなら、もっと先へ進めそうです」
輝く刀身を構えたひよりの姿は、暗闇を統べる王のようであり、同時に、世界に朝を連れてくる希望そのものに見えた。
「……打った甲斐があった。生涯で一番の出来だ。大事に使ってくれ」
源治の言葉には、職人としての魂が込められていた。
「こんなこと言ってるけどよ、まだまだその鬼灯は可能性を秘めてるからな! メンテナンスにもしっかり来いよ? 爺ちゃんをダンジョンに連れてって、レベルも上げさせておくからさ!」
匠が茶化すように笑うと、源治が即座に怒鳴り返す。
「馬鹿野郎! 歳を考えろ!」
店内に3人の明るい笑い声が響き渡った。
ひよりの胸は、高鳴りを抑えきれずにいた。
透からは「一人でダンジョンに行くな」と厳しく言われている。
だが、マジックバックの中でで脈動する「暁」が、早くその力を見せたいと囁いているような気がした。
(……ちょっとだけ。ちょっとだけ試すだけなら……!)
「じゃあ、ちょっとダンジョンに行ってきます!」
ひよりは振り返り、そう宣言した。
「おう、調整は必要ないと思うが、何かあればまた来い。気をつけてな」
「しっかり名をもっと上げてこいよ!」
二人の声に背中を押され、ひよりは駆け出した。
気づけば、歩きでの散歩など忘れたかのように、全力の「韋駄天」で神楽坂ダンジョンの入り口へと向かっていた。
新しくなった相棒と共に、ひよりが向かう先には、どんな絶景が待っているのか。
その足取りは、冬の寒さを吹き飛ばすほどに熱く、速かった。
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