表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】  作者: 道雪ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/132

新たな強化と可能性

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

 拠点を風のように飛び出したひよりは、神楽坂の喧騒を抜け、手慣れた足取りで一本裏路地へと入った。


 そこには、今時珍しい鉄を叩く音が響く場所がある。


 小林源治が営む「小林鍛冶店」だ。


 かつてひよりが手に入れた「鬼灯」の本質を見抜き、それをランク4の幹部構成員に見合う業物「名刀・鬼灯【焔】」へと鍛え上げたのが、この源治だった。


「小林さん! ごめんなさい、遅れました……!!」


 ひよりが勢いよく店に飛び込むと、奥から煤けた前掛けをした頑固そうな老人が顔を出した。


「騒がしいぞ、坊主。構わんから、そこに座ってくれ」


 源治は無愛想に言い放つが、その瞳にはひよりを歓迎する色が混じっている。


 ひよりは来客が重なって失念していたことを丁寧に謝罪したが、源治は鼻を鳴らして笑い飛ばした。


「んで、相談とはなんだ? メンテナンスだけじゃなさそうな顔だな」


「はい。以前小林さんが、素材を持ってくれば強化に使えるかもしれないと仰ってたので……これ、使えますか?」


 ひよりはマジックバッグに手を伸ばし、世田谷ダンジョンの13層で討伐した「レギオン・クィーン」からドロップした品を取り出した。


 それは、見る角度によって万華鏡のように色を変える、虹色の光を放つ不思議な結晶だった。


「これは……。おい、匠! ちょっと来い!」


 源治が奥に向かって怒鳴ると、一人の青年が面倒くさそうに現れた。


 黒髪をツンツンに立たせた、日焼けした肌の爽やかなイケメンだ。


「なんだよ爺ちゃん。俺、忙しいんだけど」


「お前、これが何かわかるか?」


 匠と呼ばれた青年は、ひよりの手元にある結晶を見た瞬間、その目を大きく見開いた。


「おぉっ、女王核晶クイーンコアだ! 滅多に拝めない代物だぞ……これ、どうしたの?」


「世田谷ダンジョンの13層のボスからドロップしました」


「……なんだって? 君、もしかして高レベルの探索者か?」


「一応、『百傑』と呼ばれている三上ひよりと申します」


 ひよりが控えめに名乗ると、匠は叫び声を上げた。


「マジで!? 爺ちゃん、この子、あの大物だよ!! 本物の百傑だよ!!」


「匠! お前もいきなり騒がしいぞ!!」


 源治の怒鳴り声が工房に響く。


「この坊主が大物だろうが業物だろうが関係ねぇ! 俺が見るのは、この坊主の腕と、こいつが持ってる刀だけだ!」


「……相変わらず厳しいなぁ、爺ちゃんは」


 匠は苦笑いしながら、ひよりに向き直った。


「悪かったよ。一応俺と爺ちゃん、探索者免許を取りに行っててさ。俺が『鑑定士』で、爺ちゃんは『鍛冶師』のジョブ持ちなんだ。だから素材の価値は保証するよ」


「元々、鍛冶を生業にしていただけだ。ジョブなんてのは後からついてきたもんだ」


 源治は頭を掻くと、ひよりから手渡された「鬼灯【焔】」と「女王核晶」をじっと見つめた。


「……坊主。この素材、お前の鬼灯【焔】とは抜群に相性がいい。すぐに鍛えてやる。週末に取りに来い」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 匠も感心したように、源治が預かった刀を眺めている。


「へぇ……この刀の持ち主だったのか。爺ちゃんがいつになく集中して仕事してたから横で見てたけど、いい一振だぞ、これ。大事に使えよ!」


「はい!」


「俺がいれば鑑定の手間も省けるからさ。素材が手に入ったらまた来いよ、ひよりちゃん」


 匠の明るい見送りに、ひよりは深々と頭を下げ、足取り軽く拠点へと戻っていった。


 週末に生まれ変わる「相棒」を思い、ひよりの顔には期待の笑みが浮かんでいた。



………



 ひよりが嵐のように小林鍛冶店へと向かった後、ひより組の拠点では新パーティの面々による相談会が始まろうとしていた。


 ……が、その場の空気はなんとも形容しがたいものだった。


「あの……すいません、涼さん。テッちゃんは何をしてるんですか?」


 浅野が困惑した表情で視線を送る先では、鉄が壁際に張り付いたり、突如として無言で床を転がって移動したりと、怪しげな挙動を繰り返していた。


「わからん。……もう気にするな」


 涼が深く溜息をつき、投げやりに答える。


「ちょっとスパイ映画を観せたらハマっちゃってね。中身が小学生なんだよ、テッちゃんは」


 ソファでくつろぐ透がクスクスと笑いながら補足した。


 ようやく「潜入成功っす!」とリビングに戻ってきた鉄が、居住まいを正す。


「俺個人の相談は後にするんでいいんですが、まずパーティ名が決まりました」


「おぉ、決まったのかい?」


 透が身を乗り出すと、穂乃が誇らしげに答えた。


「はい! 『サンフラワー』にしようって、女子3人で考えました!」


「三上先輩のおかげで結成できましたし、お名前にあやかれば上手くいくんじゃないかって思ったんです」


 栞が補足すると、涼が「サンフラワー……ひまわりか。あぁ、なるほどな」と納得の表情を見せた。


 すると、栞が瑠奈を小突きながらニヤリと笑う。


「るなちは、もっと別の意味も含んでるみたいですけどねぇ!」


「栞っ!! ……あ、ごめんなさい!」


 慌てて顔を赤らめて栞の口を塞ぐ瑠奈を見て、透が獲物を見つけた蛇のように目を細めた。


「ふーん、ちょっとお姉ちゃんに話してごらん?」


「るなちは、涼さんのこと……んーーーっ!!」


 瑠奈の必死な抵抗に、穂乃が「騒がしくてごめんなさい……」と申し訳なさそうに頭を下げた。


「いや、賑やかなのはいいことだよ。……そうか、なんとなくわかった」


 透はニッコリと瑠奈を見て、すべてを察したように頷いた。


 そんな中、鉄だけは一人で「ん?」と首を傾げている。


「なんだって? サンフラワー? なんだよ優吾、3人の花を従えるってことか。お前もやるなぁ!」


「いや、テッちゃん違うから!!」


 浅野の否定も空しく、鉄は「ハーレムだな!」と一人で納得していた。


「……んで、この名前の使用許可と、今後いろいろ相談させてもらうことがあると思うので、そのご挨拶がしたかったんです」


「律儀だな。ボスはそんなこと問題にしないと思うが、お前たちの相談なら俺は歓迎だぞ。な、鉄、透」


 涼に振られ、透は「私に教えられる知識ならね。戦闘に関しては何も教えられないけど」と頷く。


「タンク、あとは遊撃のことなら多少はな。フウさんや師匠に聞きたければ通訳はしてやるよ!」


 鉄の頼もしい言葉に、浅野たちは「ありがとうございます!」と揃って頭を下げた。


 瑠奈が「白鷺さんには戦術のことを聞きたかったんです」と切り出すと、透は「やれることが増えればそれだけパーティは助かるからね。歓迎するよ」と微笑んだ。


 それから各々が抱える悩みを相談し、瑠奈と穂乃は熱心にメモを取り、栞はそれをキョロキョロと眺めていた。


 そんな中、浅野が意を決したように鉄に向き直った。


「テッちゃん、俺、決めたよ」


「おう、決心したか」


 二人の密やかな会話に、涼が問いかける。


「浅野、何かあったのか?」


「はい。俺、今まで両手剣だったんですが……テッちゃんにヒントをもらって、武器を変えようと思うんです」


「ほう、タンクの君は何にするんだい?」


 透の問いに、浅野は力強く答えた。


「刀の二刀流で行きます。三上や涼さんの刀、それにテッちゃんのトンファーの動きから考えました」


「二刀流タンクか……防御面が心配だが」


 透の懸念に対し、鉄が太鼓判を押す。


「それに関してはこれからっす。元々優吾は受けるより『いなす』のが上手いんっすよ。成長したステータス次第っすけど、この器用さと筋力なら、しー……志乃さんのスタイルに近い、防御型の二刀流がいけるんじゃないかって」


「防御型の二刀流か。面白いが、生半可な覚悟では上手くいかんぞ。やれるのか?」


 涼の鋭い視線に、浅野は「やり切ります!」と即答した。


「アニキ、俺からもお願いします!」


「もとより相談は歓迎だ。浅野、リーダーとしても大変だろうが頑張れよ」


 涼の激励に、浅野は嬉しそうに返事をした。


 メモをまとめる瑠奈と穂乃を見て、透が「二人とも妹みたいで可愛いなぁ」と呟いた。そして、視線を鋭く変える。


「……で、ガキンチョ。君は何があった?」


 ビクッ、と栞の肩が跳ねる。


 透はニヤニヤしながら、まるで獲物を定めるヘビのような目で栞を見つめた。


「な、なにがとは……?」


「おや、とぼけるのかい? 君がやったことや、言ったことはこの目で見ているよ。謝罪したことも知っている。だけどね、あまりに態度が変わりすぎじゃないかな……」


 リビングの空気が一変し、異様な威圧感が場を支配する。


「ひよりんは友人であり、ボスであり……そして、私たちの命の恩人なんだ。何か企んでいるなら……わかるよね?」


 喉を鳴らし、のまれるサンフラワーの面々。


 涼が呆れ顔で「透、お前わかって言ってるだろ」と窘めるが、透は気にしていない。


「ククク、涼兄、一応だよ。釘は刺しておかないとね」


 その時、耐えかねたように栞が立ち上がった。


「本当に反省してます!! 栞はしちゃいけないことをしました! 皆さんのボスに酷いことをして……本当に、ごめんなさい!!」


 涙目で叫ぶ栞に、涼が「ボスはもう許している」と宥めるが、透は追及をやめない。


「私は『何があった?』と聞いているだけだよ。……んで、どうなんだい、栞」


 静まり返るリビングで、鉄が困り顔で助け舟を出した。


「透ちゃん、確かに俺もブチギレてたけど、しおりんはあの状況で覚悟を見せた。俺は飲み込んだよ。な?」


「テッちゃんも勘違いしてるね。……栞、答えは?」


「はい……。……ただ、三上先輩を好きになりました」


 その告白を聞いた瞬間、涼は呆れて天井を仰ぎ、鉄は小躍りし、透は満面の笑みを浮かべた。


「100点だ、栞」


「えっ……」


「ちょっと待って!! 私だってファンなんですから!!」


 負けじと声を上げる穂乃を見て、瑠奈が俯いて笑いを堪えていた。


「さすが瑠奈は私の弟子だね。わかってるね」


「……はい。栞、白鷺さんは釘を刺すのが予定の一つ。でも本当の目的は、栞をからかいたかったんだよ。可愛がられてるね」


「なにそれぇぇ!! 怖かったんだからぁぁ!!!」


 腰が抜けたように透に抱きつく栞に、透は「よしよし」と頭を撫でる。


「……でもね、栞。私たちはボスの道に邪魔なものがあれば、どんな手を使ってでも排除する。君を見ていればわかってはいたが、念のためだよ」


「参謀怖ぇ……」


「優吾、絶対に透ちゃんを敵に回すなよ……」


 ヒソヒソと話す浅野と鉄に、透が「何か言ったかい?」と微笑む。


「すいません!!」


 直立不動で謝る二人に満足げに頷き、透は一同を見渡した。


「さぁ、ここでひより組とサンフラワーの第1回合同会議だ。議題は……『妖怪人たらし』についてだ」


 涼が珍しく声を上げて笑い、浅野と鉄もゲラゲラと笑い出す。


 初めての合同会議は、ひよりが帰宅するまでの間、笑いの絶えない温かな時間となった。



ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ