新たな強化と可能性
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
拠点を風のように飛び出したひよりは、神楽坂の喧騒を抜け、手慣れた足取りで一本裏路地へと入った。
そこには、今時珍しい鉄を叩く音が響く場所がある。
小林源治が営む「小林鍛冶店」だ。
かつてひよりが手に入れた「鬼灯」の本質を見抜き、それをランク4の幹部構成員に見合う業物「名刀・鬼灯【焔】」へと鍛え上げたのが、この源治だった。
「小林さん! ごめんなさい、遅れました……!!」
ひよりが勢いよく店に飛び込むと、奥から煤けた前掛けをした頑固そうな老人が顔を出した。
「騒がしいぞ、坊主。構わんから、そこに座ってくれ」
源治は無愛想に言い放つが、その瞳にはひよりを歓迎する色が混じっている。
ひよりは来客が重なって失念していたことを丁寧に謝罪したが、源治は鼻を鳴らして笑い飛ばした。
「んで、相談とはなんだ? メンテナンスだけじゃなさそうな顔だな」
「はい。以前小林さんが、素材を持ってくれば強化に使えるかもしれないと仰ってたので……これ、使えますか?」
ひよりはマジックバッグに手を伸ばし、世田谷ダンジョンの13層で討伐した「レギオン・クィーン」からドロップした品を取り出した。
それは、見る角度によって万華鏡のように色を変える、虹色の光を放つ不思議な結晶だった。
「これは……。おい、匠! ちょっと来い!」
源治が奥に向かって怒鳴ると、一人の青年が面倒くさそうに現れた。
黒髪をツンツンに立たせた、日焼けした肌の爽やかなイケメンだ。
「なんだよ爺ちゃん。俺、忙しいんだけど」
「お前、これが何かわかるか?」
匠と呼ばれた青年は、ひよりの手元にある結晶を見た瞬間、その目を大きく見開いた。
「おぉっ、女王核晶だ! 滅多に拝めない代物だぞ……これ、どうしたの?」
「世田谷ダンジョンの13層のボスからドロップしました」
「……なんだって? 君、もしかして高レベルの探索者か?」
「一応、『百傑』と呼ばれている三上ひよりと申します」
ひよりが控えめに名乗ると、匠は叫び声を上げた。
「マジで!? 爺ちゃん、この子、あの大物だよ!! 本物の百傑だよ!!」
「匠! お前もいきなり騒がしいぞ!!」
源治の怒鳴り声が工房に響く。
「この坊主が大物だろうが業物だろうが関係ねぇ! 俺が見るのは、この坊主の腕と、こいつが持ってる刀だけだ!」
「……相変わらず厳しいなぁ、爺ちゃんは」
匠は苦笑いしながら、ひよりに向き直った。
「悪かったよ。一応俺と爺ちゃん、探索者免許を取りに行っててさ。俺が『鑑定士』で、爺ちゃんは『鍛冶師』のジョブ持ちなんだ。だから素材の価値は保証するよ」
「元々、鍛冶を生業にしていただけだ。ジョブなんてのは後からついてきたもんだ」
源治は頭を掻くと、ひよりから手渡された「鬼灯【焔】」と「女王核晶」をじっと見つめた。
「……坊主。この素材、お前の鬼灯【焔】とは抜群に相性がいい。すぐに鍛えてやる。週末に取りに来い」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
匠も感心したように、源治が預かった刀を眺めている。
「へぇ……この刀の持ち主だったのか。爺ちゃんがいつになく集中して仕事してたから横で見てたけど、いい一振だぞ、これ。大事に使えよ!」
「はい!」
「俺がいれば鑑定の手間も省けるからさ。素材が手に入ったらまた来いよ、ひよりちゃん」
匠の明るい見送りに、ひよりは深々と頭を下げ、足取り軽く拠点へと戻っていった。
週末に生まれ変わる「相棒」を思い、ひよりの顔には期待の笑みが浮かんでいた。
………
ひよりが嵐のように小林鍛冶店へと向かった後、ひより組の拠点では新パーティの面々による相談会が始まろうとしていた。
……が、その場の空気はなんとも形容しがたいものだった。
「あの……すいません、涼さん。テッちゃんは何をしてるんですか?」
浅野が困惑した表情で視線を送る先では、鉄が壁際に張り付いたり、突如として無言で床を転がって移動したりと、怪しげな挙動を繰り返していた。
「わからん。……もう気にするな」
涼が深く溜息をつき、投げやりに答える。
「ちょっとスパイ映画を観せたらハマっちゃってね。中身が小学生なんだよ、テッちゃんは」
ソファでくつろぐ透がクスクスと笑いながら補足した。
ようやく「潜入成功っす!」とリビングに戻ってきた鉄が、居住まいを正す。
「俺個人の相談は後にするんでいいんですが、まずパーティ名が決まりました」
「おぉ、決まったのかい?」
透が身を乗り出すと、穂乃が誇らしげに答えた。
「はい! 『サンフラワー』にしようって、女子3人で考えました!」
「三上先輩のおかげで結成できましたし、お名前にあやかれば上手くいくんじゃないかって思ったんです」
栞が補足すると、涼が「サンフラワー……ひまわりか。あぁ、なるほどな」と納得の表情を見せた。
すると、栞が瑠奈を小突きながらニヤリと笑う。
「るなちは、もっと別の意味も含んでるみたいですけどねぇ!」
「栞っ!! ……あ、ごめんなさい!」
慌てて顔を赤らめて栞の口を塞ぐ瑠奈を見て、透が獲物を見つけた蛇のように目を細めた。
「ふーん、ちょっとお姉ちゃんに話してごらん?」
「るなちは、涼さんのこと……んーーーっ!!」
瑠奈の必死な抵抗に、穂乃が「騒がしくてごめんなさい……」と申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや、賑やかなのはいいことだよ。……そうか、なんとなくわかった」
透はニッコリと瑠奈を見て、すべてを察したように頷いた。
そんな中、鉄だけは一人で「ん?」と首を傾げている。
「なんだって? サンフラワー? なんだよ優吾、3人の花を従えるってことか。お前もやるなぁ!」
「いや、テッちゃん違うから!!」
浅野の否定も空しく、鉄は「ハーレムだな!」と一人で納得していた。
「……んで、この名前の使用許可と、今後いろいろ相談させてもらうことがあると思うので、そのご挨拶がしたかったんです」
「律儀だな。ボスはそんなこと問題にしないと思うが、お前たちの相談なら俺は歓迎だぞ。な、鉄、透」
涼に振られ、透は「私に教えられる知識ならね。戦闘に関しては何も教えられないけど」と頷く。
「タンク、あとは遊撃のことなら多少はな。フウさんや師匠に聞きたければ通訳はしてやるよ!」
鉄の頼もしい言葉に、浅野たちは「ありがとうございます!」と揃って頭を下げた。
瑠奈が「白鷺さんには戦術のことを聞きたかったんです」と切り出すと、透は「やれることが増えればそれだけパーティは助かるからね。歓迎するよ」と微笑んだ。
それから各々が抱える悩みを相談し、瑠奈と穂乃は熱心にメモを取り、栞はそれをキョロキョロと眺めていた。
そんな中、浅野が意を決したように鉄に向き直った。
「テッちゃん、俺、決めたよ」
「おう、決心したか」
二人の密やかな会話に、涼が問いかける。
「浅野、何かあったのか?」
「はい。俺、今まで両手剣だったんですが……テッちゃんにヒントをもらって、武器を変えようと思うんです」
「ほう、タンクの君は何にするんだい?」
透の問いに、浅野は力強く答えた。
「刀の二刀流で行きます。三上や涼さんの刀、それにテッちゃんのトンファーの動きから考えました」
「二刀流タンクか……防御面が心配だが」
透の懸念に対し、鉄が太鼓判を押す。
「それに関してはこれからっす。元々優吾は受けるより『いなす』のが上手いんっすよ。成長したステータス次第っすけど、この器用さと筋力なら、しー……志乃さんのスタイルに近い、防御型の二刀流がいけるんじゃないかって」
「防御型の二刀流か。面白いが、生半可な覚悟では上手くいかんぞ。やれるのか?」
涼の鋭い視線に、浅野は「やり切ります!」と即答した。
「アニキ、俺からもお願いします!」
「もとより相談は歓迎だ。浅野、リーダーとしても大変だろうが頑張れよ」
涼の激励に、浅野は嬉しそうに返事をした。
メモをまとめる瑠奈と穂乃を見て、透が「二人とも妹みたいで可愛いなぁ」と呟いた。そして、視線を鋭く変える。
「……で、ガキンチョ。君は何があった?」
ビクッ、と栞の肩が跳ねる。
透はニヤニヤしながら、まるで獲物を定めるヘビのような目で栞を見つめた。
「な、なにがとは……?」
「おや、とぼけるのかい? 君がやったことや、言ったことはこの目で見ているよ。謝罪したことも知っている。だけどね、あまりに態度が変わりすぎじゃないかな……」
リビングの空気が一変し、異様な威圧感が場を支配する。
「ひよりんは友人であり、ボスであり……そして、私たちの命の恩人なんだ。何か企んでいるなら……わかるよね?」
喉を鳴らし、のまれるサンフラワーの面々。
涼が呆れ顔で「透、お前わかって言ってるだろ」と窘めるが、透は気にしていない。
「ククク、涼兄、一応だよ。釘は刺しておかないとね」
その時、耐えかねたように栞が立ち上がった。
「本当に反省してます!! 栞はしちゃいけないことをしました! 皆さんのボスに酷いことをして……本当に、ごめんなさい!!」
涙目で叫ぶ栞に、涼が「ボスはもう許している」と宥めるが、透は追及をやめない。
「私は『何があった?』と聞いているだけだよ。……んで、どうなんだい、栞」
静まり返るリビングで、鉄が困り顔で助け舟を出した。
「透ちゃん、確かに俺もブチギレてたけど、しおりんはあの状況で覚悟を見せた。俺は飲み込んだよ。な?」
「テッちゃんも勘違いしてるね。……栞、答えは?」
「はい……。……ただ、三上先輩を好きになりました」
その告白を聞いた瞬間、涼は呆れて天井を仰ぎ、鉄は小躍りし、透は満面の笑みを浮かべた。
「100点だ、栞」
「えっ……」
「ちょっと待って!! 私だってファンなんですから!!」
負けじと声を上げる穂乃を見て、瑠奈が俯いて笑いを堪えていた。
「さすが瑠奈は私の弟子だね。わかってるね」
「……はい。栞、白鷺さんは釘を刺すのが予定の一つ。でも本当の目的は、栞をからかいたかったんだよ。可愛がられてるね」
「なにそれぇぇ!! 怖かったんだからぁぁ!!!」
腰が抜けたように透に抱きつく栞に、透は「よしよし」と頭を撫でる。
「……でもね、栞。私たちはボスの道に邪魔なものがあれば、どんな手を使ってでも排除する。君を見ていればわかってはいたが、念のためだよ」
「参謀怖ぇ……」
「優吾、絶対に透ちゃんを敵に回すなよ……」
ヒソヒソと話す浅野と鉄に、透が「何か言ったかい?」と微笑む。
「すいません!!」
直立不動で謝る二人に満足げに頷き、透は一同を見渡した。
「さぁ、ここでひより組とサンフラワーの第1回合同会議だ。議題は……『妖怪人たらし』についてだ」
涼が珍しく声を上げて笑い、浅野と鉄もゲラゲラと笑い出す。
初めての合同会議は、ひよりが帰宅するまでの間、笑いの絶えない温かな時間となった。
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