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【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】  作者: 道雪ちゃん


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示した道、それぞれの道

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

 世田谷ダンジョンでの「地獄のピクニック」の翌週。

 

 11月某日の平日のこと。


 ひよりは大学の構内で、前方を行く見覚えのある背中を見つけ、パッと顔を輝かせて駆け寄った。


「おぉ! 田崎くん、吉川くん!」


 小走りであどけなく近づくその姿は、可憐な女性のようなものだ。


 だが、声をかけられた二人の反応は、まるで死神に心臓を掴まれたかのようだった。


「ひっ……!? み、三上……くん」


 田崎は顔を引き攣らせ、必死に「普通の表情」を取り繕おうとするが、額からは嫌な脂汗が噴き出している。


「世田谷ダンジョンはお疲れ様! 君たちにはなかなか会えなかったからさ。挨拶できて良かったよ!」


「ご、ごめんなさい……。ちょっと体調が優れなくて、あまり出歩かないようにしてるんだ」


「えっ、大丈夫? 確かに顔色が悪いよ。無理しちゃだめだよ?」


 ひよりが心底心配そうに覗き込むと、田崎の脳裏にはあの日の激痛と、黒い靄に消えた指の幻覚が鮮烈に蘇る。


「あ、あ、ありがとう……。吉川、行こう」


「み、三上先輩、し、失礼しますッ!!」


 逃げるように背を向けた二人に、ひよりが「あ、ねぇ二人とも」と声を被せた。


 ビクッ、と同時に肩が跳ね、石像のように固まる二人。


「……約束、忘れてないよね?」


 小首を傾げ、純粋な確認として放たれたその笑顔。


 だが、それは「裏切ればケジメだ」という絶対的な宣告として彼らの鼓膜を震わせた。


「だ、大丈夫です……! も、もちろんです……!!」


 吃りながら、二人は脱兎のごとく去っていった。


「あぁ、よかった! おまじないもあるし、あの二人は大丈夫だよね」


 ひよりは満足げに頷き、彼らの精神に潜む「死の強迫観念」に気づくことなく、昼食を求めて歩き出した。



………



 学食の入り口で、浅野に声をかけられた。


「三上! 一緒に飯食おうぜ! ダンジョンのお礼に、今日は俺の奢りだ!」


「そんな、いいのに……。でも、お言葉に甘えちゃおうかな!」


 二人は食券を買い、騒がしい食堂の席についた。


「そういえば、土屋くんや長岡くんたちに会ったよ。彼ら、正式にパーティを組んだんだってね。エンジョイ勢じゃなく、覚悟を決めて探索者を極めるって言ってたよ」


「三上たちが道を示してくれたからなぁ。……で、俺もやる気になったんだ」


「浅野はどうするの?」


 ひよりの問いに、浅野は少し照れくさそうに頭を掻いた。


「俺は、穂乃と瑠奈、それに栞から誘われてさ。……パーティを組むことになった。男一人で、しかも俺だけが先輩だから、ちょっと気まずいんだけどな」


 聞けば、あの探索の後に和解した穂乃と栞が話し合い、フリーだった岡田瑠奈を交え、後日打ち上げをしていた際に意気投合したらしい。


 最後のピースとして、ひよりと仲が良く、鉄からも「センスがある」と太鼓判を押された面倒見の良い浅野に白羽の矢が立ったのだ。


「いいメンバーだね! タンクの浅野、アタッカーの穂乃ちゃん、支援の岡田さん。何より、そこに寺本さんが入ってくれたのが俺は嬉しいよ!」


「あいつ、元々は姫扱いでワガママ放題だったからな……。探索者としてだけじゃなく、人間としても三上が変えてくれたんだよ。ありがとな」


「やめろよ、大したことはしてないって!」


 浅野は真剣な眼差しで「いや、お前が栞を改心させなかったら、今頃このパーティの話はなかったと思う」と感謝を口にした。


「……あ、それでさ。テッちゃんと涼さんに話があったから、今日、三上の拠点に行ってもいいか?」


「今日は空いてるから大丈夫だよ! 透に連絡しておくね」


 二人がそんな話をしていた時、奥から元気な声が響いた。


「やっと見つけた! 三上先輩!!」


「もう、栞! 大きい声出さないでってば!」


 駆け寄ってきたのは、穂乃と栞だった。


「穂乃ちゃん、寺本さん。今浅野から聞いたよ、パーティ結成おめでとう!」


「ありがとうございます! 先輩、今後ともご指導よろしくお願いします!」


 穂乃が輝くような瞳で礼を言うと、隣で栞が不満げに口を尖らせた。


「……栞も、お願いします。……それと、三上先輩。寺本さんは嫌です! 栞って呼んでください。穂乃は穂乃ちゃんなのに……ダメ……ですか?」


 上目遣いでひよりのジャケットの裾をきゅっと摘まむ栞。


 その仕草には、以前の傲慢さは微塵もなかった。


「う、うん……わかった。じゃあ、呼び捨てじゃなくて、栞ちゃんって呼ぶね。浅野、これが『姫』の意味なんだね」


 苦笑いを浮かべる浅野と穂乃。


「そういえば、どんな話をされてたんですか?」


「パーティの話と今後のことで、三上の拠点に今日お邪魔させてもらうって話だよ」


「え、三上先輩の家……」


「栞も行きたいです!浅野先輩と同じパーティなんだし…」


 1年生コンビが目を輝かせている。


「うーん。わかった。あ、それなら岡田さんも大丈夫なら連れてきな!それも透に伝えておくね。」


「ゲッ…」


「えっ」


「ううん、なんでもないです…」


 栞は透が苦手だった。


 確かに自分の行いが悪かったと反省しているが、口でも実力でも勝てず、更にはあの何か悪いことを企んでいる目。


 確実にターゲット(おもちゃ)にされると思っていた。


「ごめんな三上…。よろしく頼む!」


「いいんだよ。聞けるときに聞いておかないと、危険がついてまわることだから。友人が大怪我したなんて聞きたくないもん」


「……三上、なんでお前は男なんだ……。女の子だったら今すぐ嫁にしたいッ!!」


「お姿だけなら、この大学でもトップクラスに可愛いと思いますけどね……」


「三上先輩可愛い……しゅき……」


「もう、からかわないでよ!」


 あはは、と笑い合う4人は放課後の合流を約束し一旦解散となった。


歩きながらひよりは透に電話をかけた。


「もしもし、透? 今大丈夫?」


『こちら参謀。……どうした、ボス』


「何だよその喋り方。……なんの真似?」


『いや、テッちゃんと映画を観ていてな。少し試したくなった。……それで?』


 ひよりは子供かよ…と思いながらも、浅野たちが遊びに来る件を伝えると、電話越しの透の気配が微かに揺れた。


『わかった。掃除はテッちゃんがピカピカにしてある。夜の食べ物は……ふむ、何か考えておこう』


「助かるよ、ありがと!」


『いえいえ。では、気をつけて帰ってきてくれ』


 通話を切った透は、スマホをポケットに収めると、暗い笑みを口元に浮かべた。


「……面白いことになってきたぞ。あの子たちの『教育』、そしてひよりんの交友関係の整理……。これはテッちゃんと打ち合わせが必要だな」


 ケケケ、と不気味な笑い声を上げながら、透はスパイ映画を観ながら、家の中でスパイごっこをしている鉄のもとへと歩き出した。


 ひよりが願う「友人パーティの安全」が、参謀の手によってどのような「舞台」に変わるのか。


 それは、放課後のお楽しみであった。



………



講義が終わり、夕闇が迫り始めた大学の待ち合わせ場所。


そこには、新パーティを結成した4名が既に揃っていた。


「ごめん! お待たせ!」


 ひよりが笑顔で駆け寄ると、浅野が柔らかく手を振る。


「いやいや、大丈夫だよ」


「メンバーで話す時間もなかなかないので、いい時間になりましたから」


 穂乃が凛とした笑顔で答え、その横では栞が既にひよりのジャケットの裾をぴったりと掴んで離さない。


「三上先輩、ご招待いただいてありがとうございます。……この人数で申し訳ありませんが、よろしくお願いします!」


 瑠奈が丁寧に頭を下げると、ひよりは「こちらこそ、みんな一緒がいいと思ってね。……涼も家で待ってるよ」と優しく返した。


「キャッ……!」


 涼の名前が出た瞬間、顔を赤らめて喜ぶ瑠奈。


「るなち、涼さんのファンになっちゃって。あ、萌華ちゃんもです!」


 栞がクスクスと笑うと、ひよりは「涼は人気者だなぁ」と感心した様子。


「人気者のお前が言うなよ……」


 浅野の鋭いツッコミに、みんなから笑いが漏れた。


 一行はひよりに連れられ、神楽坂へと足を踏み入れた。


「いい街だなぁ。来たことがなかったけど、住みやすそうだし、探索者としてもショップが近かったり好立地だな」


 浅野が感心したように街並みを眺めると、女子たちのボルテージも上がる。


「なんかおしゃれな街で羨ましい。栞も住みたい!」


「私もです! 探索者として生活できるようになったら考えようかな……」


 穂乃も将来の夢に胸を躍らせ、瑠奈が「シェアしようよ!」と提案する。


 キャッキャと盛り上がる女子3人を前に、浅野は気まずそうに苦笑いした。


「さすがに女子大生の中で生活する勇気はないからな。でも、俺もここらへんに住むことを目標にして頑張るわ」


「そしたら、うちの拠点でミーティングしてくれてもいいし、アドバイスもできるからそうしなよ!」


 ひよりの言葉に歓喜する女子たち。だが、ひよりは一つ指を立てた。


「だけど、一個条件がある。……ちゃんと学業を頑張ること。俺たちは学生なんだから、それをおろそかにしちゃいけない。まぁ、しっかり者の透に言われてることなんだけどね」


「三上はもう探索者として余裕で生活できるのに、しっかり学業をやってるのはそれが理由か」


 浅野が納得すると、穂乃がパーティの面々を見渡した。


「うちでしっかり者なら……瑠奈か」


「確かにるなちなら任せられる! 栞はそういうの無理!」


「一応まとめられるけど、リーダーの浅野先輩と連携してやっていくよ。浅野先輩、よろしくお願いします!」


 瑠奈の言葉に、浅野も「よろしく頼むよ」と力強く頷いた。



 やがて、立派な一軒家が見えてきた。


「みんな、あそこがうちだよ」


「うわぁ、いい家!」


「三上先輩はここで生活してるんですね! 色々チェックしなきゃ……」


 栞が何かを企むような表情を浮かべたその時、家の前で一人の男が待っていた。


「お疲れ様っす、ボス!」


 鉄だ。


 私服姿の彼に、ひよりは「待ってたの? ありがとう」と声をかける。


「いえいえ。なんか、透ちゃんが心配してたっすよ。……優吾! 待ってたよ!」


「テッちゃん、いきなり来ちゃってごめん。今日はよろしくお願いします」


 浅野に続き、女子三人も深々と頭を下げた。


「おう、みんなよろしくな! ボス、アニキと透ちゃんも待ってるので」


 ドアを開けると、リビングには私服姿の透と涼が待っていた。


 涼の姿を見た瑠奈が、期待通り目を輝かせる。


 だが、透はひよりを見るなり首を振った。


「やっぱりね。メッセージ見てないでしょ?」


「え、どうしたの?」


「ひよりん、今日小林鍛冶店にメンテナンスと相談に行くって言ってたからメッセージ入れたんだけど。既読がつかないから気づいてないなと」


「あぁぁぁ……! ごめん! 忘れてた……!!」


 頭を抱えるひよりに、透は淡々と、だが有無を言わせぬトーンで告げた。


「こちらで浅野くんたちを預かるから、行ってきたらいいよ」


「浅野、みんな、ごめん! 近くの店だからすぐ戻るね!」


 ひよりは風のように拠点を飛び出していった。その異常な速さに、浅野は呆然とする。


「外でもあの動きなのか……」


「まぁ、ボスもすぐ戻られるだろう。みんな上がってくれ」


 涼に促され、リビングに通される一同。


 だが、栞だけは、メガネの奥で「面白いおもちゃが来た」と笑っている透の視線に気づき、嫌な汗を流していた。


(ゲッ……確実にターゲットにされる……!)


 ひよりという緩衝材が消えた拠点で、栞への「洗礼」が始まろうとしていた。


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― 新着の感想 ―
栞<<<透。蛇に睨まれた蛙や、このパワーバランスは永遠に覆せないやろなぁ・・
地獄(で)のピクニック 真面目な子達は日本昔ばなしで鬼拝んでた婆さん並みに地獄で手厚く歓待されてピクニックを楽しめる 不真面目な輩は文字通り鬼に地獄をピクニック(地獄めぐり)させられる
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