秋葉原ダンジョン:9層「魔導管理区画・制圧戦」
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秋葉原ダンジョン9層、その最奥部。
無機質な金属音が反響する巨大なドーム状の広場に、その「心臓」は鎮座していた。
《魔導通信塔・リンクコア》。
鉄骨と魔導基板を寄せ集めたような塔状の躯体からは、無数のアンテナと魔導ケーブルが蜘蛛の巣のようにフロア全域へと伸びている。
それは単なるモンスターではなく、この階層全体の戦術ネットワークを支配する「司令塔」そのものだった。
「……なるほど。力押しじゃ、少々面倒な相手だな」
片倉志乃は小さく息を吐き、腰の二振りに手をかけた。
左の『月読』が周囲の魔力を静かに吸い寄せ、右の『日向』が低く熱を孕んで脈動を始める。
志乃が踏み出そうとしたその時、リンクコアの頂部にある巨大な水晶核が不気味に明滅した。
――ガガッ……目標捕捉。排除シーケンス、開始。
無機質な音声がスピーカーから響くと同時に、フロアのハッチが次々と開き、地中から「兵」たちが這い出してきた。
「しーちゃん、来ます! ゴーレムの集団です!」
後方で構えるひよりの声。志乃はその愛らしい声に背中を押されるように、唇の端を僅かに吊り上げた。
「ああ、見ていてくれ、ひよちゃん。……涼殿、鉄くん。奴らの『連携』を断つ。左右を頼めるか?」
「承知いたしました」
「応ッ! 一匹も通さねえっすよ!」
現れたのは、二十体を下らない《演算魔導兵・ロジックゴーレム》。
人型に近い中型ゴーレムで、関節部には青く光る魔導演算核が埋め込まれている。
単体での動きは単調だが、リンクコアからの通信を受けることで、彼らは「一つの巨大な多脚生物」のように、寸分の狂いもない波状攻撃を仕掛けてくる。
ドォォォォンッ!!
一斉に踏み込んでくるゴーレムの重低音。
鉄がトンファーを盾にその突進を受け止め、涼が魔銃の連射で敵の足並みを乱す。
だが、倒しても倒しても、ゴーレムたちの動きは鈍らない。
それどころか、破壊されたはずの機体が、後方から現れた小型の《保守型ゴーレム・メンテナ》の手によって、瞬時に火花を散らしながら再起動していく。
「……回復役か。戦場の理に則った、忌々しい布陣だな」
志乃の瞳が冷たく細められた。
メンテナが通信網を介してエネルギーを供給し続ける限り、この前衛は不滅の壁となる。
志乃は一歩、強く地面を踏みしめた。
「私の領分で、勝手に動くなと言っている」
――スキル《威圧》。
志乃を中心に、漆黒の魔力が円を描くようにフロアへと広がった。
その瞬間、空気の重度が物理的に増大する。
リンクコアのアンテナ群が激しいノイズを吐き出し、ゴーレムたちの関節部にある演算核が、過負荷に耐えかねて悲鳴を上げた。
「ガ……ギギッ……通信、障害……再起動……」
「再起動は許さん。処断する」
志乃の姿が、掻き消えた。
――縮地。
加速という概念を超えた移動。
志乃が最初に狙ったのは、後方で修復作業を続けていたメンテナの集団だった。
『日向』が深紅の軌跡を描き、熱傷を伴う一撃がメンテナの装甲をバターのように切り裂く。
同時に、逆手に構えた『月読』が、メンテナが貯蔵していた修復用の魔力を根こそぎ奪い取った。
一体、二体、三体。
志乃が通り過ぎるたびに、無機質な作業機械たちは沈黙し、ただの鉄屑へと成り果てる。
後衛を失い、さらに志乃の威圧によってリンクコアとの同期を阻害されたロジックゴーレムたちは、もはやただの「動く標的」に過ぎなかった。
「鉄くん!」
「おうよ! 散れッ!!」
鉄のトンファーによる一撃がゴーレムの姿勢を崩し、生じた隙間に志乃が滑り込む。
「サービスだ。――双刃制圧」
交差する二つの刃。
月読が魔導演算を食らい、日向が物理的な芯を断つ。
連携を失い、統率が甘くなったゴーレムの集団は、志乃の流麗な剣技の前に次々と瓦解していった。
フロアを埋め尽くしていた兵たちの残骸が転がる中、ついに志乃は、その「根源」であるリンクコアの目の前へと辿り着く。
「……さて。通信塔のくせに、統率が甘いな」
志乃が冷たく言い放つと同時に、リンクコアが最後の抵抗を見せた。
塔の全アンテナが天を仰ぎ、暴走気味の魔力が水晶核へと集束していく。
フロア全域を焼き尽くすほどの、大規模広域魔導砲撃のチャージ。
「しーちゃん、危ない!!」
ひよりの叫び。だが、志乃は微塵も揺らがなかった。
それどころか、彼女は刀を正弦に構え、深く腰を落とした。
「ひよちゃん。……、しっかりと目に焼き付けておいてくれ」
――二天一流・月華。
放たれた魔導ビームが志乃を飲み込もうとした瞬間、銀と紅の円が支配領域の内側で完成した。
月読が光条の魔力を吸い上げ、日向がその熱量を斬り裂く。
ビームは志乃に触れることさえ叶わず、二つの刃が描いた円環の軌跡に沿って四散した。
志乃はそのまま、爆風を突き抜けて跳躍する。
「仙台なら、ここまで来る前に撤去されているぞ」
空中で交差した二振りが、巨大な水晶核へと吸い込まれる。
日向が核を貫き、月読がその内部に蓄積された全エネルギーを吸い尽くす。
パリンッ――という、乾いた音が響いた。
九層の支配者であったリンクコアから光が失われ、巨大な塔が自重に耐えかねてゆっくりと傾いていく。
志乃は鮮やかに着地し、背後で崩壊する塔を一度も見ることなく、ゆっくりと刀を鞘に納めた。
カチッ、という硬質な音が、静寂を取り戻したフロアに響く。
「……9層。制圧完了だ」
志乃が振り返り、ひよりに向けて少しだけ照れくさそうに、しかし誇らしげに微笑んだ。
その背中、その剣筋、その佇まい。
それは間違いなく、仙台の探索者をまとめる「女帝」そのものの威厳に満ちていた。
「しーちゃん……!! かっこよすぎるよ!!」
ひよりが目を輝かせながら駆け寄ってくる。
志乃は心の中で(勝った……! ひよちゃんにカッコいいところ見せられた……!!)と猛烈なガッツポーズを決めつつ、表面上は「ふふ、これくらい当然だ」と涼しげに頷くのだった。
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