免許センターで笑われた件
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば直しております。
2024年9月。 世界中で、突如としてダンジョンが出現した。
ニュースは連日その話題で持ち切りだったが、俺、三上ひよりは「なんかすごいことになっちゃったなぁ」と、どこか他人事のように眺めていた。
生まれた日は雲ひとつない穏やかな天気で、両親は「ひより」と名付けたらしい。
「穏やかで、優しい子に育ちますように」
その願いが、二十年後に「世界から笑われる存在」として認定される呪いになるなんて、この時は想像もしていなかった。
俺は大学2年生、20歳。 学業とバイトを適当にこなす、ありふれた若者だと思う。
平凡で、真面目で、争いごとは大嫌い。
名前のことも重なり、よく女の子みたいだといじられているのが悩み。
祖母からは「ぴよちゃんは優しくていい子だねぇ」と言われて育った。
そんな俺が、年末のこの日向かったのは――探索庁東京本部の世田谷支所ダンジョン免許センターだった。
「いらっしゃいませ」
受付の女性は、名札に「免許担当:佐藤」と書かれている。 いかにも仕事ができそうな美人さんだ。
「身分証と通知書をお願いします。……はい、確認いたしました。では、こちらに手を置いてください」
水晶のような装置に手を置く。 これで職業やスキルが決まるらしい。ネットの情報によれば、ここで人生の勝ち組か負け組かが決まるとか。
「……えっ」
佐藤さんの手が止まった。 一瞬目を伏せ、口元を震わせている。
「……なにこれ……職業、チ、チンピラ……ですか? どこのデータベースにも、ありません……っ」
「……はい?」
思わず変な声が出た。 佐藤さんは顔を真っ赤にして、必死に笑いを堪えている。 いや、職業チンピラってなんだよ。もっとこう……剣士とか、魔法使いとかあるだろ。
彼女が震える手で提示してきた、俺の公式データがこれだ。
【探索者登録データ】
名前:三上 ひより レベル:1 職業:Lv.1チンピラ
スキル:
威圧 Lv.1 / かつあげ Lv.1 / 逃げ足 Lv.1
「……あ、っく……ふぅ。……はい。お待たせしました、三上さん」
佐藤さんは必死に真顔を作ろうとしているが、肩が小刻みに揺れている。 周囲の係員たちも、俺のデータ端末を覗き込んでは、次々に吹き出していた。
「三上さん、あなたの職業『チ、チンピラ』は、おそらく世界で一人だけのユニーク職だと思われます」
ユニーク職。 本来なら選ばれし強者に与えられるはずの、栄光の称号。 なのに、俺の背中に刺さるのは尊敬の眼差しではなく、痛烈な「同情」と「失笑」だった。
スキルの字面も最悪だ。 『威圧』に『かつあげ』に『逃げ足』。 真面目に生きてきた俺の人生に、欠片も掠っていない単語が並んでいる。
「……あ、ありがとうございます」
講習を受けている間も、内容は一切頭に入ってこなかった。 唯一覚えているのは、免許証を所持して『ステータスオープン』と唱えれば詳細が見れるということだけ。 あとは、佐藤さんの引きつった笑顔と、周りのひそひそ話ばかりが耳に残る。
書類にサインをし、交付された免許証を受け取る。 真面目そうな俺の顔写真の横には、くっきりと印字されていた。
【職業:Lv.1チンピラ】
この理不尽な肩書きが、俺の人生を一気に狂わせることになる。
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