第4演目 放送部
第4演目 放送部
「……よし、BGMスタート!」
クラスメイトの合図とともに、
スピーカーから不気味な音楽が流れ出した。
「……たすけて……」
掠れた声。
突き刺さるような女性の悲鳴。
クラスメイトたちが録音した、
“ホラー音源”の詰め合わせだ。
暗幕の向こうからは、
「今の悲鳴、めっちゃリアルじゃない?」
「音源最高!」
「ここ、急にライト消した方が怖くない?」
そんな、はしゃいだ声が聞こえてくる。
私の役割は、
迷路状に張り巡らされた暗幕の途中、
段ボール製の棺桶から飛び出す、
ドラキュラ伯爵役。
ふと後ろを見ると、
暗幕がわずかに外れ、
窓の外に大勢のお客さんの姿が見えた。
——せっかくのお化け屋敷だ。
私は慌てて暗幕を引き寄せ、
ピンで留め直す。
「みんな! もうすぐお客さんが校舎に入ってくるみたい! そろそろ準備して!」
その声を合図に、
私は棺桶の中へ身を潜めた。
プラスチック製の牙を、
指先でなぞる。
——その時だった。
スピーカーから、放送部の声が流れる。
『放送部よりお知らせです。
ただいま中庭では、焼肉同好会による
肉巻きおにぎりを販売中です。 一 本 五 百 円』
区切りのいい、いつもの口調。
『私も一本いただきましたが、
お肉がとってもジューシーで――』
一瞬、言葉が詰まった。
『……えー、ぜひ皆さん、お越しくださ――』
軽い咳払い。
『続きまして、B棟二階にあります、
一年A組の、お化け屋敷のご案内です』
少し早口な、聞き慣れた声。
『本物さながらのお化け屋敷たちが、
皆さんを、恐怖の――』
声が、裏返った。
『……あれ?』
放送室で、
マイクが何かに触れたような音。
『え、ちょっと待って…… 今、スペシャルゲストで、 一年A組の方が――』
一拍。
『……いや、すごいですね……
ゾンビメイク……ですよね?』
息を呑む気配。
『……まるで、ホンモ――』
そこで、音が途切れた。
代わりに聞こえてきたのは、
バリ。
ボリ。
湿った、咀嚼音。
『……っ、やだ……』
小さな、引きつった悲鳴。
『ちが……これ…… ちが……』
——ガタン。
マイクが床に落ちる音。
『――――――』
ザー……ピー……
校舎中のスピーカーから、
ノイズだけが流れ続ける。
沈黙の中、
クラスメイトの声が聞こえた。
「おー、放送部、演技凝ってるなー」
「気合入ってるじゃん!」
「これでお客さんいっぱい来るといいね」
「原稿めっちゃ良くない? 誰が書いたんだろ。
アカデミーものみたい」
——その瞬間。
段ボール製の棺桶の中で、
私は、ふと思い出した。
放送部用の原稿を書いたのは、確かに私だ。
けれど。
あんな文章は、書いていない。
棺桶の隙間から漏れる、
赤いライトを見つめながら。
理由の分からない不安が、
静かに、胸の奥に沈んでいった。




