獣
血に飢えた獣が、襲いかかってくる。一歩、また一歩と確実に距離を縮めて。
「まずい…!逃げるぞ、ヘド!」
咄嗟に足を前に出そうとするが、雪に足を取られてうまく動けない。ヘドも苦戦していて、思ったより速度が出ない。
そうしているうちにも、獣は己の道を掻き分け、迫ってくる。速い。視界が埋め尽くされる。
「くっそ…これでも、喰らえ!!」
光を跳ね返し飛翔する氷柱。
しかし、宙に舞い上がる粉雪に紅みは含まれていない。
大きな咆哮。鼓膜を大きく震わせ、腹にずっしりと響く。
空に掲げ振り払った前足を、間一髪避けた。
木が倒れる音だけが、後に残る。
「どうする…どうする?」
焦る感情。高鳴る鼓動。
杖を強く、握りしめる手が震える。寒いからか?
「テレンさん!目を!!」
目?どういう…。
「…!わかった」
もう一度、氷柱を創り出し、投げつけた。
狙う場所は、目ん玉。
唯一、外部に出ている内臓目掛け、思いっきり放つ。
一本の光が、冷えた空気を裂き、
…獣の視界を掠め取った。
咆哮。ついで薙ぎ払い。
巨大な腕が視界を奪う。
咄嗟に土の壁を生み出した。
薄く、脆い。故に一撃で砕かれる。
宙に舞うかけらを獣の目がとらえる。
しかし、その先にいたはずの獲物は消え去った。
狭くなった視界のその奥で、獲物が逃げている。
先ほどまでここにいたあの獲物が。
それこそがテレンの狙い。
一瞬、しかし確実に視界を遮り、その時間で獣を錯乱した。
後方で再び、空気が震えた。
木々を操り、獣の進行を邪魔する。
…幾度とそれを繰り返し、気づけば獣の気配は消えていた。
振り返るとそこには、入り乱れた植物の枝と、足跡だけが残っていた。
「は〜、危なかった。本当にヒヤヒヤした」
「…テレンさん、もう少し考えて戦ってくださいよ!ちゃんと相手を分析して!」
「ぐう」
「………」
視線が痛い。
そうは言っても、あんな危ない状況で視野を広く持つのは難しい。私は少なくとも無理。
「まあ、なんとかなったんだし。それよりささっと行こう。お昼までには行きた…」
背後から茂みを掻き分ける音。獣か?
「あらあら、物音がしたと思ったら。テレンちゃんだったなんて。久しぶりね」
「久しいな、テレン。元気か?」
詰まりかけた息を吐き出して、
「…ああ。うまくやってるさ。アニ、ディス。久しぶりだな」
旧友にそう言った。
おお




