弟子 人の温かさ
「おいおい…そりゃあどういう冗談…」
…いや、声色と表情からは嘘とは思えない。
じゃあなんだ?こいつも魔女ってことなのか?
「…あー、どうして片目がないんだ?それは生まれつきか?」
「…いえ…生まれつきでは…ないんです。…少し、ヘマをして…」
「ヘマって、おまえ…どんなことすりゃあ、そんなふうに…ああいや、言いたくないなら言わなくていい。人には触れてほしくないものがあるからな」
早口で捲し立て、口を閉ざした。
生まれつきじゃないが、片目が無い。しかも何処からきたか分からない。本当にこいつは何者だ?
空気が重たい。変なところで切り上げたせいだ。俯いたヘドの表情はうまく読み取れない。けど、いい表情をしてい無いことだけは容易に想像ができた。
「……あー、えっとだな…。ヘド、おまえはどうしたい?」
「…どうとは?」
「この先どうしたいかって話だ。近くの村で暮らすか、元の親の場所に戻る…」
「絶対に嫌です」
「あ、そう…」
びっくりした。驚くほど早い返答。もしかしたら、親とのいざこざから、家を出てきたのかもしれない。いやもしかしたら…
「あ、あの…」
おっと、思考の沼に足を持っていかれそうだった。
「なんだい?」
「…その、僕を…」
言葉が喉を通らないようだ。
「僕を弟子にしてくれませんか…?」
しかし、通り抜けたその言葉は私を驚かせるのに十分だった。
「弟子?私の?」
わけが分からない。魔女の弟子になって得することなんてほんの少しもない。それこそ、そこらにある辺境の村で、畑でも耕していた方がいい人生を送れるはずだ。
「なぜ急にそんなことを?」
「…過去を、そして今までの関係を、全て断ち切る力が欲しいから」
真剣な視線が、私を貫いた。
確かな意志と、果てしない憎悪を含んでいた。
何があったかはわからない。ただ、彼にそう思わせるのに十分だったことはわかった。
そして、私にはその気持ちが少し、分かる。
あの時の感情が騒いでいた。
「…わかった」
しっかりと、頷いた。
その言葉に、ヘドは安心したような表情を浮かべた。
「…って言っても、私が教えてやれることは、そう多くないぞ?」
「全然大丈夫です!僕からすれば、全てが新しいことなので!!」
「…ああ、まあそうか…とりあえず、明日知り合いのところに行こう。私より、良いことを教えてくれるだろう」
「でも、僕の師匠はテレンさんだけです!!」
「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいね」
思わず笑みが溢れた。可愛いやつだ。
ーーー
安堵したためか、疲れが抜けきっていなかったためか、眠気が意識を奪いにきた。
「ほら、こっちへ来い。ベッドが一つしかないが、まあ、問題ないだろ」
「えっ、いや、自分は毛布にでも包まれば大丈夫です!」
師匠に迷惑をかけてはだめだ。それに、いつもそうだったし…。
「風邪ひいたらだめだろ?遠慮するな。それに、無駄にでかいベッドだからな」
「…じゃあ、お言葉に甘えて…」
そうして、勧められるがまま、身体を任せた。柔らかい素材が、身体を優しく包み込む。今までに感じたことのない感覚だった。
「じゃ、おやすみ」
「…はい」
少しずつ体が冷えていく。ああ、また冷たい夜が来るのか。寒さに震え、自身の中にある小さな温かさに身を寄せる夜が。
…そう思っていたが、今日は少し違った。冷えていくはずの身体が、温められていく。自分ではない、誰かからの温もりを感じて。
同時に、自分に足りていない何かが、少しずつ満たされていくように思えた。
今日はぐっすり寝れそうだ。
はい




