青年期 朝
2章、大人になれない僕ら
ということで、ここから2章。完結は未定です
「おーい、ヘド。早くこいよ!」
少し低くなったシュンの声。
手に持つ剣が、光を吸収し鈍く輝いている。
「ああ、今行くよ」
「なんだ?また考え事か?」
「いや、なんでもない。それより、ディスさんが待ってる。早く行こう」
剣の重みを感じながら、舞い散る桜の中、走る。
15歳。僕らは少し、大人になった。
師匠と出会ってから8年。忙しない日々は瞬く間に過ぎ去っていた。
背丈も大きく伸びて、いつのまにか、師匠見上げることもなくなり、顔を見ようにも帽子に遮られることが多くなった。
友達のところを訪れる習慣は、変わらない。
ただ、今は遊んでばかりいるわけじゃなくて、勉強と鍛錬の時間が増えた。まあ、戦闘に関することをするか、学問に関することをするかである程度、別れてはいたけど。
いつか、世の中に出ていく時を見据えて。
ただ、僕にはそんな時が来るのだろうか?そもそも、師匠との関係はいつまで続くんだろうか?最近は、そんなことが頭を駆け回っていた。
「…そうだよな、ヘド」
「何が?」
「いや、やっぱり将来が不安だよな。このまま鍛錬してて、騎士になれるのかなって。お前もそう思ってるだろ?」
「…ああ、そうだね」
少し、見据えている将来が違う。けれど、考えることはあまり変わらない。それもそうだ。
こうやって、社会から隔絶された土地で暮らしてる。だから、人間の社会がどうなってるのか、どんな暮らしなのか。わからないことだらけだ。
「はあ…一回でもいいから、街に行きてー!」
「行くわよ?」
「え?」
「アニさん、どういうことですか?」
「ふふっ。君たちも、もうすぐ大人でしょ?その前に社会を見に行こうと思ってね。明日出発するから、準備しておいてね〜」
そういって、戻って行った。
「…なんじゃそりゃ」
手から抜け出した剣が、散乱する花弁を突き刺した。
ーーー
春の朝。
肌に突き刺さる冷たさが、意識を現実に引き込む。ただその感覚も、温もりが和らげてくれる。
隣で眠る師匠を横目に、身体を起こした。
相変わらず、大きなベッドを2人で使い、夜を過ごしている。
「…師匠、朝ですよ」
「……あと5分」
「そういって起きたためしがないじゃないですか。今日は街に行くんですよ。覚えてますか?」
「………」
また、意識を深く沈ませていた。
この8年間で分かったことは、師匠は朝が弱い。弱すぎる。いつもの調子で軽い口を叩けるようになるまでに、1時間は有にかかるほどだ。
師匠をじっと眺め、
「…はあ…」
不意にため息が出た。
これは呆れなのか、それとも…。
…布団に残る温もりに別れを告げ、朝食の準備を始める。パンと暖かいスープを盛り付けると、再び師匠の元に行く。
「ほら、師匠。もうご飯もできてますよ」
「…ああ…分かった…」
目を擦る師匠に眼鏡をかけ、食卓に連れていく。
「いただきます」
「…いただきます」
そして、無言の朝食が始まった。
今何を話しても、大抵中身のない返事しか返ってこない。自然と、朝ごはんを食べながら話すことは無くなっていった。
それと、師匠は食べるのが遅い。というよりも、朝はぼんやりしているからだけれど。だから、いつも僕が先に食べ終わり、余った時間で師匠の髪を解いていた。
水色の、透き通るような髪。
長く伸びたその髪を、少しずつ丁寧に。
いつ始めたかは忘れたけど、たしか、師匠の髪がありえないほど跳ねていたからだと思う。
「はい。終わりましたよ」
「…ありがとう。ふあぁ〜」
「さ、いきますよ」
その小さな手を引っ張って、家を出た。




