林檎 信頼
「ディス。30秒だ。時間をくれ」
「わかった」
その瞬間、ディスさんの周りに3本のレイピアが現れ、回り始める。
「弟子が世話になったみたいだ。少し、相手してやる」
うち一本を手に取ると、瞬く間に距離を詰め、突き刺し、薙ぎ払う。
木々をも壊す連撃を、華麗に躱す。
美しさも感じるその戦い方。
本当の騎士のようだ。
しかし、両の手が逃げ場を掻っ攫う。
絶対に避け切れない。
「少し、乱暴だな」
片方を剣で、もう片方を腕で止めた。
普通であれば意図も容易く切り刻まれるであろうその腕が、光を吸収して、鈍く輝いていた。
義手だ。ディスさんが能力のために失った部位は、片腕だった。
その腕を巧みに操り、勢いをのせた一撃を繰り出す。
どれほど鍛錬したのか、どれほどその状態で戦ったのか。
僕には到底計り知れなかった。
「30秒。時間だ」
宙に浮く剣が、その腕を突き刺した。
胴体を大きく見せた相手。
「くたばれ。クソ野郎」
身体の中にうまく隠れた林檎。
それに果物ナイフが入れられた。
咆哮が大気を大きく震わせる。
最後の力を振り絞り、拘束を振り解くも、その頭に、3本の剣が突き立てられた。
そして林檎は腐っていった。
「ヘド!大丈夫か?!」
「…師匠…ありがとうございます」
「よくやった。本当に、よくやった」
ぎゅっと抱きしめられた。肺が締め付けられ苦しさを、今はもう少し感じていたい。
「帰るぞ。他の子供はアニが向かってくれている」
「…ああ、そうだな。行こう」
「あの、師匠?僕、歩けるんですけど」
「馬鹿。怪我してるんだから、無茶するな」
「…はい」
その背中は、僕が思っていたよりもずっと大きかった。
ああ、こんな僕でも信じていいんだ。こんな僕でも、大切にしてくれるんだ。
…やっぱり。
「…師匠」
「なんだ?」
「僕について、何も話してなくてすみません。でもやっぱり、話しておこうと思います」
「そうか。そんなに焦らなくてもいいと思うけどな」
「いえ…僕が、断ち切らなければいけないのは…」
一息吸って、こう言った。
「母親です」
これにて一章完結。うおーいえーい




