7話 そうなる気はしてたけど
また、男の声があった。
「引っ込んでいても何も変わらないぞ? 顔ぐらい出したらどうなんだ? 別に抵抗しなければこちらも手は出さないのだが」
古本屋に入ったときから一応隠れてますという意識もとい自己満足で、ホコリまみれの本棚の影に屈み込んでいたのだが、なんとか隠れて見えないようだ。バカみたいな初心者意識はときに正解になる。
どうやら面ぐらい拝みたいらしいが真意が分からない。迂闊に頭を出して、頚鄭羽じゃ話にならない。
状況整理
・巻き込まれて逃げている
・相手の顔も名前も知らない
・この廃ビルの今いるところより上はなくなった
・特異能ならカルアに聞いてみよう(思考放棄)
―そうしよう。ぽーんと脳内に鐘が鳴った気がした!
「カルアサーン? ワタシタチニ知恵ヲクダサーイ」
日本語のおぼつかない外国人のような口振りで有識者に声をかけてみたら声を潜めつつ怒られた。
「ばかっ。迂闊に名前を呼ぶんじゃない! あれは特保局だよ特保局! めんどくさいのに巻き込みやがってこの軟骨魚類風情が!」
「な、軟骨魚類とかっ。巻き込んだのは確かに私が悪いのかもしれないけどそれは流石に言い様が酷くない? 自己紹介だってしてあるのに…。っていうかそもそも異能ってなんなのかもまだ話してもらってないよ?」
(特保局? もしや特定保健用食品が関わって? 道理で歩く鮫を追い回すわけだな…)
とバカな方向に思考を加速させているくるるだったが、そこのバカ二人もそこに論点が辿り着いたらしく、
「そもそも特保局ってなんなのセンセー!」
「頭の悪いフカめ…。特異型異能取締保安局だとか自称しているが一種の結社だぞ! 『管理統制』だったかそんな異能持ちがいるもんだからやけに詳しいことまで管理してやがるがな!」
大層嫌悪を表に出しながらご説明があった。その嫌味っぷりを見るに過去に何かあったようだが…。
そんなことよりも向こうはいつまでも待ってくれるとは限らない。焦燥感に追い立てられながらも作戦会議は始まった。
「で? 一番ここができると嬉しいんだが逃げれそうなのか?」
「まあ無理だろうな」
「そんなことないだろ。車とかさ」
「どうやって手に入れる? 仮に手に入れたとして運転できるか? それと。奴らは車なんかじゃ逃げきれない。一応、世界規模だ。」
「ふぁっ!? いやなんでもない」
とんでもない発言があったが時間が惜しいのは全員が分かっていた。だからこそ決断を焦っていた。
「じゃあどうするの? 私だって詳しいことは分かんないし、そこのー…くるるくん? なんて一般人じゃん。まあ私が戦えるかは分かんないんだけどね…」
「できれば敵には回したくなかったんだがな…。お前を突き出すのが一番の安全策なんだがまあ戦うしかないだろうな。やれるか?」
問いかけにはすぐに応じられた。だって、全員分かっていた。結局手段はこれしかないと。分かっていて抜け道を探して、やっぱりそんなものはなくて、できたことは覚悟を決める。ただ一点。想像通りに話が運んだのだから、すぐに応じる以外にありえなかった。だって、先延ばしにはもうしたから。
「逆に。他に手はあるのかよ」
「それもそうだな」
「私はどーうせやらなきゃいけないでしょーが」
それぞれが影から飛び出すための、ぎこちないながら構えをとった。
「話し合いは終わりか? あまり私の望むところではない決断をしたようだが。」
どうやら向こうも話し終わるのを待っていたようだ。向こうがコインを投げた音がした。随分と気取った合図だった。
その時、確かに不穏な風が辺りを吹き荒れていた。




