6話 もぎ取るのは勝利じゃない
今はとにかく逃げ回れ!
―ハナから正面切って戦うなどするつもりは毛頭ない。『特異能』なぞ使えない一般人と、能力の詳細を教えてくれないポンコツと、身体系? の特異能と思われるが、無知なアホとで戦えるわけがない。ここは校舎裏ではない。相手はチンピラ風情ではないのだ。黒スーツだったし。
だからこそ今考えるべきことは。
「どう撒こうかってなわけですよ」
「具体的になにか案でもあるのか?」
「私にゃ分かんないなー!」
…一人論外が居たけれども今はそれどころではない。そしてここは安直に、
「とりあえずいっぱい曲がろう」
―決定したは良いもののとりあえずここまで走ってきただけで大して道など詳しくはない。行き止まりに当たったらおしまいだ。というわけで必然的に大通りへと向かうこととなったのだが…
「こっちの方が道太いよ!こっちだって!」
「いいや甘いね阿比留。太いからと言ってただガレージがでかい家に繋がっている可能性を考えろ。人の声がするこっちにきまってるね」
意見が割れる二人組は、一喜一憂ばかりである。そもそも今の今まで大通りに出られていない時点でお互いの感性を疑うべきだが、もっと大きな問題が付きまとう。
なぜか今のところ一番変人のはずなのにツッコミ役を買うカルアが幾度目かの忠告をした。
「おいバカども。先刻から何度言えば分かる。大声を出しては意味がなかろう。また来たぞ」
「先刻とか最近覚えたのか?やっぱ特異能持ちって特異能とか言ってる時点で察したけど厨二病なの? カッコつけたがりなの?」
マジで関係ない確信的で核心的で革新的な質問をしてしまうのがくるるなのだ。総合評価は本格的に空気が読めないポンコツ。
「……ッ!! ちがわい! そもそも関係ないだろ早く逃げるぞバカっ!」
「えっ? えっ? 何の話をしてんのさ。私何も分かんないんだけど。私一人だけ輪から外されてんの? 酷くない? ねえねえ? あっ! ちょ置いてっ! やだよ? 置いてかないでっ!!」
そういえば異能について何も知らない氷雨はなんか涙目でかわいそうなことになっていた。
少し走ると商店街に出た。そもそも身体能力が異常に高いんだから氷雨を置いていっても問題はなかった。すぐ追いついてきたし。
「で? カルアここからどうするよ」
寂れた古本屋の置奥で作戦会議をすることとなった。勝手口の鍵は古びて壊れており容易に侵入できたが、埃まみれで少し不穏な雰囲気を纏う空間だ。
さておき聞いてないヤツからの文句と聞いたヤツからの返事があった。流石に全員で声を潜めていたのだが…
「ねえ君たち覚えときなよ? ぜええったい酷い目に遭わせてやるんだからね!」
「どうするも何もこのサメを吊れb」
「やめてっ! これ以上言わせないからっ! 言わせたらダメな気がするっ! 折角だし助けてよぉ… ね? このとおりだから!!」
あくまで対等にありたいらしく、上目遣いなど小癪な真似はしなかったがヤツは大声で土下座を遂行しやがった。
シュッという風を切る音があった。直後、彼らがいたよりもほんの少し上から先のビルが切り取られた。
―若い男の声があった。
「捕縛対象阿比留氷雨を差し出せ。これは警告などではない。命令だ」
「「へ?」」
戦犯と阿呆とは違いそちら側の住人は一人、一つ違う声を上げた。
「げっ…」
筆者は熱です。インフルだと思うなー。体調管理に気を付けて。




