4話 今度こその異常事態
―不味いことになっていた。
「まあいいじゃないのー。気楽に行こーぜ!」
「「お前が言うな!」」
―今度こその異常事態―
なにか起こるような気配はなかった。全くなかったのだ。カルアが降ってきた時、カルアがよく家を空けることに気がついた時、異能の話を切り出された時も。結局なにも起こらなかったのだ。
だからこそ。本当に突然来るものとは思ってもいなかった。もっと「新入生がやってきます」とか、あからさまなフラグでもない限りもう何も起こらないと油断しきっていた。面倒な「サメ」に巻き込まれるまでは…。
記憶を遡っていつ旗がたったのか確認をした。
先日、異能鑑定異能持ちを呼んでくれると言われたのでワクワクしていた来留少年十六歳だったが、向こうの都合でこちらから出向かなければならなくなったのだ。
―ここまではなかった。
取り敢えずカルアが道案内を(自慢げに)するそうなので従うこととなった。玄関で靴を履いた。履きなれた白と黒を基調としたカラーリングの運動靴を。緩んでいた靴紐を結んだ。
―ここまでもなかった。
家を出た。我が家は階段が目の前にあるので敷地の外にいつもより早く出れた気がした。カルアはまだ人工芝のとげとげになれないようだったが。
…ここまでも。
―どこからだ?
そのまま時を進めてみる。
丁度裏路地を歩いていたときだ。
「あ、あれ? なんでっ? ちょっ! とりあえずそこ! 邪魔ー!!」
降ってきたのだ。なんか既視感が半端ないんだがどこかの銀髪少女とは違って足から着地していた。どこに? 例の銀髪に…ッ?!
「カルアっ?!」
…沈黙だった。お互いに。
「「……」」
しばらくして少年は無表情で労もせずその辺の小枝を拾ってきて…
「おい死んだフリやめろよバーカ」
「あぐぅっ!」
べしべし叩いたのだった。そもそも異能があれならダメージはおそらく無にできるはずなのだ。死んだフリをして何がしたかったのかは分からないがなんとなくイラっときたのでやってやることに決定。
「おらおら」
「い、痛いぞやめないか! くるる! がっ! そんな微妙なダメージはっ、『無』効化できないからっ! やめ! やめーーー!」
魚を加熱したときの脊髄反射のように叩かれるたび仰け反ってビクビクしている(向こうからしたらそもそもなんで上から人が降ってきて生きているのか分からない)少女を少し怖がりつつも降ってきた人(?)は言葉を発した。
「えぇ…えーっと? 私はもういいのかなあ…なんて?」
「「待てい」」
「えぇ…」
降ってきたのは膝より少し上のショートパンツに少し着ぶくれするタイプのサメパーカー(というのも前側が白、背中側と袖が紺の、頭と袖のヒレと両脇、両肘、首まわり、正面に付いたファスナーと、フードの牙を模したたくさんの三角形といった、いかにもな感じのパーカーだったのだが)装備の…声音と体格から察するに少女?だった。顔はフードの影で良く見えないが明らかにひきつっているのは伝わってきた。
しかし相手の都合など知らない。こっちは夢の『アジト的ななにか』にワクワクしていたと言うのにいきなり横槍をぶちこまれたのだ。ここは遠慮せず直球で言った。
「説明責任を求める」
「あのー? 具体的にはなにを答えればいいのー? なんて聞いてみる」
「名前と事情だよあとコレだよコレ」
親指と人差し指で丸をつくって、堂々と煩悩丸出しだった。大したことないのに慰謝料を請求しようとするのには理由がある。
実は大して事情には興味なかったりする来留少年はただいま絶賛金欠なのだ。どこかの誰かが(結局一切の事情も説明せず)住み着くもんだから。
「あ、あのー? お金はあんまりないから勘弁してよね…?」
パーカーのフードを外しながら(実は少し青みがかった黒髪のショートボブで内側に薄水色ののエクステを入れていたことが判明した)ソイツはさりげなく巻き込んだ。
「まだまだ若い16歳! 氷の雨でも心は熱い阿比留氷雨ちゃんだよ! ちなみに今なんでか分かんないけど追われてるんだけどここで会ったのも何かの縁! 助けてもらえないかな?」
とりあえずノリで押しきろうとして「けど」が2回出てきた氷雨に彼らは至ってドライだった。
「「は?」」
「えへへ? だってもうそこまで来てるしね☆」
そう言い残しにっこにこのまんま野郎はダッシュで先に逃げやがった。
「「はあ?!」」
少し出遅れてカルアとくるるは全速力で後を追いつつ毒を吐いた
「「よくも巻き込んだなクソヤロウ…?」」
「まあいいじゃないのー。気楽にいこーぜ!」
「「お前が言うな!」」
意外と息が合う同棲中の『なかよしふたりぐみ』はサメ(害獣)に巻き込まれて今度こそ不味いことになっていた。
そろそろ一話ごとのボリュームアップを図りますが、今回ほど長くはできないかも。更新頻度は落ちますが何卒。今のとこ皆同い年ですねー。




