11話 昼下がり、海のなかまたち
ペンギンがケバブサンドを食べ終わったので出発することに。
「私が先に行きましょう」
「自慢気に言われてもお前以外道分からんがな」
「お前と言われるのは不服ですし人に物を頼む態度でもなくないですか…? まあいいです行きましょう」
「……」
頑なに気を許さない氷雨だが、あれがジャケットでそっちはパーカーで、海の仲間だし同類なのになぜ仲良くしないのかいまいちよく分からない。捕食者補正だろうか…と適当なことを考えているといつの間にか先に居るペンギンから呼ばれていた。
「おーい。おーい2人ともー。遅いですよー」
「はいはーい」
「まだ私は君のことも信じてないんだけど。まあとりえず着いてくしかないから着いていってるだけだから」
「あ、あなたに信頼される必要はないんですが…。なんの拘りです?」
「……」
むすっとして押し黙ってしまったサメさんだった。痛いところ突かれたっぽい。
「はっ。あれは夏期限定(需要の問題により)のかき氷屋さんではないですか? ぜひぜひ行きましょうよ」
「別にかき氷ぐらいいつでも食えるだろ。年中やってるところもあるにはあるぞー。てか好きなのかかき氷」
「…お子ちゃまめ」
「ええ大好きですよ! だっていつも職務で忙しくて夏祭りにはあまり行けません。特保は国会議員とおんなじで労基法に当てはまらないんですそもそも公認されていませんから。そしてもちろん定休がはありません。あとそっちの軟骨魚類喧嘩売ってますね。こっちは陸海制覇したペンギンです。飛べない鳥だからなんですか、泳げて歩けてバンザイです」
「……なんで軟骨魚類って二人に言われるの? どっちも会って間もないのに…」
思ったより言われて涙目になるサメさん。そういやカルアにも言われてたな…。しかし傍観者視点だと吹っ掛けて盛大にやられているだけなので別にペンギンは悪くないように思える。多少はかわいそうだが。
「買ってきていいですか? かき氷」
「倒置法が綺麗だったので許可します」
「じゃあちょっと待ってて下さい!」
「……」
なんだろう。普通に話してるだけで恨めしげに睨まれるのおかしいと思う。悪いことしてないと思う。とりあえず二人で待つこととなったが。
「そういえば二人っきりで話したことないな。まだ会って一日目だけど危ない橋渡ったし妙な親近感が」
「会って一日目の人多数にここまで傷つけられるのは不遇だと思う。おかしいでしょー!」
揺さぶられても知らん。
「カルアちゃんに関しては私から一度も吹っ掛けた覚えないんだけど。微塵も悪意を込めたことはないと思うよ?」
「んー、まあアイツはそういうヤツだから。なんだかんだで面倒見が…あれ? そういや面倒を見られた覚えがない…?」
考え直してみたら養っているのはこっちで、一度も詳しい事情を説明してくれたこともなく、顔と能力を相手にさらせば済むのにどういうわけか勿体ぶっていて、悉く保身に走っていたような気が…?
「…後で問い詰めよう」
「えっなんの覚悟? それよりさあ」
「?」
「なあんで君はそこまで初対面の人とすぐ打ち解けるわけ? 少しは疑いなよ。それが普通でしょ?」
そういえば深く考えては来なかった。なんとなく話せる相手だったから。そんな感じの、ふわふわした理由だった気がするがあまり覚えていない。
「あれ? なんだろ。分かんないけど。皆結果を見れば悪そうなヤツじゃなさそうじゃん? それならもうそれでいいんじゃね?」
「…もともと敵だったんだよ? そもそも私はまだ信頼してないって言ってるじゃん」
「それは…」
そんなこんなしてるうちにどうやらかき氷は無事に買えたらしい。なぜかかき氷を三つ持って戻ってきた。
「戻りましたよー。くるるさんも食べますか?」
「おー食べる食べる。ありがとなー」
「あと一つは尊敬する上官のヤツって訳ね。ご苦労様。せいぜい溶けないといいけど。ほら早く行くよ。前歩いて」
背中を押されるがまま、少し危うい足取りで歩きながらも、嫌味を吐かれているにも関わらずペンギンがまさかの発言をした。
「ま、前を歩くのは分かったんですが、これは上官のではありませんよ? あなたの分ですが…要らないんです?」
「へ?」
「要らないなら…別にいいのですが」
自分の持ったかき氷を見つめながら俯くペンギン。しかし氷雨はまだ思うところがあるようで。まあ、そらそうだよなといった感じの。
「え? あ、いや、要らないわけじゃ、ないんだけどさ? えーっと。ちょっと色々不思議なんだけど。」
「そうですか! 嬉しいです。…あの? 不思議なこととは…」
「なんで…なんでこんなさ。その…嫌なヤツみたいに接してたのにそこまで優しくするわけ? 別に私が優しくなんてしてないじゃん?」
なぜそんなことを聞くのかと不思議そうな感じで首を傾げながら、その問いにペンギンは応えた。先程氷雨が聞いたような回答を。
「仲良くする必要がないからといって仲良くしないってわけでもありませんよ? 人に親切にすることに関しては気持ちがいいのでやっているだけです。誰かに優しくされたから、優しくしてほしいから…と言った理由もないわけではないんですが特にこれと言った理由は…分かりません。なんででしょうね? でも誰かが損した訳じゃないですし皆幸せならそれでいいじゃないですか」
「……っ! あーもう! 二人とも揃って私のペースを乱す! これじゃほんとに私だけ嫌なヤツみたいじゃん!」
「ま、まあ、もともと敵だったのを考慮すれば、えーっと…名前分かりませんけどあなたの対応は普通です。別に悪い人ではないと思っていますよ?」
「だーーっ!」
顔を真っ赤にして深くフードを被った氷雨だったが、しばらくすると遠慮がちに口を開いた。
「…ひさめ」
「なんです?」
「私の名前。阿比留氷雨」
「氷雨さんですか。でもでも氷雨さんは名前よりあたたかい人です」
「だーっ! またペース乱して! とにかく。そっちも名前。まだ教えてもらってない」
「あー! そうでしたね! なるほど名前で呼ばれないわけです」
一瞬驚いて何度か瞬きをして、そういえばと言ったような顔で何回か頷いたあと、少し微笑んでから、少女は名を告げる。正午を過ぎた、昼下がり。雲一つない空の下で。
「私の名前は不飛鳥若葉です。今後とも、きっとよろしくお願いしますね」
不飛鳥ーもちろん造語です




