9話 先輩と後輩、天才と天災
間に合わないと確信し目を瞑ったが、なにも起きなかった。
既に決めたはずの覚悟をもう一度決めてふと目を開けると、
「あだっ! マジでビリビリするから嫌いなんだよコレ!」
カルアが手をヒラヒラしながら立っており、氷雨はわなわなしており、そして相対するようにいつの間にか間明がカルアの前に立っており。慌てて叫ぶ。
「なっ。離れろカルアっ!!」
しかし、特に何をするでもなくお互いはしばらく見つめあって…
「…先輩じゃないですか?」
「何のことやらだな」
カルアは食い気味に答える。絶対自分のことだって分かってる。
「「は?」」
まさかの二人は放置。標的だったはずの氷雨さえ。
「だってそこの少年が今名前呼びましたよね。声も聞き覚えがあると思ったら。それに消したでしょう雷刃を。そこの二人が立ってるのが何よりの証拠ですよ?」
「さあな。何のことやら? 仮に、消したとしてそれが何の証明に…」
またも食い気味に答えている。
「「ちょっと待てい!」」
慌てて置いてきぼりの二人で制止の声をかける。何が何やらなのだが。
「なんだい?」
「間明…さんでも良いんだけど。先輩って何? どゆこと…ですか?」
何やら様子がおかしいので一応敬語で会話を試みる。なんか分かる。長い付き合いになりそうだ。ふと横に目をやるとまだ不安の念が病まない鮫は先からわなわなし続けている。こりゃ一人で話すしかなさそうだ。
「聞いてないのかい? その前にひとつ質問なんだが」
「はい?」
「そこのホッケーマスクの人って自分のこと『無』とか言ってなかったかい?」
顔は見えないはずなのにすごい睨んできているのが肩越しに分かるが、円滑に進むならカルアのことなど後でなだめれば良いのだ。急に柔らかくなった標的を敵に戻すわけにはいかない! 多分勝てないし! …策はあるにはあったんだが。
「はい!」
「やっぱり先輩じゃないですか。よく天才って呼ばれてましたし恥じることがあるわけでもなさそうですよね。なんで隠すんですか? 良く面倒見てくれたじゃないですか」
「……後で覚えてろよ来留彰…?」
「うわさらっと個人情報漏洩しやがって居候の癖に。名前バレたら面倒だとか言っておいて。てか色々説明されてないことが多すぎるんだが?」
「向こうに着いたら自然とある程度話す流れになるはずだったんだがな。どこかのイタイ鮫と銃刀法違反者のせいで足止め食らったのをお忘れか? 本来の目的を」
…そういえば鑑定しに向かってるんだった。
「とりあえず先輩ってことで確定かな? 先輩方が絡むならこっちが関わる理由もないのでそこの『偶像変化』…まあ一部はアイドルと呼んでるっぽいけどねえ。とりあえず任せるもとい見逃すよ?」
「…何が何やらなんだけど? 私が…あいどる? 変な名前の異能だねえほんとに…」
やっとサメさん喋りおった。しかも雰囲気で異能のことだと把握してる。やだ頭良さそうじゃん。そして圧倒的場違い感を感じる。
そしてそしてそこに爆弾を落とす間明さん。
「勤務時間にはまだ余裕あるしさ。折角だからカフェでも行こうか。色々話を聞かせてあげよう」
「は? …ふざけ」
「じゃあ行こう君たち。この辺に良い店あるんだよ?」
唯一反対できるカルアの相変わらずくぐもった声での反抗も空しく、急ピッチに脳が追いつかないまま元(?)敵と茶会を楽しむこととなった。
また変な所有りましたらごめんなさい




