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1:ラインボックスに来て半年たちました!③



 気がつくと、朝のニュースは終了していた。フレッシュな新人アナウンサーと明星テレビの公式マスコット「明嬢ちゃん」がこちらを向いて手を振っている。他局が人間ではない見た目のキャラクターに社の命運を託す中、明嬢ちゃんは在京キー局で唯一の人型のマスコットキャラクターだ。ショートカットの髪に星型のヘアピンを付けて、赤色のワンピースを着ている。なんでも、惑星「アカリ星」から来た貴族のお嬢様だそうだ。


 テレビでは二人が別れを告げる画面が切り替わり、次の早朝ワイドショー番組が流れ始めた。勘違いしている人も多いが、報道番組とワイドショーは厳密にいえば別物である。先程まで放送していた朝のニュース番組は所謂報道番組と分類されるもので、ただひたすらに“情報”を報道する。芸能人やタレントの出演は少なく、アナウンサーだけで進行することが多いのが特徴だ。一方ワイドショーは、旬の芸能人やコメンテーターをゲストに迎え、事件や事故に対してリアクションを求めたり、ニュースだけでなく、バラエティチックな企画もあったりする。報道番組は朝の支度をしながら流し見をする人向け。ワイドショーはおうちで休んでいる人や家事をしている人向けに飽きさせない作りを意識している。と、莉那は専門学校で習ったが、今の仕事で意識することは一切なかった。

 時刻は六時十五分。昨日の十八時から始まった仕事もあと二時間ほどで日勤のメンバーと交代して終業となる。いよいよ夜勤業務の終わりが見えてきた莉那だったが、仮眠休憩の際満足に睡眠がとれなかったことが災いし、今になって急激な睡魔に襲われていた。

 これはまずい。莉那は眠気眼を擦りつつ、手持ちのポーチから眠気覚まし用のタブレットを取り出し、一粒口に運んだ。口の中にミントの風味が広がり、同時に鼻を突き抜けるような刺激が襲ってくる。おかげで莉那は少しだけ、襲い来る睡魔を遠ざけることができた。

 その時、莉那の背後から、賑やかな話声が近づいてきた。どうやら、OA組のメンバーが受信室に戻ってきたようだ。


「それにしても、犯人、どこに隠れてるんですかね。」

「うーん、どうだろう。山梨県だし、森の中とかに隠れられたらそうそう見つからないよね」

 

 カラッとした小泉の声に、中石花音がのんびりとした声で返答する。先程の山梨県の殺人事件の話をしているようだ。


「中村さんだったらどうします?もし自分が逃げるとしたら。」


 小泉から話を振られた中村隼人は、小さく、えっ、と反応した。予想外の質問だったのだろう。中村はメガネを指で直しながら唸った。


「うーん、俺なら…。普通に自首するかな。どうせいつかは見つかるだろうし。」

「えー、そういう話じゃないですよ!逃げるとしたら、どこかって話です!」


 中村の回答が自身の期待するものではなかった小泉が不満に頬を膨らませる。今年二十三歳になった小泉は見た目も雰囲気も若くて幼い。制服を着てテーマパークに行ってもなんら違和感を感じないだろう。加えてコミュニケーション能力も高く、仕事もできるので、ライボ若手スタッフの中では一目置かれている存在である。そんな彼女を、莉那もひっそりと尊敬していた。あと、先輩だけど、かわいくて推せる。


「じゃあ、小泉だったらどこに隠れるんだよ。」

「私なら、東北の寂れた港に逃げますよ!実績もありますしね!」


 三人の話をこっそり聞いていた莉那は、実績ってなんだよ、と思わず突っ込んだ。すると、二人のやり取りを見ていた中石が目を輝かせる。


「あ、小泉ちゃん!それって、もしかして東某物語!?」

「そうです!え、中石さんも見てました?東某物語。」

「うん、見てた見てた。結構前のドラマだよね。懐かしいな~。」


 どうやら、小泉の回答は、昔やっていたドラマから着想を得ていたらしい。共通の話題を発見した女子二人は、先程までの話なんてすっかり忘れてしまったようだ。莉那と同じく、そのドラマを知らないであろう中村を置いてけぼりにして、二人で話に花を咲かせ始めた。

 所在を失った中村はちらりとこちらに目を向けた。同情の眼差しを向けていた莉那と目が合い、中村はトボトボと莉那の隣の席に腰を下ろした。


「はぁ、疲れたー。」

「おつかれさまです。OA大変でした?」


 いや、全然。と答える先輩に、莉那はあえて、何故疲れたのかは質問しなかった。


「こっちはどう?なんか来た?」

「全然です。2、3件伝送があったぐらいですよ。」

「そっか…。暇だなぁ。」


 中村はそう言うと、先程莉那が見ていたテレビに視線を移し口を閉じた。中村は口数が多い方ではない。加えて莉那も、人見知りではないものの、会話が得意というわけではないので中村とのやりとりを長続きさせることができなかった。

 その時、二人の沈黙を破るように電話のコール音が鳴り響いた。莉那と中村は視線をリーダー席に向ける。森田がすぐに受話器を取り、数言のやりとりの後切電した。


「このあと、国会から伝送。」


 森田はこちらを振り返らず、短くそう告げた。莉那は隣の中村を見ると目が合い、彼は少しだけ肩を竦めてみせ、目の前のモニターに向き直った。先程まで談笑していたはずの、中石と小泉も各々のモニターの前に腰を下ろしている。ライボでは、夜勤から日勤に切り替わる前に少しだけ伝送の多い時間がある。先程の森田の言葉は、その時間が訪れたことを意味していた。仕事モードになった先輩達を見て、莉那も少しだけ気合を入れた。後方でまたもやコール音が鳴り響いたが、莉那には心なしか先程よりその音が小さく聞こえた気がした。


つづく

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