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大庭園に魔術師達は

作者: 八崎節子


「ようこそ、大庭園へ」


 予約の見学者が今日はあなた一人だからと、案内人の女性は自ら、幾つもの錠を外す音がしてから、門を開け出迎えてくれた。


 出入口からまず内部へ入る前に、長い、生け垣で出来た道を通る。人の背丈よりも生け垣は高いので奥はあなたには見えない。


 あなたは丁重に礼を述べた。何とか師匠の伝手を頼って、この庭園の見学を願った。


 魔術師の中でも、草木を研究する者には、自ら庭園を築く者が少なくない。


 ここは国が前の王朝であった頃、名だたる魔術師達が集い、築いた庭園であった。同じ研究者として、是非とも足を運びたい熱意は、何とか受け入れて貰えたようで、今日のこの僥倖に至った。


 造園に関わった魔術師は既に皆この世を去っているが、誰が行うでもなく手入れが常に行き届いているという術に並び、戦乱の世でも害意を持つ者は決して入れないという術は少しも緩む事はなく、入ろうとする者を選んだ。


 この辺りの地の民は祖先がこの庭園に逃げ込み、戦禍を生き延びた者を持つ者が少なくない。平和が戻った荒廃した地で、庭園から持ち帰る事を「許された」という作物で農業や園芸を生業として再開出来た為に、庭園を讃える祠がある家も見かける。


「私の曾祖父も創設に関わった一人でした。平和の象徴とされた庭園なので少し言いにくいですが、当人達は本当に普段はどこにでもいるような人達でした」


 あなたが女性の話を聞きながら、道の生け垣に目をとめている事に気付いたのか、そこで一旦、話が止まった。


 一見しただけで、その不可思議は誰にでも分かるだろう。生け垣は一定の距離で、花の種類も色も変わるのだ。つまり一定毎に違う種類の樹木を植えて整えた事になる。


 そこを指摘した事で、女性の言葉に理解を示したあなたに、女性は「そうなのです」と言った。


「魔術を用いた庭園を愛するという心は同じなのに、活発な議論が絶えなかったようです。いつもどの季節にはどの樹が良いか、剪定の方法は、議論の発端の種は尽きなかったそうです」


 相手の論は認めないが並び存在する事は受け入れる。魔術には人を攻撃出来るものがあるから、そういう精神でなければ、このような大庭園を集って築く事はなかっただろう。


 あなた達はようやく姿を表した、門を前に立ち止まった。女性が開けた正門と違い、片開きで、簡単な留め金だけがあるだけだった。


 その中に、生け垣がほんのさわりとなる程の、並び存在する庭園が、広がっているのか。


 あなたの問いに、女性は小さく笑って頷いた。


「入る者がその留め金を外す決まりとなっています。どうしますか」


 あなたはすぐに頷き返し、門を開けた。


 普段は誰も見学者を入れず、また申込も少ない理由は、二、三歩歩いて、明確となった。


 一歩目は赤い葉の木々に囲まれ、遠くに小川の流れる音がする。


 二歩目は足元の空に落ちながら、白い花々の間を飛ぶ虫達の中にいる。


 三歩目は草の生い茂る丘の上で、黒い石で出来た塔に、幾つもの草が絡み合って生い茂るのを見上げている。


 歩くごとに、色彩も樹木も香りも土質も風の吹く向きも、日の当たる方角も鳥や虫の種類も、重力さえも変わる。


「それでは、行ってらっしゃいませ。お戻りになりますように」


 声に促され、創設者達の歓迎に応えるように、あなたは一歩ごとに時間をかけ、庭園を受け入れていった。


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