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1.千国由編という女

 冬休み、あるいは年末年始休みに向けて世間が慌ただしく、されどどこかうきうきするこの師走。

 星花女子学園にこの年やってきた情報科教諭、千国 由編(せんごく ゆあみ)は授業のたびに、この花園で育てられる可憐な少女たちに外の現実を説きまわっている。

「いい? 年末年始は悪い人や犯罪が増えるんだ。悪質な営業電話とか詐欺メールとかもな。クリスマスに年末年始セールに福袋。みんな通販するだろ。そして電車とか飛行機のオンライン予約。騙す側にしてみれば詐欺メールをばらまく絶好のチャンスさ。数撃てば当たるってもんよ。詐欺メールはほんとーに、多い! 帰省する子はもちろん、そうじゃない子も気を付けるんだぞ! メールは開く前に違和感が無いか絶対に、じーっくり確認するようにね!」

 中等部2年3組の教室で由編はいつものように、授業の内容に加えて社会にはびこる悪意、それに対処する(すべ)を強く教えている。

 生徒たちの様子見も兼ねて、由編は喋りながら教室中を歩き回る。


 昨今、情報科--パソコンやプログラミング等--の教育は日に日に重要さを増しつつある。

 数年後には情報科は必修科目となり、大学入学共通テストにも含まれることが文部科学省からすでに告示されている。

 それを受け、情報科教育の指導力強化要員として星花女子学園にヘッドハンティングされやってきたのがこの女。

 千国由編だ。

 元々は民間の受験向け学習塾で数学を指導していた。

 教員免許は情報科と数学の両方を取得している。

 そもそもは情報科が主免許で数学は副免許である。

 しかし、由編が大学で学んでいた当時は情報科なぞ就職口が無さ過ぎて取るだけ免許とされていた時代だ。

 だから情報科で教員免許を取る者は就職のために副免許として別の科目を取るべきと言われ、由編は数学を選んだ、ということだ。

 ところがどっこい。

 由編が大学を卒業して数年後。

 あれだけ世の中から冷遇されていた情報科が手のひらを返したように重要視され始めた。

 どこの学校も人手不足で必死に情報科教諭を探し求める。

 星花女子学園もいち早く情報科教員の確保に乗り出した。

 そして人材エージェントを通じ、学習塾から由編を引き抜いた。


 こうして、由編は学習塾の数学の先生から、星花女子学園の情報科教員へと転職したわけである。


 中等部2年3組の生徒たちは配布されたノートパソコンを前にそれぞれ由編の話を聞いたり、聞かなかったりしている。

 中には堂々と化粧品やらの情報や果てはネット動画をパソコンで見る猛者もいる。

 フィルタリングはもちろん設定しているが、こんなの今どきの子たちなら解除する子はする、とほとんど気にしていない。

 貴女達がどう過ごそうが自己責任、極端に道を外れてしまったらその時は拾ってあげるけど、普段からある程度の判断は出来るはずだ。

 由編はそういうスタンスだ。

 

 授業はもうすぐ終わる。

「……はい。それでは次の授業までにこのプログラム作って来てね。2分くらい早いけどもう終わるぞー。」

 日直が挨拶をし、チャイムが鳴るよりほんの少し早くその授業は終了した。


「あー終わったー。千国先生は動画見てても全然注意しないしチョロいチョロいw」

「ねー次の宿題ってこれ?」

「え、宿題これ!? うっわ、全然わからん!」

「ウチら全然わからんし!」

 サボっていた女子たちはさっさと教室を後にした由編を追いかけ質問する。

「はいはい。きみ達は動画見てたよね。私の話をちゃんと聞いてた?」

「……ごめんなさい。」

「はい。反省したならよろしい。このプログラムはね……」

 サボっていた女子たちが反省したのを見届けて由編は彼女たちを指導する。


 中等部2年3組にて。

(またあいつらサボってたか。……授業中サボれるだけ幸せだよなぁ。そもそも授業に出られること自体が恵まれてるんだ。)

 生徒の一人、水島菫(みずしますみれ)はサボっていた女子達に呆れている。

(千国先生って、今年来たばかりで、しかも他の学校じゃなくて塾から来た先生だったよね。)

 菫は先程まで自分達に授業をしていた由編のことを考え始める。

(星花や病院じゃない場所のこともたくさん知ってるんだろうな。)


 この物語は、電子の海を旅する航海者、由編と、見知らぬ世界に憧れる少女、菫との、一冬のお話である。


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