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 まだ夜は深い。

人目を阻むなら絶好の時間だ。ここは町から少し離れた草原地帯。涼しい夏の夜風が、草の穂先を揺らす。俺とリリアが冒険者になってから幾度となく素振りをさせられた場所に奴はいた。


 「よぉ、遅かったじゃねえか、坊主。あのクソきたねぇロリコンに、殺されちまったんじゃねーかと思ったぜ?」



と、大きな岩に背を預け、腰にぶら下げている刀に手を置いたままマルティネスは言った。


 (ずいぶんと喋り方が違うじゃないか。それがお前の本性か?)


テレパシーで話しかけてやるが、特に驚いた様子は見せず、逆に楽しそうに、笑っている。



「テレパシーってやつか、ずいぶんと面白いことをするんだな」



(すこし前に倒したレッドドラゴンから教わってね。それ以来必要な時には使っている。こっちの方がしゃべりやすいしな)


「どうやら猫を被っていたのはお互い様のようだ。レッドドラゴンを倒しているなら、ゴブリンやスライムの相手は退屈だったろ?」


(くだらない、素振りよりマシだったな)


あんな無駄な訓練をするくらいなら、雑魚モンスターを狩って少しでも金を稼ぐ方が遥かに有意義だ。


「いってくれるじゃねーか。俺様がわざわざお前の為にやってたのによ」


(余計なお世話だ、俺は生まれながらの最強。訓練は必要ない)


すると、マルティネスは不愉快そうに舌打ちして、俺を睨み付けてくる。


「また最強か。お前は自惚れすぎだ。たしかに才能ならお前より凄い奴はいないかもしれねぇ。だがお前より強い奴はいくらでもいるぜ」



(そう、思うなら勝手にすればいい。だが、俺が強くなることに、お前になんの関係がある?)


簡単に言えばお節介だ。

俺が弱かろうと、強かろうと、結果はすべて自分にかえってくる。マルティネスにはなんの関係もない。



「ふふ、俺には俺の考えがあるってことさ。お前は俺が王都でなんと呼ばれているか知ってるか?」


(さあな、生まれてこの方、故郷をでたことがないもんで)


それに、興味もないしな。だから知るわけがない。



「そうだったな。俺は王都ではこう呼ばれている『s級冒険者狩りのジョーカー』ってな。つまりは殺人鬼、犯罪者さ」


マルティネスは懐から物をとりだして、俺の足元に投げてくる。

それは、冒険者に発行される冒険者カードだった。


「マルティネスって名前も、適当に殺した冒険者から奪ったギルドカードに書いてあった名前だ。気に入ってはいたけどな」


(俺に近づいてきた目的はなんだ? 戦いたいなら最初から襲ってくればいいだろ)


そう、俺にはこいつの目的がわからない。殺人衝動が抑えられない類いの人間なら、わざわざこんな手の込んだことをする意味あるのか?


「酔狂さ、俺はただ強い奴と戦いたいのさ。稀にギリギリの戦いの中で成長して、頭ひとつ飛び抜ける奴がいる。世間じゃ覚醒者って呼ばれている。俺はそのステージに立つために強者を探している」



へえー、そうなんだ。世間にはそんな奴らがいるのか。まぁ、俺からすれば、だからどうしたって感じだけど。生まれながらに最強の力を持つ者には理解出来ないね。



「お前なら、技術を学べば俺と互角の戦いができると踏んで鍛えようとしたが、とんだ期待はずれだったぜ。だがいいさ、また別の奴を見つける。だから、お前にはここで死んでもらい、俺の刀の錆びにしてくれよう」


マルティネスは腰の鞘から刀──剣とは違い片刃の得物を引き抜いた。



「嬢ちゃんを拐ったのは、少しでもお前を怒らせれば多少なりとも強くなると期待してだ。悪いことした、後で謝っておくぜ」



(その必要はない。お前はここで、静に死んでゆくのだから)



そして俺も木刀を構えてマルティネスに向ける。

コイツを生かして帰すつもりはない。リリアに手をだしたツケはしっかり払ってもらう。


「ちっ、相手が木刀じゃ絞まらねぇな。これを使え」


マルティネスが腰にさしていた、もう一本の刀を投げてきたので、俺は片手でキャッチした。


「脇差しだ。普通より短いが、お前には長すぎるくらいだろ」


鞘から抜き、俺は頭上より高く持ち上げて刀身を眺める。刀は黒く、夜の色をしていた。波紋をうつ美しい紋様が月の光に煌めいて、夜空にとけこむようだ。


まともな刃物を持つのは、包丁以来だ。悪くない。


「業物だ。丁寧に扱えよ」


(いいだろう)


木刀を放り投げて、俺は新たな武器を構える。


(殺し合いをはじめようか)

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