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4.緑の槽 伊吹


 異物の(おめでとう)という言葉に感化されてか、伊吹は続けて述べた。

 「じゃああんたは悪魔か死神か」

 「正確には違うが、趣を好むなら好きに呼べ」と、食い気味に異物が述べる。

 ──ここは異世界か何かか。もしや転生……

 「らしく無い、恰好良いお前が子供じみた事を。いやむしろ音楽一文字の様から見ても、子供がその美男(つら)である方がらしく無いか。引いて離れて行く女の背は大概の女のそれだ。その背を惨めに見つめ……」

 「五月蝿い!何なんだお前は!」手を前で強く振り切りながら顔を激昂に崩させる伊吹。

 ──何なんだ、こいつ!俺の考えと、過去の事まで……。

 「私は、全ては言えないが案内をするモノだ。転生、言い得て妙。伊吹、お前を転生させるモノ、そんな所だ」

 異物は淡々とまとめて説明をして、また続ける。

 「これからユートピアに転生する。お前は好きに過ごせ。そして願い事を一つだけ叶えられる権利を与える、どんな願いでも良い、お前が芯から願う事を容易く叶える。但し」

 異物のマントと仮面が色味を反転していく。白い仮面に虹色が、虹色のマントに白がそれぞれ侵食する。そしてまた元へ、その繰り返しが徐々に早まる。

 その様をただ見つめる伊吹に、異物は告げた。

 「お前の今とそれ迄の記録を凍結する。説明の真意はそうだな、貴様の芯のままにだ。私もあいつ[#「あいつ」に傍点]も、その為に在るのだから」

 そう言い終えた異物の、後方から突如現れた白と虹色の渦が、異物と同化しながら進み、伊吹へと到達した。

 その光に伊吹はただ飲み込まれるだけだった。

 やがてその光は黒の全てを飲み込んだ。

 


 風がさわさわと音を立てる。その風が優しく緑の草達を撫でている。

 その草達の中で横たわる伊吹と、その伊吹の傍で膝を突く青年が一人。年は伊吹と同じ二十歳そこそこに見える位の青年。

 「おい、伊吹」

 青年が眠っているであろう伊吹に声をかける。伊吹は眉間で反応した。

 「伊吹、大丈夫か?」

 青年の声に漸くゆっくりと瞼を開く伊吹。虚な目に空の色が反射する、オレンジと青が。

 ──夢か。緑が暖かくて眠ってたのか。ああ、つとむの声を聞くのも久しぶりな気さえする。

 「ああ、大丈夫だよ、つとむ

 横たわったままの伊吹は目を二色に染めたまま、そう答えた。初めて会ったであろう勉へ。

 「そうか、良かった」

 傍の勉は笑顔を伊吹に向けた。

 

 ──何か、長い夢を。もう思い出せない。で、此処は。そうだユートピアだった。まだ酷く寝ぼけているな。

 


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