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2.recurrent


 長い間眠っていた気がする。目の開け方にも戸惑う瞬間の度々を超えて漸く、すっという具合に目が開いた。緑の葉達の柔らかさに横たわっている感覚がその瞬間に追いついた感じで、咄嗟に現れた。

 「きらちゃん、大丈夫か?」そう声をかけてくる男の、私の目の前にあるその顔がきちんと認識出来ない。今まで見ていたんだろう夢の様なものを思い出そうと頭が必死だった。

 (此処は、)を発する事は無かった。何かにでも無く、ふいに物忘れした事が蘇る様に私は思い出して、改めて言う様な感じで心の中に呟いた。

 此処は、ユートピアだった。

 私は今、そのうちのどこかの山の緩やかな傾斜の上。そして緑の上に寝転んでいる。

 風が、そうねと暖かく頬を撫でる。桃が食べたくなる様な甘い匂いを含んで。けれどそれは旨味滴る桃をたった今頬張った様な感覚にさせて、明るい幸せな気持ちの方に導いてくれていた。私はゆっくり上半身を起こした。

 銀色の水面が、そうだとも、と程よく光る。ゆりかごにでさえ、今なら恥ずかしく無いまま気持ちよくなれるかもと思える揺蕩いの姿を見せて。けれどもそれは、今日を存分に楽しめる様に、これからだよと次第に陽を強く返してくる、私の目に向けて。そうして生き生きとする感覚へ導いてくれた。

 オレンジと青を曖昧にした空に、緑の山から飛び立った小鳥達が入り込んだ。同じ所を行ったり来たりして、何も焦って無い様子でたまに鳴きあったりする。ここは安全だよ、と語りかけてくれている気がした。けれどもそれだけは何故か、合っている様で合ってない気がして、空に目を止めてみた。

 

 空はくっきり見えているけど、まだ視点が落ち着かなかった。寝起きで頭がぼーっとしているのが分かる。

 「煌ちゃん、本当に大丈夫か?」視界の横から白髪のおじさんが怪訝そうに登場した。たしか名前は……たけじいだ。

 「たけじい、おはよう、大丈夫だよ」目を閉じて、上の方へ思いっきり手を伸ばして背伸びした。何か背中の方に淀んでいた物が飛んで行ってくれた気がして、ついでに出たすっきり顔をたけじいに見せた。

 「そうか、ならいい」たけじいのしっかり真っ直ぐむけて来る笑顔に、何故だか今日だけ[#「今日だけ」に傍点]は乗り気になれなくて、上手く笑顔を返せなかった。

 何か焦っている気持ちも無い筈なのに、なんだか心が落ち着かなかった。何の理由も無しに立ち上がってみた。

 また風が撫でてきた。今度は体全部、服と肌の隙間に行き渡る感じの風がふわーっと、少し下の方から。陽にも撫でられてか、いつにも増して赤く見える自分の髪が目先で踊る。

 小鳥が鳴きながら、私の頭を通り越して飛んで行く。振り向かなくても何があるかは分かる。けれども、それも何故だかどうでも良く感じてしまう。

 私の後ろ、この山の麓らへんには集落がある。人々が沢山集う場所。意識したからか、そっちの方から人の笑い声が聞こえてくる。

 心が躍っている訳では無い、或いは鬱懐に囚われている訳でも無い。ただその心が、強く固まって行く気だけがした。胸かどこかの裡にある何かのせいで。

 そうさせているそれが意識でも記憶でも無いと調べながら、しかし確実にそれに従うべきとして、私はただただ後ろへ振り向いていた。それが意思なのかも分からないまま。

 


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