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生誕話初・1.黒の端


 とある駅のエスカレーターを下る青年。段々と成って一つ一つの顔と頭がホームへ流れ着く。その中で青年は一際目立つ頭をしていた。薄膜干渉の様に赤や青、緑のオーロラの色味を控え目に放つそれが、混み合った黒粒達の隙間を切り裂いて行く、難なく、背負う大きなギターケースを連れて。

 駅のホームは更に黒く塗りつぶされて行く。オーロラ頭の青年はホームの際まで到達し、小さな粒の様なイヤホンを両の耳穴に入れ込む。

 (まもなく2番線に──)と、アナウンスの音。黒く大きな電光掲示板が呼応して掲示の色を変え点滅させる。ホームの端の方へ走る鉄が顔を出す頃で。

 無言の人々がホームの両面に別れ、溢れずに二つの塊に落ち着く。そのどちらもの塊の中ではどこもかしこもスマホという機械に夢中のままの人々が、鉄の到達を待つ。片やの塊は間もなく、同じ有機物達を載せた鉄が前を通過[#「通過」に傍点]する事を知りつつで。

 大きな人々の塊の先端に立つオーロラ頭の青年に、そこかしこから目線が向けられる。目線を送り続ける微笑みの女もいた。いくつかの横目の後に納得のいかない顔に落ち着く中年男達もいた。

 それほど迄に青年の容姿が周囲に影響を与えていた。無駄の無くシャープな地顔というだけでも煌めく目線が容易く向かう中、青年は優しくも虚な魅了の目も持ち合わせていたものだから、殊更だった。青年のその目は暫く、今もスマホに落とされているが、それでもの影響力だった。

 青年のスマホには、激しく頭を前後に振りながらギターを弾く者の映像が流れている。字幕が忙しく変わる。画面もコロコロと変わり、光が瞬いて行く。何もかもが早く動くスマホ上。

 歌詞がひたすら繰り返した。

 (急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ)

 地に着いていた青年の片側の踵が少し浮いた。

 

 線路継ぎ目が一定のリズムで鳴く。

 

 (飛び乗れ飛び乗れ飛び乗れ飛び乗れ)

 地に着いていた青年の片側のつま先の方も浮き、そのまま前の方へといっぱいに放り出された。

 青年だけが瞳孔を開いて行く。

 目線は変わらず青年を見送る。

 

 鉄の列車が本性を剥き出しにしながら青年へと、すぐさま到達した。

 それが鉄かステンレスかの違いに意味など無い程の結果を、青年に齎した。

 己の足を映したのを最後に、青年の映像は黒く暗転して行く。

 青年は最早青年なのかも分からない有機物と化した。

 

 そうして暗転の中、青年はその意識の端に既に得ていた感覚の端を覚え、意識は無と成った。

 


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