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沖縄上陸

沖縄上陸作戦決行 


 

「今回の作戦を説明する。」ウルフの声は作戦室内に良く通った。

「上陸二十時間前、空挺降下にて幻影大隊は敵地に降下した。上陸の妨げになる箇所に破壊工作を実施し敵に対してゲリラ戦を展開する。味方は名護まで後退して居るが我々が那覇に上陸し橋頭堡を構築。その後に五コ師団を送り込み、残存する幻影大隊の撹乱と同時に上陸した我々が前進し名護方面の部隊も同時に攻勢を開始する算段だ。──次に上陸班に関して変更点がある。」


「ブリッグを第一班に一時的に編入する。理由は敵の対空レーダー多数が確認されている。対空レーダーに対して効果的にジャミングを行う為だ。」


─弟が第一班に編入される。



 思わず息を鋭く吸った。

「グリック?どうした?」隣で作戦を聴くカムシアが訝しげに小声で言った。

「いえ、ご心配無く」グリックはその場はなんとか普通を装ったが、作戦会議が終わると早足で甲板に向かった。

 甲板には人が居ない事が幸いした。「クソッ!クソッ!」俺は輸送艦の柵を蹴った。

「ハァハァ…」と息を荒げつつ落ち着きを取り戻すためタバコを蒸かす。

だが、足音無く近づかれそれに気づかぬ内にすぐ後ろから声が掛けられる。

「グリック、物に当たるな」

驚き肩がビクッと跳ねる

「中隊長!」と弾ける様にタバコを海に捨て敬礼をする

「直れ、珍しいな。そこまで荒れてどうした?」

ウルフの声は氷の刃の様に冷たく鋭いが、その声にはどこか優しさが有った。

「いえ…なにも…」

「そうもいかん。貴様は自分の部下だ。言え。」

俺は迷ったが、ポロリポロリと感情が漏れ出した。

「……実はその…弟が一班に編入された事が…」

「……」

「ガキの頃からあいつは優秀でいつも自分より上に居ていつもいつも比べられて…それをあいつにいつも慰められて…それも悪気は無いのは分かっています…ただ耐えられなくて…そんなあいつに…唯一あいつより上に立てるこの場所も遂に取られたか…と。」

─だんだんと声が裏返り、目頭が熱くなった。

「ただ…こんな事で…不甲斐ないですよ。」と堪えきれず涙が頬を伝う。

「ただこんな事なので大丈夫で……!」と身体に衝撃を感じ途中で遮られた。


─ウルフに抱き締められていると気付いたのに数秒を要した。


「気付けずすまなかったな。」

小声ながらも強く、ウルフは自分を抱き締めながら言う。

「その気持ちは誰よりも分かっていたつもりだった。」

「別に隊長が悪いわけじゃ…」

ウルフが締める力を強くした。

「いや、私の責任だ…例えそれが規律的な責任じゃないとしてもだ…」

ウルフの体温に落ち着いたのか、涙はようやく止まった

「ありがとうございます…もう大丈夫です」と言うとようやく離し心配そうにグリックに尋ねる。

「それより私はお前を贔屓にして無いだろうか?どうも自分と重ねてしまっている節がある。」


《自分と重ねてしまってな。》

という事は、ウルフ中隊長には弟がいたのだろうか。


「いえ…というより、中隊長は弟さんいらっしたんですか?」

「私より勉学が長けた弟がな…一応、例のことは妹紅から聞いているだろう?」

「まぁ…にわかには信じられないですが」


 ウルフもとい近衛は千年を生きている、人間でも化け物ある《人妖》である。妹紅に説明された時はにわかには信じられなかったが彼自身が言うからには本当なのだろう。しかし、千年を生きたというウルフの弟はもう──

 


上陸作戦


 午前6時34分、揚陸艇にカムシア、アサシンと乗り込みシャフトで降ろされた。

揚陸艇から幻想郷組を見つめると手を振ってきた。彼女等、第1班以外は第二波として上陸する。

 現代上陸作戦としては切っても切り離せないav7とスカウトスイマーが先発隊として上陸して居るが状況はあまり芳しく無いらしい。砲撃は雨のように降り注ぎ、周りには上陸用舟艇が横列に沖縄へ向かった。これはまるで───

「いやはや、プライベートライアンにとてもそっくりだぜ。なぁウルフ。」とカムシアはいつもより興奮ぎみに話しかけてきた。

「なら、俺たちがあの映画と同じストーリーにしてやろうぜ!ちゃんと映画に沿わなきゃなぁ!」上陸艇の艇長が言った。

「いいぜ!あのクソどもを追い出してビーチでこんがりと身体を焼こうぜ!」

─ここまで意気投合するならこいつは海兵隊にでもなったら良かったんじゃないか?

「上陸まで5分前!神のご加護を!」と言うと艦長は私に次を言えと言わんばかりに私に視線をむけた。

「左舷、右舷用意!砲撃の穴とそれとクレイモアに注意!」と仕方なく叫ぶ。

「お互いにくっ付くな!一人より5人の方が狙われるぞ!」とカムシアはノリノリで叫ぶ

「銃に砂を入れるなよ!」

私がここまで言うと周りの海兵隊員は沸き立った。

「じゃああんたはこの扉が開いて弾丸が飛び込んで来る前にあの名言を言ってくれ!」と一人の海兵隊員が言ってくる

仕方無く「了解」と叫ぶ。

──実は、ほんの少し、ほんの少しだけ楽しかったが。

「ありがとさん、そうだ!艦長!」その隊員は私に感謝した後、艦長に話を振る

「何だ?」

「何か良い曲を流してくれ!」と頼むと艦長は「クソみてぇな曲しかねぇけどな!」と叫びつつ90年代物のロックを爆音でかける

だが冗談を言えたのもそこまでで、上陸間際の緊張感が伝染し皆、押し黙る

上陸直前で緊張が少しでもほぐれるようにと例の名言にアレンジを加えて叫ぶ

「Good luck! See you on the beach! and in hell!《幸運を!ビーチと地獄で会おう!》」

 私が叫ぶと上陸用舟艇のドアが開いた。舟の一番前に乗せられた戦車を盾に前進したいが戦車は障害物により通れない為、途中で別れなければ行けない。しかし、全滅の危険が有る上陸用舟艇から出る際に盾が有っただけマシだろう。


「全員!煙幕を!展開と同時に戦車の影から飛び出すぞ!」

私はスモークを投げた。そして当たらない制圧射撃を行う。

 今回は5.56ミリの89式を持ってきているので、mp5よりかは弾が届くだろう。


─斜面にカムシア、アサシン、ブリッグと3名同時に身体を投げ出し身を隠し後ろを振り返った。

その行動を後悔した。地獄絵図だった、砲弾は肉片を撒き散らし、誰のかわからない四肢が飛び、武器が散乱し、悲鳴があちこちから聞こえた。

「これは…酷い…」アサシンがつぶやいた。

 臓物、血飛沫、悲鳴、怒号、涙、やはりここは戦場だ、あの懐かしの戦場だ。私が生きる道だ。此処は地獄だ…ノルマンディー上陸作戦の勇敢な戦士も恐怖したのだろうか。オマハビーチがブラッディオハマならここはブラッディ那覇か?ヒドイ有様だ。ここまで良く来れた物だ。


「貴様等、私について来い。前進する。」

 スモークの中を駆け周り砂と血に汚れながらも何とか次の障害物に飛び込む。此処までこれた兵力は5000居るか居ないかだろう。絶望が漂った。

「HQ! HQ!砲撃支援!58S UD 858 493!wp及びHE!瞬発!要請終わり!」と無線に叫ぶ

5分後綺麗な曲線を描き敵陣を吹き飛ばす

要請通り煙幕が広がる

「カムシア!障害物を工兵爆薬で吹き飛ばせ!戦車を前進させる!このままでは埒があかん!」

「了!」カムシアは即座に工兵の死体から爆薬を奪い、前進の障害物を爆破させた。

 命懸けで障害物にたどり着いたのに前進の邪魔だから障害物を爆破するとは、何という皮肉だ。

突撃の為に海兵をみると、怖気づき、とても海兵隊とは思えないほど怯えていた。


「─貴様等何をして居る!立て!立たんかぁぁ!貴様等海兵隊の最強は口先だけか!これならお前等がいつも罵る我々黄色いチビザルの方が優秀だ!それでも海兵か!?立てぇ!立たんかぁぁぁ!」

私は怒りに任せて怒鳴った。私に怒鳴られた海兵がこちらを見る。

「もう無理だろ…これしか居ないんだぞ!」とほざく海兵を、昨日磨き上げた半長靴で蹴り飛ばす。さぞ痛かろう。

「貴様等!幻影大隊は破壊工作を実施した!貴様等海兵隊より彼奴等の方が優秀だ!貴様等は懲役大隊にも劣る敗北主義者だ!」

カムシアが怒鳴ると無言で顔を伏せた。

「貴様等は敗北主義者か?貴様等は英雄として凱旋するのではなかったのか?家族を護るのではなかったのか?貴様等が死ななければ貴様等の代わりに愛する家族が死ぬんだぞ!!」と私が再び怒鳴る。すると伏せた顔を起き上がらせ力の限りを尽くした声で答える

「それだけは……絶対にさせない!絶対に!」と答える。その勇気が全員に伝染したのか、誰かが怒声に近い声で歌った。

これはなんの歌だったか?

あぁそうだ…これは戦士の歌だったな


 俺は沖にいる海兵隊、殺戮マシーンだ!

緑の光が灯った時に敵を殺し、俺はキルマシーンは任務を成功させる!

東西南北どこにでも 俺はお前がこっちに来る時、頬笑みを浮かべる 俺は勝つからだ!

 俺は変わり者で、お前が行こうとする場所に死をもたらし、血の小川が流れる!

遠くの昔にともされた火に向かって俺は進む 俺の隣に立てば、お前は一人ではない!

俺は最初に赴き、最後に去る !神よ私が老いる前に殺してください !

 俺は内なる悪魔の恐怖で動き、照準には敵の顔を!我が手で狙い、我が心で撃ち、南極の氷のような我が忠誠で殺す。

俺は兵士だ!俺は進みゆく! 俺は兵士だ、俺は進み行く!

俺は戦士でこれは俺の歌だ! 俺は戦士でこれは俺の為の歌だ !


 周りの海兵隊員に歌が伝染していきビーチ全体が揺れた。全員が生物兵器対策にガスマスクを着けているにも関わらずビーチが揺れた。

Semper Fi!!とカムシアが叫ぶとウラアアアア!と怒声を挙げる。

「HQ HQ!砲撃支援を要請する!57S UD 859 492!wp及びHE!オワリ!ぶちかませ!」今度は私では無く無線手が怒鳴った。

「各員着剣!突撃発起用意!ぶっ殺せぇ!」誰かが怒鳴る。

今回の要請は前より早く砲弾が飛来した。着弾が突撃の合図で、皆が一斉に飛び出す。

 気付けば私が数え切れ無かった生き残りも突撃に参加していた。突撃中、何度も敵弾が何発か防弾ベストに当たったがアドレナリンのせいで衝撃に気づけなかった。

 海兵が、水陸機動団が、特殊行動中隊が走り、叫び、敵の塹壕の敵兵に弾をばら撒き、飛び込み、銃剣で敵兵を刺突する。

「塹壕を制圧しろ!」

 敵の自動小銃もアドレナリンに身体を支配されている今では精神効果もストッピングパワーも無い。

 私は敵トーチカの銃眼の真下まで浸透し、私は手榴弾を投げ入れた。敵兵の悲鳴が爆発音と共に耳に届き、顔に生暖かい液体がかかった。しかし、もはや気持ち悪いと言う感情は消え失せている。トーチカの入口から突入し、まだ生きている敵兵を射殺する。降伏させる気は無い。

「オールクリア!」

「塹壕を制圧する!衛生兵を要請しろ!」

「了解!」と無線手はトーチカの外に出る。だが、出た瞬間に無線手の頭がクワァンと破裂した。

 ウルフは咄嗟にしゃがみ、鏡で外を確認すると敵一コ分隊が塹壕を奪還しようと試みていた。私はとっさにトーチカに据えられている重機関銃の握把を握り、塹壕を奪還しようとする敵兵に重機関銃の弾丸を浴びせかけた。

「衛生ここに救護所を立てろ!戦闘に参加できるものは私に続けっ!」

「了!」


──しかし、何度もの刺突での返り血と雨と海水で濡れ、身体は重くなり、海水で喉が痛いほど乾いた。

 目の前の塹壕に飛び込み、近くの敵兵に対して引き金を引く。これを繰り返す度に喉の乾きは増した。

まともに水を飲めたのは、第二波が上陸し、障害物を抜け、我が中隊の傘下の89式fv4両と10式戦車1両が我々と合流したときである。

「…ウルフ」

「妹紅…生きてたか…」

「あぁ、残念ながらな。」

ここにたどり着くまでの戦闘で砂や血に塗れ、特に近接戦闘に長けた妖夢や椛は酷い。

「ナイトアイ、現残存兵力は?」

我中隊の無線手は顔に付着した血液を拭っている最中だった。

「残存兵力は第一波はほぼ壊滅残存兵力は5000足らず。第二波も地雷や敵砲兵により死傷者が出てるとのこと、詳細は不明」

「敵の無線は傍受出来ないか?」

「ブリッグのジャミングの成果でしょう。我々の周波数とデコイ周波数くらいしか繋がりません。」

「そうか。それなら良かった。…CPから我々への命令は来てるか?」

「はい、貴隊は貴隊傘下部隊Ωを率い右翼側敵陣に浸透。敵対戦車ミサイル及び野戦砲迫陣地を無力化されたし。」 

「了解した。了解したと送れ。各員装甲戦闘車に搭乗しろ。乗れない何人かは跨乗、タンクデサントだ。行くぞ!」

車長は全員(後方支援の永琳と5班を除く)一両に2班ずつ跨乗したことを確認して前進し始めた。


「今のうちに水分補給しろ。あと何か腹に入れた方がいい。」

──まだ近くとも遠くとも言い切れ無い場所で銃声、爆発音、悲鳴が聞こえる。だからといって、助けるわけでもない。我々は無駄な死を、悲鳴を見すぎた。聞きすぎた。戦友の死を見すぎた。

 もう一度仲間を見ると全員が硝煙と汗と血にまみれ、戦場の匂いがした。全身が痒い、鉄帽も汗に蒸れ、頭を掻けば掻くほど痒みが強くなる。私の装備は血みどろだ。いや、装備だけじゃない、手も身体も血まみれだ。


─刹那、光の線が高速で前方の戦車に向かった。野戦砲の至近弾である。FVに跨乗していた我々にまで破片が飛んできた。──しかし次のそれは《至近弾》では無かった。

「逃げろ!早く逃げんかい!」前のFVに跨乗していた隊員が叫んだ。

 しかし左履帯が切れて左旋回してサトウキビ畑に突っ込んだ戦車にもう一発命中。今回はミサイルで流石に戦車が炎上擱座し、跨乗した兵士が燃え盛る戦車から飛び降りた。


 衛生兵!助けてくれ! メディィック!と手足を失った兵士や、負傷した兵士がのたうち、泣き叫んで居た。何とか軽症で済んだ兵士が唯一の障害物の89式装甲車に負傷兵を隠す。

 これなら即死した戦車兵の方がよっぽどマシだろう。

「各車散開!サトウキビ畑に入れ!」


[CP CP!敵兵接触!被害1両及び9名!依然戦闘続行可能で有るが困難を期す!]


 四分五裂した部隊の状況報告すると即座に返答が「了解、幸運を」と冷酷な応えだけが帰ってきた。

──幸運を…か、我々ではなく二階級特進した彼等に言ってやるべきだろう。

 重々しく、バシ!バシ!と言う連射音が聞こえ、着弾点は辺りに小爆発を起こした。敵機関砲である。

そして我が方の装甲戦闘車が射撃地点と思われるところに射撃する。私も装甲戦闘車に隠れながら敵火点と思われる所に射撃を加えた。

「撃て!連射も許可する!」制圧射撃と同時に手榴弾を投げる。

「マスター!ロボが負傷!」その報告に背筋が凍る

「処置は!?」

「今、全力で優曇華が治療中です!」

「了解!他の負傷者は?」

「今のところ無し!」

「了解!特殊行動中隊各員へ!89FVより離散!89FVに気を向けさせ我々は敵砲兵陣右側面から叩く!敵の右横っ腹を蹴り飛ばすぞ!ΩはFVに随伴!」と出来るだけ素早く指示を出す。腰をかがめての全速力で走る。途中何度か転びそうになるがその都度辛うじて立て直す。 


 敵砲兵陣地右側面に到着するまでとても長く感じた。到着したときには敵は撤退を始めていた。もちろんその機を逃さず発砲する。5.56ミリの小気味良い銃声と共に薬莢と銃口から飛び出した弾丸が敵の身体を引き裂く。

 前方からは歩兵戦闘車、右からは弾丸という混乱状態で最期の足掻き、と戦車に対しRPGを構える勇敢な敵に私は単発から3点射に切り替え、引き金を引く。

──当たった。だが絶命には至らずこちらに向いて落としたRPGが暴発して弾頭がこちらに向かう。


「伏せろ!」

 とっさに伏せた。運良く弾頭は地面当たり、土砂を巻き上げたに過ぎなかった。

小石がヘルメットに当たりコツコツと音がなった。

「負傷者報告!」

「1分隊無し!」

「2分隊無し!」

「よし負傷者ゼロだな。交互躍進を実施、2分隊は支援射を─」

その言葉を遮るようにミニガンの連射音が響いた。どうやら取り逃がした敵兵は対空砲を制圧した為に前進出来たオスプレイのm134に掃射されたらしい。そのオスプレイから次々と隊員が降下してくる。

「ナイトアイ、無線貸せ。」

「了。」

[CPこちら特動中隊(特殊行動中隊)敵砲兵陣地を無力化。次の命令と戦線の状況を乞う、オクレ。]

[こちらCP右翼側は優勢、左翼が劣勢。貴隊は現在報告されている装甲車等含む敵増強4個大隊の正面からの攻勢を阻止するため防衛陣地を構築せよそちらに増援として工兵一個小隊含めた五個大隊強送る。それまでは現戦力で対応せよ。オワリ。]

 なんというざっくりとした命令だ。不可能にも程がある。

「CPは何と?」

「五個大隊と一個中隊で戦車を含む4個大隊を耐えろとの命だ!各員、陣地構築急げ!敵は真正面からくる。足りない武器は鹵獲兵器を使ってでも穴を埋めろ!」



左翼水陸機動団隊員


クソっクソっ!と叫びながら戦友の出血してる胸と腹を押さえる。

「衛生!衛生は居ないのか!」と叫ぶが銃声に掻き消され虚しく散った。

すると戦友が俺の手を胸から払おうとする。

「もう…良いよ…」と震えた声で話す既に虫の声だ。そりゃあそうだろう、防弾ベストで弾丸の貫通力が低くなり貫通より危険な盲管銃創が3箇所、右足欠損に加え腸がはみ出ている。

「撃…たれた…場所は熱…いのに…身体はすげぇ寒い…はは…あぁ、もう駄目だな…」さっきより声が弱々しい。

「何言ってんだ!帰ってエロ動画見んだろ!」と叫ぶと無意識に涙が流れる

バディの頬に涙が落ちた。するとバディの目に初めて涙が浮かんだ。

「お前がっ…代わりに…見てくれ…痛いよ…痛いよ…」

言葉使いは汚かったが、彼の心底を表した優しい瞳の光が消える。

「おい!待てよ!おい!!絶対逝かせねぇぞ!逝くな!目を開けろ!」

「ありがとうな…バディ…」

故郷の親友、戦友は目を閉じた。





「──中隊長、陣地構築及び爆薬設置完了しました。」とベノムが報告してきた。

「ご苦労だった、各自弾倉を点検の後装填」と落ち着きを取り戻し指示を出す

「分かったご苦労、各自弾倉を点検の後に弾薬の再装填装填を徹底しろ。ジャムが怖い。」

「了!」ベノムは伝令に走っていった。

──さて、どれほど耐えられるか。

 指揮所は55分後に一個旅団を送り込んで来る、そこまで耐えるしかない。

敵が来るまではもうやることが無い位に尽くした。

「すまんなナイトアイ、ちょっと歩いてくる。」

「了、一応お気をつけて。」

 

 仮塹壕の中を歩くと全員が顔を強張らせている。塹壕内には吐瀉物が幾つも合った。皆は恐怖と戦っているのだろう。若い衛生隊員と眼が合った。これもまた恐怖で顔を強張らせている。

私は緊張を解すために「期待している。大丈夫。君は死なない。」と彼の肩を叩くと、彼は少し顔を和らげた。私の心はズキリと傷んだ。


─塹壕の端まで行き、優曇華と椛の持ち場の塹壕の壁にもたれかかった。


「優曇華どうだ?」と対人狙撃銃を構える優曇華に問う

「7キロ先、動き有りです」と返す。

普通スコープ越しでもそこまで見えない

「流石だな」

「流石にスコープが無いと見えないですがね」

「そうか…ナイトアイ。通達しろ。戦闘用意。合図があるまで退避壕にて待機。COP撤収。各員命ある限り諦めるな。」


 その後、律儀に砲弾の雨あられが降り注いでくる。それこそ雨みたいに。

「全員!伏せろ!」喉が張り裂けるほど叫ぶ。

「耐えろ!数分もしたら収まるぞ!そしたら射撃開始だ!」

 数分後確かに砲撃は収まったが、敵が最期に残した煙幕が邪魔だった。しかも、苦労して掘った塹壕は砲弾で崩れ落ちていた。

「各個サーマルの使用を許可する!分隊にて射撃開始!」私は指示を口早に出す。


 ジッと光学照準鏡を覗き込む。

─捉えた。

敵がスコープに入ったと同時に発砲する。

タンッタンッタンッ!

 片目のサーマルの中で敵兵に弾が当たり踊るように倒れた。


 すると少し晴れた煙幕から戦車の砲塔が覗いていた。ゴツゴツと爆発反応装甲が取り付けられ、目玉のように取り付けられた熱源発見装置

─クソっt90か!とっさに判断し、ベノムに指示を出す。

「ベノム!KP1をの爆薬郡を起爆しろ!」

「あの一両にこの爆薬を!?」

「教義を思い出せ!ロシア軍のドクトリンは横列で突撃する!ならば粉砕できる道理だろう!」

「了解!」

「全員口を開けろ!」と無線に叫ぶと10秒後、爆風と爆発音が響き渡る。

ここまで敵の砲撃を含み30分経過。

「ウルフ!不味いぞ!」私をウルフと呼び捨てする男は一人しか居ない。

「カムシアどうした!」

──塹壕が突破されかけていると言う報告だった。

「アサシン!妖夢!勇儀!グリック!早鬼!妹紅!ついて来い!」と叫びつつ走る

 走りつつ近づく敵に射撃するが当たったかどうかは分からない。砲撃で塹壕が崩れている箇所や味方を治療している衛生が有り、戦闘前歩いた時よりも端にたどり着くには時間がかかった。後方支援組は左翼上陸の支援の為、支援は受けられないが時折聞こえる弾幕の爆発音が頼もしい。

「衛生!下がれ!下がって治療出来る者は下がって治療しろ!戦闘員が通るし危険だ──」


──刹那、砲撃音が聞こえとっさに伏せるが、爆風と破片をもろに食らった。

 塹壕の壁に思い切り背中を打ちつけ、視界が暗転した。音が遠く聞こえ、アサシン、妹紅が必死に声を掛けてくる。

「クソッ…タレ…」と言うと3つ影が近づく…敵兵だ。


 反射的にm1911を抜き、撃つと敵が壕内に崩れ落ちる。

なんとか身体を起こそうとするとバランスがおかしくてまた倒れる。

 

 それはそうだろう、左腕の付け根から二の腕まで裂傷していて、もはや骨周りの肉で辛うじてぶら下がっていると表現した方が良いだろう。それになんだか左目がおかしい。──と思うと自分の顔から眼球が落ちた。

「っ………う」と左目から脳を貫く様な痛みがはしった。

─これくらい…明日には治る!

すると「衛生です!」とあの若い隊員がスライディングのように飛び込んできた。

その場で左腕と左目に止血用包帯(恐らくこれ以上裂傷が酷くなら無い為も有るだろうが)を巻き「救護所でもう少し詳しく処置しましょう!」と私をトラッキングする為に立ち上がる。

──その一瞬、世界がコマ送りになったように見えた。

 光の線があの若い隊員に吸い込まれる様に近づきヘルメットを貫通し頭蓋に当った。若い隊員は脳漿を撒き散らして骨の破片が私に突き刺さる。

「これが戦争…か…」と思わずつぶやく

「マスター!」「ウルフ!」妹紅とアサシンが私に向かって叫ぶ。

「何人か壕内に侵入!」

「了解!妹紅!アサシン!妖夢はついて来い!それ以外は此処で持ちこたえろ!」

「「了解!」」

 突撃を敢行する敵兵に対して射撃を続行しつつ何とか目的地にたどり着いたものの、陣地は突破されていて、全滅だった。

 

 どれだけ戦闘が激しかったかは、悲惨な塹壕を見て明らかだ。壕内は崩れ落ち、四肢が散り、血に染まり、頭を砕かれた兵士が有り、まだ息のある者の悲痛な悲鳴が木霊した。

 その中に二本足で立ち、負傷の少なく、銃を構え、モザイクの様な迷彩を着た男がいる。─ロシア兵だった。

〘タンタン、タタタ〙

 容赦無く5.56ミリ弾の射撃を浴びせかけ、倒れた露助にも死体に鞭打って確実に殺した。

「ウルフ!」妹紅の鋭い声が届く。

 自分の後ろで敵兵士がこちらに銃を構えていて、殺気で振り返ると、音もなく近づいた妖夢に脳から叩き切られている最中だった。

「すまん!」

「後ろにお気をつけて!ほらっ!」

 振り返ると5人の敵が近づいてきていた。その敵兵士に発砲するが弾が途中で途切れた。

「くそっ…弾切れか!」

 敵も弾切れなのか銃剣突撃を敢行している。とっさに銃を横に倒し、それを刺突を防御しこちらも銃剣で対抗する。


 ガッと銃本体を打ち合わせる「ぐぬぅ…」と双方声が漏れる。左腕を負傷している分、私が不利かだ。

それでも銃剣戦術なら、近接戦闘なら、我々が上に居る。

「ハァァァァァァ!」

 相手の足を右足で絡め取り、距離が近すぎるので銃床で相手の頭を突く。相手が悶えて居る所に容赦なく銃剣で喉を突く。私は返り血を浴びて戦闘服が朱に染まった。


─きっと、傍から見た私は鬼の様だろう。




 目の前の敵兵を斃し、自分の師匠を見る。

すると「是非も無し…」と後ろに手を回し、何かのグリップを掴みそれを引き抜いた。シャリンと此処まで聞こえる小気味良い音が聞こえた。今、ウルフの手に握られているものは刀だった。──敵兵がその師匠に近づく

「……まずい!」と敵兵に照準を合わせ、引き金を引く──前に敵兵は斃れた。


─師匠が目に止まらぬ速度で切った。


それ以外考えられず、思わず我が目を疑う。だが、その師匠も膝から崩れ落ちた。

「マスター!」と駆け寄りながら壕外へ弾をばら撒く。

「大丈…夫だ…」と言っているものの、破損してもなお辛うじて形を保っているウルフのガスマスクから覗く顔は病人の様に真っ青だ。

「このままではマスターは死んでしまいます!衛生!っ…!」


 そこに地ならしの様な振動に足を奪われる。

─戦車か。

 残った敵兵力の2個大隊半が突進する。明らかに敵は4個大隊では無い。戦車のみならずbmp-2も迫る、その腹の中にも兵士を抱えていることは明白だ。

 もう何人斃しただろうか、何人死んだだろうか、もはや意味の無い事を想像する。我々の残存兵力はもはや1個大隊有るか無いかだろう。


 崩れかけた壕内から火の玉が戦車に向かう、対戦車ミサイルだ。だが映画と違い1発じゃ倒せなかった。もう一発撃て!と願うも、その対戦車ミサイルも戦車の砲撃で粉砕された。航空隊や1個旅団の増援は到底間に合わない。


 もはやこれまでかと諦めかけたその時、奇跡が起きた。後ろで美しい光が輝きその光に敵味方関係なく釘付けになった。


その光の矢が敵に向かい撃破した時、ようやく気付いた。《彼女等》である。

 我々に絶望を与えた敵が、為す術も無く撃破されていく。

──また爆発が起きた。

 彼女等と比べてしまうと美しさの欠片のない、無骨な艦砲射撃と攻撃ヘリだ。しかし、頼もしさは段違いだった。攻撃ヘリの後ろには、輸送ヘリのチヌークやオスプレイが向かってきていた。

 今度こそ自分も膝から崩れ落ちる

「見ろ…味方だ…」と誰かが呟いた

 渇望した1個旅団の増援がようやく来た。その中でも衛生隊員の到着はとても早かった。敵兵に対して自衛戦闘では無く自ら攻撃を仕掛け、塹壕内に突入した。


 俺は彼等にモルヒネを打たれながらこらえていた涙が止めどなく流れた。






[──こちらCP!敵部隊が撤退!繰り返す!こちらCP、敵部隊が撤退!]


その無線に周りの生き残り全員が口々に万歳や喜びを叫び、そしてその喜びはもう逢えない戦友を想い涙に変わった。「中…隊長より…通…達」私は口元に酸素マスクを着けながら無線に言った。

「全員…良く頑張った…!」


──左翼でも戦闘が終わり明日には橋頭堡を作り終え、今週中には最終作戦が実行されるはずである。

 後片付けを終わらせると、午前6時に始まった地獄はもう夜中になっていた。

右翼側のあの戦いで最終的に生存したのは遂に1個大隊だった。その大隊は後に《現代のラストバタリオン》という伝説になった。

 そのラストバタリオンの中にはウルフ達、特殊行動中隊のことは語られなかった。そこで刀を持った自衛官、否、武士の事も未来永劫の隠された記憶となった。

間がかなり空いてしまいました!申し訳ありません…皆様、どうか良いお年を!

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