桜となって散った英霊と先祖の為、今を生きる同胞の為。
───祖国の為、とある巨艦が目を覚ました。
その艦は、救国の女神として沖縄へ向かった、しかし、その思いと巨砲は届くことは無かった。
暗闇の愛国者
─フランは、ふと眠れずに目を覚ました。隣ではウルフこと近衛が苦しげに寝息を立てていた。
「…お兄様?」
「ぐ…う……何故…救え無かった…」寝言だ。
「大丈夫?」
「清神子…お前を…救え無かった…戦も…また…止めれ…なかった…」ウルフは目尻に涙を浮かべる。
こんな弱音を吐く近衛は初めてだった。フランは堪らず近衛を揺すった。
「お兄様!お兄様!」
近衛はゆっくりと瞼を開けた。近衛が涙を隠そうとしない事もフランを困惑させた。
「フランか…」
「お兄様…大丈夫…?」
「私は…戦を止めれなかったばかりか、お前達を巻き込んでしまった…申し訳無い」
私は首を懸命に横に振った。
「お兄様のせいじゃないよっ!」半悲鳴の様に絞り出した。
「なんで…なんでお兄様ばかり苦しむの?なんでみんな…お兄様を苦しませるの…平和の為にボロボロになって闘ってるのに…」
近衛は悲しげに瞼を閉じた。
「私がボロボロになっている事に気づかなかった。だが、私は同胞の為にこの生命を捧げているのだ。悔いはない。」
「でも…」何故か悲しくて俯いていると、近衛は優しく抱きしめた。
「…有り難う。しかし私は大丈夫だ。お前が心を苦しめなくて良い。大丈夫だ。」
「…お兄様…」
Si vis pacem , para bellum
汝平和が欲しければ、戦に備えよ。
近衛はこの言葉を自らで体現して居る様な人だ。自らを兵器として平和を求め続けている。
武装した平和は、綺麗な世界では偽物の和平と言われるだろう。でもいつかはそんな偽物の平和が戻ってくる。それが本物の平和かもしれない。他国では格差があり差別が有って戦いがある。それが平和なのかも知れない。けどそんな平和でも、偽物でも取り戻したい。──近衛がこれ以上苦しまない様に。
「─お兄様…大好き。だから…もう苦しまないで…私も…幻想郷のみんなも荷物を背負うから。」
「……有り難うな。」
日本連邦制国家
「…この護衛は…なんというか…」と八雲紫は戸惑う様につぶやく。
「要するに過剰と言いたいんだろう?」とカムシアは笑いながら言う
紫はウルフ、カムシア、ロボの3名に護衛されている普通の隊員なら足りないだろうが参加する隊員は精鋭無比の隊員である。
それ以前に─「スキマで移動出来ても万が一だ、すまんが耐えてくれ」と私は伝える。
そう。紫の能力たるスキマによる移動中は如何なる者も手を出すことはできない。ましてや、目的地は官邸の地下。これ以上警備が厚い所は他に存在し得ない程に保安状態は高く、我々の護衛は必要ないだろう。
「不快とも思って居ないけれどね。」
「感謝する─では、今回の行動を軽く打ち合わせる。」
隊員は3名は私ことウルフとカムシアとロボで、作戦目標は八雲紫の護衛兼総理及び特戦群との今後の打ち合わせであった。
「──隊長、何故自分なんですか?」自分が護衛に選ばれ、不安なのだろう。
「他の隊員にはない能力が貴官には有る。それは反射神経の突飛だ。瞬時の判断が必要な護衛任務に最適と考えての人選だ。それに私やカムシアも居るから安心しろ。だが気は抜くな。」
「了解。最善を尽くします。」
「それで良い。紫。出立だ。スキマを開けてくれ。」
それを横で聞いていた紫はスキマを開く。それは日本の未来への扉かもしれなかった。
祖国安寧を祈る。
スキマを抜けると官邸の会議室だった。長机の真ん中に首相の席、首相の席に対面する形で防衛大臣そして左には特戦群郡長、副群長が座り、右側には私達が座った。
──5分後、総理が入室し「総理入室!」と全員が起立し敬礼を捧げた。
首相は席につき「国家に命を捧げる自衛隊員諸君等、特殊作戦群並びに特殊行動小隊そして幻想郷代表八雲紫殿、この度は国家元首として非常に感謝します。」と深々と頭を下げた。
「そして、国防に命を捧げる諸君等に、殉職された方を公に表彰や称えることも出来ていないこと、非常に申し訳ない。近衛一佐はこの間負傷したばかりだそうで…とても頭が上がりません。」
「いえ、職務ですから。私と引き換えにこの国が救われるのなら悔いも恐怖も有りません。それより、急がなければ警備上からしても危険です。盗聴もありますから。」
──会議は想定通り幻想郷と日本の関係についてや今後を話し合った。
会議は休憩を挟み1時間行われた。なかなかにスピーディーな会議だった。
方針が決まったのは以下の通りである。
一 幻想郷と日本の関係について
幻想郷が存在して居る場所はミサイル攻撃により壊滅後立て直す予定は今のところ無いので八雲紫が幻想郷とその土地を管理することになった。その為、実質的に日本は連邦制に成る。
二 警察の武装強化
先の生物兵器γ感染拡大による歩く死者こと歩屍の感染拡大時で警察の拳銃では威力不足が指摘されたこと、また敵が本土侵攻を始めた際には即応の戦力としても期待できるからというメリットが有る。武装は通常の交番勤務の警察官にはSIGp226を、そして地域や交番によるのだが交番に一丁のベネリm4を配置すること。警察署には64式を配備する。
三 今後の戦争方針
韓国奪還から沖縄奪還に変更となる。理由は韓国は戦線硬直状態にあるのでその空きに沖縄を奪還する。第一段階は制海権の奪還、第二段階は制空権、第三は幻影大隊の陽動上陸、最後は我々特殊行動小隊、アメリカ海兵隊、水陸機動団による上陸作戦での奪還である。
─二回も沖縄を戦場にするのは実に心苦しい。
「諸君、日本は諸君等の奮戦に掛かっている、頼んだぞ!」
防衛大臣に力強く背中を押され、その言葉に全員が頷いた。組織は違えど志しや守るべきものは同じ同志なのだ。
〈貴君はなんの為に戦うか〉
もう会うことも聞くことの出来ない声が自分の耳に囁やく。何時も胸に抱いている誓いを思い出した。
我の任務は、同胞のみならず英霊の名誉をも護ること。泥に、血に溺れ、墓無き最期であろうとも、時に泥水をすすり生肉を食らう時も国民、国家の安寧、独立、領土、財産を守り抜く為にいかなる者からの圧力にも負けず我が血を流し戦い続け、誇り高き同胞や英霊、貴女との思い出と貴女が愛したこの國を護る。我々がまた《税金の無駄》と呼罵られる機関に戻る為に。
──あぁそうだ、どんなときもこれを胸に抱いて戦ってきたんだ。
懐かしさに胸が締め付けられるが噛み殺し、スキマに入る直前に口を開いた。
「防衛大臣一つ宜しいですか?」
「なんだ?」
「例の艦は?」
ニヤリと防衛大臣が笑う「もちろん準備は出来ているさ。君達が一番喜ぶのでないかな?」
「─すみません」と幻想郷に帰還し直ぐにロボが尋ねた。
「会議に出た例の幻影大隊ってあの…」
「あぁそうだあの幻影大隊だ」
幻影大隊
義勇軍や自衛官そしてアメリカ軍等から集められた部隊だが彼等は愛国心や憎しみに駆られた命令違反、捕虜虐殺または虐待の容疑で問われる隊員で構成された部隊である。幻影大隊と付いているものの実際には執行猶予または懲役部隊であり、その中には死刑囚など犯罪者も編入されている。
「彼等の犯した罪とは言えあの作戦は…」
「…これが戦争だ」
「………ウルフ」とカムシアも顔を伏せる
「こちらが残酷にならなければ死ぬぞ」とロボの肩を叩きその場を離れる。
残酷にならなければ負けるぞ。と言ったが日本にもうそんなことは出来まい。
「あの頃ならな…」とタバコを蒸かすと横に誰か来た、顔も見ずに名を当てる。
「カムシアか…?」
「あぁ…」
「俺等の出番は11ヶ月後だな」と独り言の様に問い掛けられる
「だが用意には短いな…」と私は答える
「一年近くあるだけマシさ、訓練の始まりだな…とても楽しみだ」
苦笑いしながら返す「気張るぞ!」
少女訓練中…
訓練
訓練が始まった。教官は元軍人の優曇華が引き受け、もちろん我々特殊小隊も教官として教鞭をとる。
我々特殊小隊は例外だが、もともと特殊部隊は他国軍の教官としての仕事が多い為(我々は自衛官候補生と傘下部隊Ωの自分の担当班に対しての訓練が多かったが)お手の物である。
11ヶ月と短い期間ではとても足りないと思って居たつもりだが、幻想郷からの戦闘員は戦闘慣れしており銃火器、野戦、筋力など泥臭い物以外は優秀な成績である。その為、幻想郷の隊員の銃火器は護衛用として拳銃が渡された。幻想郷の戦闘員は筋力は少ないが戦闘力が高い者は多く、ならば銃は比較的に軽く頑強なグロックが選ばれた。
例外として筋力が有る者はMINIMI軽機関銃、89式が渡されたが。
編成は永遠亭組、妹紅、椛、射命丸文(偵察兵の為、共に行動できるわけではない)、勇義、畜生界組、妖夢は前線。紅魔館組、霊夢、魔理沙、幽々子は後方支援の配置になった。
戦闘まで残り3週間に迫り、最後の総仕上げとなった。
できるだけ被害を抑える策を練っているとアサシンとカムシアが目の前に現れた
「何だ?」と目の前の2名に問いかけた
「被害のことを考えて居るのでは?マスター」とアサシンが問う
「まぁな…お前等、どれくらい血が流れると思う?」
「沖縄上陸と韓国上陸、合わせたらノルマンディーと同程度の血が流れるぞ?」とカムシアは冗談を交えた。
「確かにな」と少し笑みが漏れる。
「マスター。支援射撃はどうするのですか?ミサイルや護衛艦の艦砲だけでは絶対量に足りません。やはり何か策があるのでは?」
私はちらりとカムシアを見た。興味津々といった目でこちらを見ていた。助けを求める相手を間違えてしまった。
「どうせ直ぐに分かる。と言っても聞かんな。明日、切り札を視察しに行く。ついてこい。」
46センチの昔話。
目的地に到着し国の切り札を見せると「こりゃあでかい」と誰かが言った
「マスターこの船は…」
「沈んだ…ということになっている」と答える
「隊長…この船…いや、艦の名はもしかして…」
「あぁそうだ、大和だ」その名に懐かしさが込み上げる
〈戦艦大和の経歴 1945年、沖縄ヘ向かった大和は米軍の空襲に襲われ、三〇五六人と共に深海へと沈んだ〉
─3月。大和が沈んだ坊ノ沖にて大和沈没90年を迎えた今年、現在の大和はどうなっているかを調べる為にテレビ各局は無人潜水艇で撮影を実施した。大和は沈没時の大爆発により海底に船体が散乱しているのだが、今回は違った。大和には一切の破損後の無い、沈没前とさほど変わらない容姿に変わっていたのだ。─そう、もう一度、祖国を護りたいと言っているように
このような話は通常のなら有り得ないお伽話だが、今の日本、否、世界は違う。この世界は幻想郷と融合しているのだ。幻想郷と融合しているこの世界ではこのような事はありえてしまう。その大和を日本は莫大な金と莫大な労力─幻想郷の人員までを使った為、何とか引き上げる事が出来たが─を使い海底に眠る大和を引き上げ、大和が生まれた地たる呉の大和が作られたドックを使い近代化改修を施した。
機関は原子力となり、主砲はミズーリの自動装填装置を大和用に改造し自動装填になっている。副砲は撤去され少し広く改造した砲座には5×5にv l sが設置され、太平洋戦争時代(天一号作戦時)には機関砲が九十六式機関砲だったが全てファランクスになり高射砲はsamミサイルになっている。艦載機はヘリに変わり、現在は不要となったカタパルトは魚雷発射管に変更された。弱点でもあったリベットを溶接に変更し、何より昔のゴツゴツした容姿では無くステルス性も考えたのか滑らかな容姿となっている。
私は大和の舷側に手を当てた。すると大和自身の記憶だろうか、何か聞こえてきた。
耳からでは無く脳に直接聞えるという感覚だ。
──もっと、もっと教えてくれ。
私は静かに目を閉じた。聞こえてくるのは銃声だ。──あぁ、これは。
大和が沈んだ坊ノ沖海戦。
地獄の情景が瞼の裏にスクリーンの様に静かに浮かび上がる
タタタタタタ、と対空機関砲と高角砲の咆哮が聞こえ、空薬莢と死体で足の踏み場の無い大和の甲板が現れる。
「右30度!高角45度!撃ぇ!」「ぎゃぁぁぁぁ!腕がぁ!痛い!衛生!」「畜生共!ぶっ殺してやる」その他にも、最早逢えない父母や愛する人の名を呼ぶ声や純粋に悲鳴がこだまする。
──しかし若者がそれでも尚も砲座にかじりつく。
その砲座に無情にもアベンジャー攻撃機は機銃を掃射し、血肉が舞う。
─モウ…ヤメテ…彼等ヲ…撃タナイデ…
誰かの悲鳴を聞いた。少女だろうか。私の意識は艦橋に移動した。そこでは艦長が伝令管に耳を傾けていた。
「注排水区画満杯!最早これまでです…」
有賀耕作艦長が伝令管で伊藤整一長官に報告した。
「そうか…残念だったね……」と第一艦橋に沈黙が支配した。
「ご苦労だった。総員最上甲板。」長官は長官室に閉じこもった
その命令は伝令管を伝い各所に伝わった。
「嫌だ!この艦を!捨ててたまるかぁ!」若者達はそれでも尚も砲座で戦う。
14時23分 遂に艦が倒れ、弾薬庫が誘爆し轟沈した。否、その表現は相応しくない
まさに大和は桜が咲いた様に散ってみせた。祖国を護ろうとした若者の血と手足が舞い、紅い桜が咲いた。
ウルフは一つ、頬に白銀の雫を流した
「すまない…また…」両膝が崩れ落ち、手で身体を支える
「隊長!?大丈夫ですか!?」とナイトアイが駆け寄る
「私はまた戦争を止められなかった…許せ…許してくれ……もう一度…この国の為に…戦ってくれ…護ってくれ…」
大丈夫 ソノ為ニ 此処ニイルノ 同志
あの記憶の中の少女の声だった。
「副長?今の声は…」フォックスが困惑していた。
─という事は、皆にも聞こえているという事だ。
「分からん。だが大和の声だ。それだけは分かる。」
「そんな事ってあるんスカ?」
「…大和が眼の前にある時点で驚きだ。だが、この世界が幻想郷と融合しちまった今。何が起きてもおかしくねえ。」
「…もう一度戦艦が復活する可能性が有ると?」ナイトアイは少々困惑気味に笑った。
「あぁ、反戦を誓ったこの国でまた復活するんだ。皮肉だろ?」
「この国も無茶をしたもんだ…」と私は泣き笑いの様に言った。
「まぁ、アメリカさんはアイオワ級を整備して戦闘に参加させているからな、なんとも言えんが。」とカムシアが言う
「アメリカも無茶をしますね」とナイトアイが言う
「…無茶をしなければ戦争に生き残ることが出来ない。戦争だからな。」
「もしかしたら戦争博物館とかの銃火器まで持ち出すかもしれませんね」ベノムが冗談めかして言う
「そうならないよう頑張ろうじゃないか」
──少しだけパンターやティーゲル、チャーチルやシャーマンが現代戦で戦うところも見てみたいが残念ながら見ることは無いと願いたい。もう一度、平和な世界を取り戻す。その為に我々は居るのだ。
最終訓練
ダンダン、タタタタと朝霞駐屯地の射撃場に様々な銃声が弾ける
「うん!良くなったじゃない椛!」双眼鏡から目を移し椛を褒める
「いやー鈴仙の指導が上手かったからだよ」と言ってくれる
「確かにな、私も鈴仙は指導が上手いと思うぞ」勇儀が軽機関銃を撃ちながら言う
その時放送が流れた
幻想郷の者は体育館に全員集合せよ
「──訓練中すまないな、諸君等に渡すものがある」
それはウルフ達特殊行動小隊が着けている部隊章だった。それが全員に配られたことを確認したウルフは口を開いた。
「簡潔に話す。─諸君等はこれより我々特殊行動小隊の正式に隊員となった。諸君等とそして八千慧、早鬼、埴安、紅魔館の組織員、畜生界組の組員、兵士、妖精メイド達合わせ226名となりそれに従って特殊行動小隊は中隊となった。この中隊は危険な任務が主である。そんな中隊に入隊した勇敢な諸君等を歓迎する。」
ウルフ達が一人一人丁寧に部隊章を着ける。一人一人言葉を律儀にかける。
「今夜は隊員クラブは行けないが幻想郷の酒屋は許可された。紫のスキマで幻想郷に行ってくれ。ただし騒ぎすぎるな、隊員としての節度を持って飲酒してくれ。」そしてウルフの「解散」の号令で全員が故郷である幻想郷に向かった。
状況開始
NATOは沖縄奪還作戦を実行し、午前3時ごろ第一段階の制海権の奪還を開始した。
特殊行動中隊は5班に分けられた。
1班はウルフ、カムシア、アサシン
2班は妹紅、永遠亭組、椛、ロボ
3班は義勇、畜生界組、グリック、ブリッグ
4班は妖夢とベノム、バーサ、ロボ
5班は支援隊とナイトアイ、フォックス
制海艦隊は大和を旗艦にイージス艦7隻、アメリカ海軍のジョージ・ワシントンと護衛のイージス艦10隻、自衛隊空母1隻、潜水艦16隻、護衛艦10隻。上陸作戦艦隊は輸送艦30隻、強襲揚陸艦18隻、軽空母2隻、潜水艦2隻、護衛艦7隻と大判振る舞いである。
「─あのこれ全滅したら国庫が吹っ飛びますよ…」と輸送艦から艦隊を見たバーサの顔が引きつる。
「いや…多分これ国庫どころじゃないっスよ…」
「「…西側諸国の金の半分は吹っ飛ぶよな…」」ブリッグとグリックは
「まぁそれほど重要なんだよ、沖縄はな」とカムシアはいつもどおりにのんびりと話す
さて…久方ぶりに地獄に行けるな
「あとニ日したら我々は地獄に行くぞ!後退、降伏、敗北?」と私は問う
「「「クソ喰らえ!」」」
「戦死、地獄、ヴァルハラ」
「「いつでも来い!!」」
「よろしい」
その6時間後、海戦が始まった
チェックポイント
傘下中隊ーーΩ中隊及びa部隊
《開戦》でも書いた通りウルフ達特殊行動中隊の傘下部隊であるが、場合によっては独立した部隊としても編成される。
それと同時に開設された部隊のa部隊がある。これは航空支援部隊で、ヘリ等による支援を主とする。
隊員戦闘準備中…
隊員全員が入浴し消毒済みの戦闘服に見を包み艦内を消毒する。それは隊員が被弾した際の化膿を防ぐ為である。まさか、日本海海戦時の日本海軍も実践した事をまさか身を持って体感することになるとは。
──まぁこの処置は東郷長官に対するリスペクトも合ってのことなのだが。
俺はcicに入った。
「長官入室!」山田、という若い艦長の声が木霊した。
俺は隊員を休めにして喝を入れた。
「いいか。これからの戦は二次大戦後初めての大海戦だ!心してかかれ!そしてその名誉ある勝利を俺達が勝ち取る!」
「「「おう!」」」艦隊長官大船匠は部下の士気を確認した。
今は100キロ後方にいるジョージ・ワシントンの乗組員達からも無線の連絡があり士気が高いとのこと…無線の後ろでアメリカ国歌を電話越しに聞こえる程の音声で歌っていることにはどう反応をしたら良いやら。
此処で負ければジョージ・ワシントンより後方の上陸部隊や、まだ沖縄の北側で抵抗して居る同志の敗北を決定づける沖縄奪還作戦の決戦なのだ。血が凍る。
「偵察機より報告!我より南に450キロより敵船およそ空母20!大艦隊です!」
「かかったなジョージ・ワシントンより艦載機発艦させよ!及び各艦、長射程弾、ハープーン用意!第一戦速」
了解!と伝令兵は廊下に消える
「さて、どうなさいますか?艦長?」と私同様、歳の食った副長が問う。
「勿論私達が最前列さ、歌舞伎も落語も同様、最前列が良かろう?」
「若いもんには伝わらないと思うが?」
「年寄りが分かれば宜しい」
「年寄りとは私の事か?」
「この船のことも忘れるな?」
俺は笑いながら話を濁した。
私モ まだ ソンナ歳じゃないヨ!
誰かが脳に直接怒鳴った気がした。
海戦
艦隊を大和が最前列の楔形に変更する。
対空兵装、装甲の観点からも大和が最前列はやはり合理的だろう。
36分後ついにハープーンは敵艦隊を捉えた。艦長と砲術長は鍵を火器管制装置に差し込み、安全装置を解除した。
「右砲戦!ハープーン!テェ!」
「了!敵艦隊!148000!右砲戦!ハープーン発射ぁ!」
後部vlsから対艦ミサイルが2発発射された。バシャーという音と共に次々に発射される。
レーダーには敵艦に向かうミサイルとこちらに向かうミサイルが表示された。
─当たれ!頼む!
俺は柄にもなく祈った。
これは実戦、当たれば敵味方関係なく死傷者が出る。仲間を信じるしか無いのだ。
─その時レーダーに表示された敵艦に向かうミサイルが次々に消失した。残るミサイルは10基ほどであるそして残るミサイルもciwsに捉われ消失。残り2基に減った。
──頼む、当たれ!
──願いは叶った。1基が当たったのだ。
「「うおぉぉ!」」一気にcic内が沸き立った。〈敵艦〉に与えたダメージは低いだろうが〈敵〉に与えた心理ダメージと味方に与えた士気はとてつもなく大きかった。
「騒ぐな!次弾発射急げ!、敵弾15、距離136000、来るぞ!」
本艦の艦長は自らの沸き立つ心を押し殺し指揮を執った。
「前部 vls 及びsm3迎撃用意!」
「了、目標、敵対艦ミサイル、s m 3 テッ!」
「味方艦に向かう弾は撃ち漏らすなよ!」
──敵弾に向かうミサイルは全部で15、出来るなら全て外してくれるな!
だが、ミサイルは…2基逃した
その2基は全て本艦大和に向かう──チャフは間に合わん!
「砲術長!ciwsコントロールオープン!」
「了、ciwsコントロールオープン!」
「ばら撒け!」
ガーーーと重厚な音を鳴らし、大量に設置されたファランクスがミサイル2基を叩き落とす。
だが、1基は近距離過ぎて、瀑圧で艦内に被害が出た。
「損傷軽微!戦闘続行可能!」
──しかし120分もすると、流石にこちらにも被害艦が発生した。
「…官!イー…ス艦が対艦ミサ……被弾!死傷者…り!現速度、第三戦速!」
損害を報告する警報に邪魔されながらも何とか聴き取り指示を出す。
[こちら制海艦隊長官!護衛艦後方に送れ!被害艦が増えて艦隊が不味くなれば空母部隊から引っ張れ!]
[了!]
俺の仕事も忙しくなってきた。
「敵艦距離報告!」
「敵艦距離、100000!長射程弾の射程圏内です!」
「よーし!艦長!ヴォルカノ弾射撃用意!」
「了解!射線確保できた艦から砲撃開始!」
「了!」
主砲が重々しく動き出す、大戦中よかマシな旋回速度なのだろうが、それでも遅い。
「主砲統制射撃!目標敵空母及び護衛艦!弾種長距離対艦榴!遅延0.5!方位243!仰角35!距離99000!撃ち方控え!」
「全主砲照準よし!」と砲術員は報告する
「「全主砲!うち〜かた〜初め!」」
ビーーー警報が鳴った。もう一度ビーーーと警報が鳴る。
─絶対ニ!私ガ愛する人達を攻撃する者は!許さない!
──戦闘前に聞いたあの声だ。そうか。大和。お前なんだな。
イヤーマフの上から耳を押さえ、口を開ける。
この行動は設計上必要ないのだが、訓練中に鼓膜や内臓が微妙に痛くなったので念の為である。
そして主砲は雷も遥かに凌駕せしめたる咆哮を挙げ、艦全体が揺れた。もしかすると艦隊全体が揺れたのかもしれない。
─発射から50秒
「弾チャ〜〜ク!今!」
さぁどうだ。
「敵被害!フリゲート艦1!防空艦2損傷!大型フリゲート1至近弾により撃沈!敵空母に軽損害あり!」
「よし!引き続き砲撃続行!」と指示する、すると副長が語りかけてきた
「防空艦は殆ど反撃不能だ、長官、攻撃隊を発艦させては?」
「いや、攻撃機では無く戦闘機を飛ばす。」
「何故?」
「攻撃機は大量の対艦ミサイルを搭載するが動きが遅い、敵艦隊には損傷したとはいえまだ空母がある。なら対艦ミサイル2発、ほかは空対空ミサイルを搭載したf35戦闘機を7機飛ばす。上がってきた戦闘機が怖い」
「なるほど、私から命令しておく」
「助かる」
56分後
敵艦はその後何隻か撃破した。だがこちらも被害が甚大な艦が何隻か、本艦に至っては多数の対艦ミサイルの直撃。普通の艦なら戦闘が難しいが大和は無傷かの様に戦闘を続けている。
そして対艦ミサイルの残弾数は本艦大和は零で味方艦からも残弾が少ないと報告多数。
主砲弾は A I が計算しているとは言え、誘導出来る長射程弾は撃ち切ったので、残りは誘導は出来ない通常弾だ。
「艦長!敵弾飛来!」
「ミサイルか?!」
「いえ!砲撃です!長官如何がなさいますか!」
「よし…避けられる艦は避けろ!無理な艦は本艦を盾にしろ!だが出来るだけ艦隊を崩すな!」
「大丈夫なのですか?」観測手が心配そうに尋ねる。
「安心しろ、この船を何だと思っている?大艦巨砲主義時代の骨董船だ。対艦ミサイルだって耐えたんだぞ?たった100ミリ連装砲の砲撃なんてセミ、いやダニの小便だ。」俺は少し盛って話した。
被害は出るだろうがね。と無粋な事は言わない。
そして20秒後、まさに雨のような砲撃が降った。
「艦長!被害報告しろ!」
「甲板に直撃、ですが依然戦闘続行可能です!」
「よろしい、航行に被害がある被害にはには応急処置しろ。」
「了、各員航行被害があるc56区画とc55区画に、ダメージコントロール」
「艦長!対艦ミサイル25接近!」
「s m 3は?!」
「残弾数が13発!足りません」
「それで良い!砲術長!撃て!残りはciwsに対応させろ!」
「了!」
「艦長!敵ミサイルの目標は?」
「本艦です!長官!味方の掩護は?!」
「砲撃で無理だ!」
しかし、もっと残酷な報告が入った。
「艦長。長官。これを。」
「どうした!?」俺は観測手に問う
「第二波の対艦ミサイルです、そしてその後方に敵機です。…最早抵抗手段はciwsと主砲のみ…です。」と静かに伝える。
──クソッ敵機は主砲の対空弾で落とせるかもしれないが対艦ミサイルはイージス艦の主砲じゃないと無理だ!どうする流石の大和でも一度に25発以上は致命傷に成りかねんぞ!
すると、無線が起動した。
「──旗艦大和へこちら《ながしの》。本艦が盾になる。これは隊員全員の意思だ。繰り返す、旗艦大和へこちらながしの、本艦が盾になる。これは隊員全員の意思である」
《ながしの》が速力を上げて最前へ躍り出た。
CIC内はその場の時が止まった様だった。
俺は止めようとして無線を掴んだが、副長に阻まれた。
「何故だ!?」俺は少し声を荒げる
「《ながしの》は合理的だ大和の戦闘はこれで終わりではない。制空の奪還そして上陸支援だ。ここで沈めば作戦が成り立たない。
大船、頭を冷やせ」
いつもどおり穏やかな声で話す。俺は苦渋の決断をした。
「…分かった、《ながしの》へ達す、提案を許可する…ながしの艦長、ながしの隊員諸君、諸君等と戦えて光栄だった幸運を願う」
「こちらこそ。あの大和と戦えたことや素晴らしい骨の捨場所を与えていただいた事感謝します。大船さんお互い孫に誇れますな」
「嗚呼そうだな。だが死んでくれるなよ。孫には自分で伝えてくれ。」もう返事は無かった。
──そうだ、俺も死ぬつもりは無い先月産まれたばかりの可愛い可愛い孫にじいちゃんがこの国とお前のお母ちゃんお父ちゃんを守ったぞと報告する。そのために戦ってきたんだ。そうだ俺も人だった。敵も人だった。
俺にはもう一つ任務がある。ーー生きて帰ること。
《ながしの》の最期
対艦ミサイルは本艦にも向かってきた。途中で誘導を変えたのだろう何発かが、大和コースから外れる
「諸君、最期の仕事だ、もうひと踏ん張りだ!行くぞ!」
「ハッ!」と震えた声で答える者、泣きながら答える者、だが全ての隊員に通ずるものがある。ーー最期まで戦う意思だ
「本艦に向かうミサイルは左舷ファランクスで対応、二波に対して対空ミサイル残り全部ぶつけろ!」
「了!」
しかし、3分後には全弾撃ち尽くした。残る兵装は主砲飲みだ。
「砲術長、敵艦及び敵機に自動照準の後に総員退艦せよ」
砲術長は身体をわななかせた。
「照準…出来ても…射撃は誰か…残らなければ無理ですよ…」
「私が残る」
「艦長は!」と砲術長は叫ぶ
「艦長は家族もご子息もお孫さんもあります!」
ほとんど怒鳴る様な声で叫んでいた。
「私を担げるか?もう俺はだめだよ。足砕かれてんだもん。」と言うと砲術長は口をつぐむ。
「君と一緒に戦えて良かった。」
─照準と退艦作業は早かった。
「ここまで有り難うな。」
──部下の背中は最期まで悔しげだった。
砲撃は少しは収まったが依然として依然大和に砲撃が向かっている、それに負けじと砲撃している大和から《ながしの》を遠ざけた。砲撃とミサイルをを少しでも引きつけるデコイになるためだ
──俺も年か。
この艦橋を歩くだけで疲れる。砲術長の席に座り、モニターを見るとやはり自動照準で敵艦に照準が付いている。
私は引き金をひく。初弾ははずれたがもう一発もう一発と撃つとようやく当たった。ゲームの様な感覚だ。
残弾数は残り少なく数発撃つともう弾切れだ。私は艦長席に戻り、隠しておいたチェリー酒をあおる。
原液の強烈さに顔をしかめるが美味しかった。
──さて、俺はこの年だ。もういいだろう。
俺は目を閉じた。
─あぁ、クソみたいな人生かと思ったが、案外楽しかったなと想いを馳せる。
砲弾が空気を切り裂く音が一つハッキリ聞こえた。当たるな?と思った刹那、砲弾が艦長席に直撃した。
俺の最期がこんなに華があるたぁなあ……
《ながしの》艦長…すまん
口には出さず沈没する艦と艦長に黙祷する
気付けば敵艦隊は撤退していた。
最終的な本艦の損害は
残弾 主砲弾残弾39発ファランクスは100000発持ってきたが残弾数10000程 対空、対艦ミサイル残弾数零
被害 火災9浸水13 故障6 被弾数 ミサイル9 砲撃169 依然作戦行動可能
艦隊の被害は1隻撃沈、5隻は砲撃の直撃、または至近弾、航行に支障が出るのは2隻、その2隻は佐世保に送り、その他は作戦通り空母部隊と合流し敵空母は損傷していたので何とか制空の奪取に成功した。
敵味方の損害は艦隊では五分五分、制空権奪還を考えるとぎりぎり辛勝だろう。
──だがこれを勝利とは思えない
ゲームの様に勝敗はわかりやすい勝敗無いのだ。戦闘の損害の応急処置を済ませ、寝室に向かう。
寝室にたどり着き、床に就くと何故か波の音がとても悲しい音色に聞こえた。
何時もはとても癒やされるのだが、今日はただ、悲しく聞こえた。
ながしの、お前の敵は私達が討つ だから安らかに眠れ。
《ごめんね…守れなかった》
あの声がはっきりと聞こえた。
作者のハンクであります。前作はかなりの方が見てくださったようで驚きです!(やったー!)
これからも頑張ります!