第8ページ目
新章スタートです。行き当たりばったりではありますが、楽しんで読んでもらえたら嬉しい限りです。
竜王。
それは、古の時代に竜を唯一倒すことが出来たとされる存在である。竜王は、人々が毎日、笑顔で過ごせる世界を作るべく奔走したが、竜王が守ろうとしていた国民に裏切られ―――――――――――処刑された。
『また竜は現れる!国が怠け、貴族が仕事をサボり、奴隷制度をなくさぬ限り!僕はその時まで生き続ける。たとえ、今日ここから姿を消したとしても!』
そう言葉を残して、竜王は姿を消した。
それから800年経ち、竜王がまた再び現れた。その竜王の名は、オルフェルド=トゥサンといった。かつての竜王から力を授けられ、二代目竜王となった。初代竜王と手を取り合い、本当の平和な世界を作ると決意し、竜王としての活動をスタートさせた。
そんなオルフェルドは、今や世界的なヒーローに近い存在となっていた。【ヨコスガ帝国】の国民を救い、そして、【ダナスティーナ王国】を襲った竜を退けた。その情報は瞬く間に広がり、オルフェルドはヒーローのように讃えられたのだ。連日、新聞の記事にオルフェルドの名が書かれ、“竜王復活!”とデカデカと見出しつけられていた。
それから数日経った。
「オルフェルド様、今日の授業はここまでにしましょう」
「はい、ありがとうございました」
オルフェルドはそう言うと、リュックの中に教科書類を入れていく。エリナとの久々となる授業を受けていたのだ。久々となる授業ということもあり、いつも以上にオルフェルド自身、やる気が満ち満ちていた。竜が本格的に復活し、国を襲うようになっている現状がより刺激しているのかもしれない。
「オルフェルドくん、お疲れさまです。お茶をどうぞ」
だが、今までの授業とは少し違っていた。それは、冬花の存在である。
冬花は、【ヨコスガ帝国】在住であったのだが、竜に襲撃を受けたことで【ダナスティーナ王国】に避難をしていたのだ。その避難生活はまだ続いていた。それは、まだ【ヨコスガ帝国】で生活することが不可能に近い状態であったからだ。しかし、当の冬花はこの状況を喜んでいたりする。オルフェルドとまだ一緒にいられるからに他ならない。そのことは、オルフェルド以外の兵士、エリナそして冬花の両親は知っている。冬花の両親たちはオルフェルドに冬花をもらってほしいと本気で思っていたりしていて、それをエリナが聞いたことで再び修羅場が形成されることとなっていたのだが、それは省略する。
冬花は、オルフェルドがエリナに勉学を習っていると聞き、冬花は、オルフェルドと共に私も勉学を教わりたいとダナスコスと中川に申し出た。だが、ダナスコスと中川は知っている。エリナの授業を受けたいというのは建前で、オルフェルドとエリナを二人っきりにさせないためだ、ということに。
ダナスコスと中川は、冬花の申し出に対して保護者の同意があれば、と条件をつけた。【ダナスティーナ王国】国王ムルモンド=ダナスティーナに許可をもらうことは容易のことであるとダナスコスと中川は踏んでおり、保護者からの許可の方がおそらく厳しいのではないかと思ったのだ。しかし、冬花の両親は、即座にOKを出し、ダナスコスと中川は呆気に取られたことはここで記しておく。
そして、今の授業の状態となっている。
「冬花さん、オルフェルド様にくっつき過ぎです。離れてください」
エリナは、オルフェルドにべったりくっついている冬花を睨みつけながらそう言った。この風景はエリナと冬花が顔合わせをしてからも度々起こっていることでオルフェルドの悩みの種となっていた。
オルフェルドは、最初のコンタクトからエリナと冬花が何やら揉めていることに気づいていた。何に揉めているのかはオルフェルドは知らないが。
何で揉めているのか、遠回りな言い方でエリナと冬花に聞いてみたものの、それは効果は全くと言っていいほどなく、むしろ、二人の関係がより悪化しているような気さえする。どうにかこうにかオルフェルドが二人の仲介役をして、仲良くなってほしいと思っているのだが、なかなかうまく行かない。オルフェルドはどうすればいいのか分からず、途方に暮れていた。
(これは、またダナスコスさんたちに相談かな········)
オルフェルドはそう思うと、晴れた空を見上げた。町並みは平和そのもので竜による襲撃があったことを思い起こさせない。建物がいくつか崩壊していてその修理をしている場所もあるにはあるのだが、人々の表情は笑顔が絶えない。
今日も平和だ。··········オルフェルドの周囲を除いて。
◇
【ダナスティーナ王国】王宮一室にて、オルフェルドの授業が終了し、ひと悶着あったとき、中川とダナスコス、ムルモンドは机を囲み、話し合いをしていた。議題は言わずもがな先日の一件のことだ。
「【ヨコスガ帝国】の復旧作業はまだ困難な状況ですが、【ダナスティーナ王国】の復旧そのものは順当に進んでいるようです」
「それは、よかった。先日の一件は国民にとっても我々にとってもゆゆしき事態だ。復旧が順調であれば、多少の不安は削がれよう」
「ですが、問題は残っていますよ」
「··········竜の襲撃、か」
先日の一件で初代竜王によって守られていた結界は破壊された。人々は竜が襲撃してきたとしても、結界があるのだからこの国は安全だと考えていたであろうが、先日の一件で状況は一変した。
結界の破壊。それは、この国も【ナガスティナ王国】と同じ末路を迎えるのではないのかという不安を押し寄せるものである。ムルモンドはシワを寄せながら思考をめぐらす。今回の一件はオルフェルドによってなんとか事態の収集を図ることができた。しかし、次はそう上手く行くとは限らない。国民の中にも不信感を覚えている者もいるだろう。反乱こそ起きていないが、それがいつまで続くかは分からない。
「なにか打てる手があればいいが········」
「兵士の訓練内容をより厳しくするとかはどうでしょう?オルフェルドさん一人に任せっきりは無責任なはず。我々にも何かしらできる手立てはあるはずです。かつて竜王が存在していた頃と同じような対処法を取るのがベストかと」
「··········して、かの竜王がいたときの対処法とは具体的にはなんだ?」
ムルモンドの問いに対して中川は黙り込んだ。竜王のいた時代、つまり800年前には今とは比にならないほどに竜からの襲撃があったことは想像するまでもない。平和な時間が長かったがゆえに考えづらいことではあるが。
そんな時代に竜王ただ一人で竜への襲撃を対処していたとは考えにくい。何かしら他の兵士たちと手を取り合い、襲撃を退けていたと考えるのが妥当だろう。しかし、中川自身にはその対処法が思いついていなかった。過去の文献に当たろうにも竜王の情報は【ナガスティナ王国】によって処分されており、ほぼ情報は皆無に等しい。この国で教鞭を取っていた頃の情報に当たっても竜の襲撃に対する対処法は乗っていないことは中川は確認している。一体、いかなる方法を用いて、竜との戦いを乗り越えてきたのだろうか。
「私が確認した限りでは対処法に関する情報は見つかりませんでした。ですが、竜王ただ一人で竜に対応していたとは考えにくいのは先日の一件でわかっています」
「···········対処法に関してオルフェルドに聞くのはどうだ?」
ダナスコスは隣に座る中川にそう尋ねた。中川はバツが悪そうな顔をして、
「すみません、そのことを失念していました。オルフェルドさんには先日以降あまり顔を合わせていなかったこともあったので」
「ダナスコスよ、オルフェルドに聞けば具体的な対処法は分かるというのか?」
「それはわかりませんが、なにか手がかりとなりうる情報は得られるかもしれません。オルフェルド曰く、竜王の“霊体”が見えるそうですので」
ダナスコスはオルフェルドから聞いた眉唾ものの話をした。竜王の霊体が見える、という話を。
オルフェルドに聞いた内容によると先日の一件によってそれが可能になったとのことだった。初代竜王と手を取り合い、現状打破をし、そして、本当の平和な世界を作っていく。それが初代竜王とオルフェルドが掲げている最大の目標であることも。
ムルモンドはそのことを聞き、シワをより寄せながら、むむむっと唸った。
「···········霊体に関しての話はにわかに信じがたいが、オルフェルドが嘘をついているようにも思えん。············分かった、ダナスコスと中川、二人に任せよう」
話し合いは終わり、ダナスコスと中川は一礼をして部屋から出た。
「今頃オルフェルドの授業は終わっているだろからこのまま直接行くぞ、中川」
「了解です、ダナスコスさん」
二人はそのまま王宮内でエリナと冬花の二人と揉めているであろうオルフェルドの元へも歩き出した。
◇
ダナスコスと中川がオルフェルドが授業を受けている部屋に向かっている頃、オルフェルドはエリナと冬花の二人とお茶会をしていた。なんでも冬花は最近、料理の練習をしているらしく、その一環なのかわからないが、お茶の入れ方?みたいなことも学んでいるらしい。オルフェルドはそれを聞き、冬花の勉強の熱心さに尊敬の念を覚えた。オルフェルド自身もそこそこ勉強に熱意を注いで来たつもりであったが、やはり“つもり”という感覚がなかなか拭いきれていなかったようだ。冬花のように自分から新たなことへと挑戦する姿勢がオルフェルドにはまだまだ弱い。エリナも授業準備のために勉強に力を入れているであろうことは想像するまでもないため、勉強においても、人間性においてもオルフェルドは二人にまるで及ばない。天と地ほどの差がオルフェルドとエリナ、冬花との間にはある気がした。
(まだまだ精進が足りないんだろうなぁ。かと言って兵士としての訓練の時間を減らすわけにも行かないし、全面的に時間の使い方をもう一度見直すしかないのかな)
オルフェルドはそんなことをぼんやり考えながら冬花が入れてくれたお茶を飲む。舌にひんやりとした冷たさのあるお茶が流れ込んでくる。お茶というものはオルフェルドにとっては高価なもので奴隷であったころは泥水をすするくらいしかできなかった。お茶の値段そのものも【ナガスティナ王国】では結構な値を張るものであったから、冬花の家はやはり結構お金持ちなのかもしれない。そう考えると今の生活はかなり贅沢なのではないのか?と疑問が湧いたが、考えれば考えるほど頭を抱えたくなる気がしてきたので思考を中断する。
「オルフェルドくん、このあと時間ある?」
「このあとか···········訓練がたしか、4時頃に入っているからそれまでなら」
「それじゃ、私のおすすめの商店街に行きませんか!」
「冬花さん、オルフェルド様はそのような場所には行きませんよ。竜王であるとか関係なしにオルフェルド様は騒がしいところを嫌っているのだから」
「えっ··········?そ、そうなのですか?オルフェルドくん」
「まぁ、そうだね。得意ではないかな。でも、冬花がおすすめしてる商店街っていうのは気になるかな」
「そ、そうですよね!今から行きましょう、“二人きりで”!」
なんで“二人きり”を強調したのだろう?オルフェルドはそんな疑問を抱いたが、特に断る理由もない。頷いて冬花のあとについて行こうとした。そのオルフェルドの様子を見てエリナの顔が絶望に染まっていることに気づかずに。
「それじゃ、オルフェルドくん行きましょう!」
冬花は張り切ってそういったところ、
「随分とにぎやかだな、この部屋は」
「オルフェルドさんたちはいつもこうなんじゃないんですか?ダナスコスさん」
ダナスコスと中川の二人が部屋の中に足を踏み入れた。冬花はカチンと動きを止めた。二人に『どういうこと?タイミングをもう少し考えろよ』と目が伝えてくる。ダナスコスはそんな冬花の様子にまたオルフェルドがなにかやったのかと頭を抱えたくなった。中川はそんなダナスコスの様子に苦笑いを浮かべる。当のオルフェルドは状況を全く理解していなかった。
二人が意味もなくこの部屋を訪れるとは思えない。オルフェルドはなにか自分に用があってきたのだろうと考え、しかし、つい先程、冬花と出かける約束をしてしまったんだよなぁと頭を抱えながら、
「え、えっと············ダナスコスさんに中川さん、僕になにか用でも?」
「ああ。このあと少し良いか?」
「このあと··········ですか」
オルフェルドはちらりと冬花の方へ視線を向けた。当の冬花は苦渋の決断とでも言うかのように『行ってください』とオルフェルドに伝えてきた。オルフェルドは『ごめん、この件は必ず別の形で返すから』と冬花に言う。
「それでは、別室で話をしよう」
「わかりました。エリナ先生、冬花。行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい」
「·········いってらっしゃい、オルフェルドくん」
エリナは笑顔で、冬花は残念そうな表情でオルフェルドに返した。
オルフェルドはそんな二人の声を聞き終えてからダナスコスと中川のあとに着いていく。
「いつもああなのか、オルフェルド」
「··········?ああとは具体的にどういう?」
オルフェルドは何がなんやらと全くわかっていない様子。ダナスコスはため息をついた。中川はオルフェルドを微笑ましげに見ている。内心では『オルフェルドさん、鈍感にもほどがあるよ』と思っていたりするのだが、表情には出さないように努める。オルフェルドのいつもの鈍感主人公に付き合っていては精神的に疲れ切ってしまう。スルーするのが中川にとってもダナスコスにとっても通例だった。だが、変わらないオルフェルドの様子にはため息が付きたくなるが。
「まぁ、いい。話の内容に関して歩きながら話そう」
「·············!はい」
オルフェルドはダナスコスと中川が歩き出し始めるのに合わせて足を動かす。向かっている場所はおそらく会議室であろう。ムルモンドがその部屋にはいるかもしれない。二人は先程までムルモンドと話し合いをしていたであろうから、オルフェルドを連れてくるように言われたのだろうか?
オルフェルドはそんな推測をしながら、ダナスコスの話に耳を傾ける。
「話の件は竜王のいた時代の兵士のことだ」
「··········!兵士、ですか」
ダナスコスはオルフェルドについ先程のムルモンドとの会談でのことを伝えた。昔、竜が国を襲撃しまくっていた時代では竜王ただ一人では対処しきれていなかったのではという推測。オルフェルドは確かにそうだと思った。竜王の持つ力は万能であるかのようで不完全の代物であることは先日の一件でオルフェルドは思い知らされている。あのような襲撃が今以上に苛烈を極めていたのとなればとても竜王一人で対処しきれていたとは思えない。
「竜王に誰か協力者がいた、ということですか?」
「そのように考えるのが妥当であろう。そこでオルフェルドに頼みたい。竜王に昔どのように兵士たちが竜と戦っていたのかを聞いてくれないか?」
それは、今後の兵士たちの訓練方法や今後の竜との戦いを有利に進めるために大切なことだ。
オルフェルドはごくりとつばを飲み込んだ。昔、竜王がどうやって竜に立ち向かっていたのか。
『君に渡したその力は貰い物なんだ』
竜王が言っていたことの意味。
(そういえば、竜王のことを僕は知らなすぎる。自分が聞いてみたことがないから当然だけど、まるで僕は竜王のことを知らない)
オルフェルドはそう思ったとき、なにか脳内で映像のようなものが流れた。それは―――――――――争い?誰かも分からない人たちが戦っている。
『お前たちのようなクズどもに竜王の鉄槌を!』
誰かがそう言い、雄叫びが上がると城のような場所に攻め込んでいく。その勢力はしかし、兵士たちに着実に追い詰められていき、やがて―――――――――。
バチッ。なにか頭の中でスパークとなって弾かれた。頭痛が体全体に広がる。
「オルフェルド、どうした!」
「オルフェルドさん!」
二人の悲鳴に近い声にオルフェルドは震える手でなんとか問題ないことを伝える。冷や汗が顔を伝う。
(何だ今のは············。昔、見たことがあるのか?)
痛みがやっとのこと和らぎ、オルフェルドは壁から体を離す。ダナスコスと中川はオルフェルドを心配そうに見ている。
「大丈夫か、オルフェルド」
「一応、大丈夫だと思います」
先程の謎の頭に浮かんだ映像による動揺が断定するのを拒んでいるかのようにオルフェルドは中途半端な返しをしてしまった。
「すみません、話の腰を折ってしまって」
「いや、それは問題ない。しかし、急にどうした?明らかに様子が変であったが」
「それは········正直、僕にもわかりません。ただ、映像のようなものが突然、頭に浮かんできて·········頭痛がその後、急に来た感じで」
「··········そうか」
「ダナスコスさん、話は後日にしましょう。オルフェルドさん自身の体調のケアも我々の仕事の一環ですから」
「それもそうだな。オルフェルド、話は後日しよう。今日はゆっくり休め」
「すみません」
オルフェルドは二人に頭を下げたが、二人はそれを制した。何が起こっているのか、お互いわかっていない状況だ。オルフェルド自身も良くわかっていないのだから、二人はよりわからないことだらけだ。先日の竜との一戦による疲れが出たのかもしれない。二人はそう結論を取り敢えずつけて、オルフェルドとは別れた。
◇
とある薄暗い洞窟の中。そこには大きなホールのような大きさの場があり、そこ一面に黒いマントを羽織った集団がいた。
その集団の中のトップである、ダナコニア=オルグレインはマントを深く被り、顔が全て隠れた性別不詳の人間と話していた。
「竜神宗の勢力はまだかつての3割にも満たない、か」
「急激に勢力を増やすとおそらく今の時代ですと邪教集団と勘違いされ、兵士たちが討伐に来るかと」
「奴らは何も理解していないからな··········。兵士どもとやり合い、時間を食われるのも惜しい。当面は“ダンジョン”にて戦力を強化するか」
「それがよろしいかと」
二人は話し合いを一時中断し、集団に向けて今後の方針について話し出した。その中で多発するワード、“ダンジョン”。
「かつて竜王が存在、いや、今もいるか······竜神様が健在であったとき、我々はダンジョンにて戦力強化をしていた。悪しき竜王共も同様のことをしていたと考えられる。我々は遅れを取るわけにはいかん。先手を取り、この国を平和へと導くのだ!」
「「「「オオオオッッッッッッッッッ!」
雄叫びが洞窟内でこだました。
オルグレインはその声に満足したかのように頷いて、
「オルフェルド=トゥサン。貴様を今度こそ私が排除してやる」
オルグレインとオルフェルド。二人の戦いが再び幕を開けようとしていた。
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