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【ダナスティーナ王国】にて。
エリナは、王宮一室にいた。机に向かい、プリントの作成をしている。これらは、オルフェルドの授業にて使うものだ。
(やっと終わった·····)
エリナは大きく伸びをして口に手を当てた。オルフェルドが【ヨコスガ帝国】へと出発してから眠れぬ日々を過ごしていたのだ。エリナの目元にはクマがある。オルフェルドが旅立ってからすでに3日経過している。王宮内での話によると人命救助は順調に進んでいるとのこと。オルフェルドの活躍も耳にしている。なんでも、竜をすでに100をも超えるほど撃退しているそうだ。
エリナはこれを聞き、自分に言ってくれたことを忠実に行ってくれていること、自分の生徒が大きな活躍をしていることに喜びを覚えた。
(オルフェルド様は今も活躍なさってる。私もオルフェルド様が帰ってきてからより分かりやすく楽しい授業ができるように頑張らないと)
エリナはそう思い、プリント作成にまた戻るのだった。
◇
上空にて。
地上から10000メートル離れた上空では、竜の大群があった。それは地上にいる人々から見えることはない。仮に見えていたとしたら、大きなパニックを引き起こしていることだろう。
そんな竜の大群の中、竜の背中に一人乗っている人物がいた。マントを羽織り、そのマントには“竜神宗”と書かれていた。
竜神宗の中でも隊長などと呼ばれているその人物は、地上で買い物や家事を行っている人々の様子に青筋を立てていた。
この人物の計画では【ダナスティーナ王国】は【ナガスティーナ王国】に続く形で滅ぶこととなっていたからだ。【ダナスティーナ王国】には竜王による結界が張られているのだが、この人物にとってそれは大した意味を持っておらず、すぐに破壊することが出来ると踏んでいた。実際、その結界は800年もの前に張られたものでその効力は年々弱まっている。自然消滅することはないものの効果は弱まっているため、竜のブレスが当たれば瞬時に破損するようなレベルにいずれなることがこの人物には分かっている。今はそこまで劣化してはいないが、いずれはそうなるときがくるのだ。人々はそんなこと、露も知らないが。
「お前らはなぜ今ものうのうと生きている?お前らはすでに死んでいなければ行けないのに、だ。計画を狂わせやがって·····。我々の幹部に“裏切り者”がいないことは此度の件で判明している。つまり、我々の脅威となりうる存在がこの国、【ダナスティーナ王国】にはいるということか?」
その人物の独り言は上空でよく響いた。竜はただ滞空しているだけで音はなく、その人物の声は大きく響いていた。
「お前らは俺の計画を狂わせたのだ。死ぬ覚悟は出来ているであろうな。竜の裁きを受けろ、貴様ら」
【ダナスティーナ王国】。そこには大きな脅威となりうる敵が迫っていた。オルフェルドは、そんなことに気がついていない。が、
『やはりそうきたか。君等は昔から変わっていないね。しかし、困ったね。今、彼らに対抗できるのは彼だけだ。とにかく、彼に伝えなければならないね。【ダナスティーナ王国】に竜が迫っている、と』
空中で空気による干渉も受けないそれはそうつぶやくと【ヨコスガ帝国】へと向かった。敵を倒せる唯一の存在、オルフェルド=トゥサンにこの事態を伝えるために。
◇
【ヨコスガ帝国】にて。
オルフェルドたちは人命救助に励んでいた。【ヨコスガ帝国】にきてからすでに3日経っており、多くの人々の救助が済んでいる。
「ダナスコスさん、あと、70人行方が分かっていません」
「ふむ。範囲を最大限にまで広げるべきか····」
「そうしたほうがいいかもしれませんね·····」
「オルフェルドが駆けつけられる範囲が分かっていない。軽はずみに広げるのは良くないだろう。取り敢えず、まずは【ヨコスガ帝国】から【ダナスティーナ王国】へ保護した人々を送ることが先だな」
「竜による襲撃はどうするのですか?」
「それに関しては裏通路を使う。行きにも使ったあの道だ。早く【ダナスティーナ王国】へ送れるだけでなく、安全だ」
「·····なるほど。了解しました。何人かの兵士で手分けして人々を安全な場所へ送るよう指示をしてきます」
「ああ、任せた」
ダナスコスはそう中川に指示を出した。
ダナスコスたちは【ヨコスガ帝国】へ向かうための道のりは特殊であった。木々に囲まれた通りを抜け、デコボコ道を抜け。そうして【ヨコスガ帝国】へと到着を果たしていた。そのルートは最短かつ竜と遭遇する心配もなく安全そのものである。
また、万が一に竜と遭遇しそうになった際も隠れる場所は多くあり、死者や怪我人がでることもまたない。
【ヨコスガ帝国】での人命救助はほぼほぼ終了しており、順次に【ダナスティーナ王国】へ避難することへと移行している。いつまでも【ヨコスガ帝国】に滞在していても竜による襲撃の心配があり、人々の疲労感や不安を拭うことは出来ない。人命救助は今後も進めていくものの【ダナスティーナ王国】への避難も進めていく。二つ同時進行で進めていくのだ。
そのことを兵士たちや人々に説明し、事は進んでいく。馬車を用意し、人々がそれに乗って【ダナスティーナ王国】へと旅立つ。一度に50人が限界とかなり限られた人数でしか運行ができないという状況ではあるが、馬車は【ヨコスガ帝国】内にもあり、それらを用いて20ほどの用意ができた。つまり、一度に1000人もの避難を可能にした。
重症者や高齢者、子供を優先して避難を進めていく。子供らは馬車に乗るのが初めてなのであろう、はしゃいでいる様子が見られた。
最後列の馬車に乗ることとなった冬花はオルフェルドがいないか、探していた。周囲にいる子どもたちや高齢者は冬花のそんな様子に?を浮かべている。
(いない······。やはりオルフェルドくんは忙しいのかな?それはそうだよね。あれだけ活躍なさっているのだから)
オルフェルドの活躍はすでにここにいる人々には伝わっている。竜を倒すことが出来るその力。実際に目撃した人々からは英雄と呼ばれ、オルフェルド自身が冷や汗をかいていたという話があったりする。冬花はオルフェルドと3日の間にも交流があり、冬花の母親と父親とのコンタクトも済んでいる。冬花の両親からはそれはもうってくらいのお礼を言われ、冬花がオルフェルドに惹かれていることに両親は気づき、冬花を冷やかすなんてこともあった。
「冬花、兵士さんたちに迷惑かけないようにね」
「うん。分かってるよ、お母さん」
冬花はそう母親に言った。母親は娘の見送りに少し目に涙をためていたが、また会えるのだと切り替えて見送ろうとする。
オルフェルドはそんな冬花たちの様子を羨まし気に見ていた。オルフェルドには両親はいるだろうが、面識はなく、顔も覚えていない。昔、こんな時間が自分にはあったのだろうかと思考を進めるもそれはすぐに止まる。それはすなわち、そんな記憶はないというただそれだけのものだ。
冬花はオルフェルドが自分を見ていることに気がついた。オルフェルドは馬車から少し離れ、保護されたばかりの人が休んでいるテントの近くにいた。今も人命救助は進められており、オルフェルドはこの大きな広場に竜が襲撃してきた際に人々を守れるようスタンバイしているのだ。
(私とはやっぱり住む世界が違うのかな·····)
冬花はオルフェルドの境遇を見てそう思った。しかし、
(いや違う。オルフェルドくんだって普通の人間。私と同じ人間なんだ)
オルフェルドは冬花に向けて言っていた。
『俺は特別なんかじゃない。普通の人間なんだ』
オルフェルドには確かに竜を倒すことが出来る力がある。それは、普通の人々にはないもので異常と呼んでも良い代物だ。でも、
(オルフェルドくんは竜王の力を持っているというそれだけで特別扱いされるのは嫌いだって、そう言ってた。だから、私はオルフェルドくんをオルフェルドくんって呼んでるんだ)
普通の人ならオルフェルドの能力を知ってすぐに『様』付けをする。それをオルフェルドが嫌いだと思っていたとしても。しかし、冬花は違う。オルフェルドは一人の人間であると知っている。だから、『様』付けしてオルフェルドを呼んだりしない。普通の友人を呼ぶかのように『くん』付けで呼ぶのだ。
馴れ馴れしいと人々は思うかも知れない。けど、オルフェルドはそう呼んでほしいと冬花にお願いをしたのだ。自分のことを冬花と呼ぶことと引き換えに。それは、今後も変わることはない。
「オルフェルドくん!」
冬花はそうオルフェルドを呼んだ。周囲にいた人々や兵士は冬花を凝視した。だってそうだ。オルフェルドを『くん』付けしているのだから。
「おい、お前!オルフェルド様をくん付けって舐めてんのか!」
冬花と同じ馬車に乗る一人の少年がそう冬花に言ってきた。しかし、冬花はそんなことを気にしたりしない。だって、オルフェルドがそれを望んでいるのだから。
オルフェルドは冬花に呼ばれ、馬車へと歩いていた。周囲の見回りをしながら。周囲の警戒はいつでも忘れることなくオルフェルドはしている。人々を救うその一歩となるために。
「冬花、どうかしたのか?」
冬花の乗っている馬車からは少し離れた場所ではあったものの冬花には確かにその声は届いた。
「ふふふっ、オルフェルドくん♡」
名前を呼ぶ際に何か他のものまで混じっていそうな感じがオルフェルドにはしたが、自分の気のせいだと思うことにした。そうでもしないとなんかダメな気がしたから。
オルフェルドは冬花の乗る馬車の近くにまで来ると、
「【ダナスティーナ王国】は優しい人が多くいる。だから、心配はいらないさ」
「はい♡」
······やっぱりなんかはらんでいそうな気が···。
「もしよかったらだけど、俺が町を案内できればなぁなんて思ってたり·······」
「ホントですか!!!!!!!!」
「えっ?」
オルフェルドは冬花がここまでオーバーリアクションをするとは思っていなかった。エリナもたまにこうオーバーリアクションを取ったりするので女性はリアクションが大げさなのだなとそう思うことにした。
「まぁ、よければ、だけど。俺もまだ【ダナスティーナ王国】のことを知り尽くしているわけじゃないし、“エリナ先生”に教わってる段階だから」
「·······」
オルフェルドが“エリナ先生”というワードを出したその瞬間、周囲の空気が突如、凍った。空気が変わったことに察したダナスコスと中川はなんだなんだと周囲を見渡し、オルフェルドが冬花に向けてエリナ=高橋の存在を言ってしまったということに気がつくと、ああ!と頭を抱えた。
二人は気がついていた。冬花はオルフェルドに気がある、と。同様にエリナもオルフェルドに気がある、と。
だから、いずれオルフェルドを中心とした修羅場が形成されることを予期していた。だが、まさかこのタイミングとは思っていなかった。
「オルフェルドくん、まさかとは思いますけど、そのエリナという方は女性で?」
「ん?エリナ先生のことが気になるのか?それだったら、ぜひ会わせてあげるよ」
バカか貴様は!!!!!!!!!!!!!!!!
オルフェルドはダナスコスと中川にまさかそんな風に思われているとは気づいていない。
「そ、その······エリナという方とはお気付き合いなされていたり········」
「いやいやいやいやいや!恐れ多い。エリナ先生は偉大な方ですよ!冬花は会ったことがないから分からないかもしれないけど、俺とじゃ釣り合いが取れてないって」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。だから、お付き合いなんて俺は考えられないよ。それに俺のことが好きな人なんてこの世にいないって」
「····そ、そんなことはないと·····」
「いやあるでしょ。俺はその······人には言えない過去があるから·····」
「え?それって·······」
「エリナ先生はそれを知っても変わらず俺に接してくれてる。恩を感じることはあれど付き合うなんて考えられないよ」
オルフェルドは忘れることができないことがある。それは自分が過去に奴隷であったことだ。それは決して忘れることができないことで忘れてはならないことだ。
今でこそ、こうして竜を倒す力を持っているが、元はなにもない奴隷だったのだ。奴隷で今もあったのならば冬花ともこうして出会うこともなかったであろうし。もしかすると冬花はオルフェルドが奴隷であったと知ったら離れてしまうかもしれない。そうであったとしても仕方のないことだと割り切ってはいるが、しかし、オルフェルドが心に傷を負うことは必須だ。
「俺は冬花がとにかく無事に【ダナスティーナ王国】につくことを願ってるよ。まぁ、あのルートなら竜と遭遇する心配はいらないと思うけど万が一があるし。とにかく」
「私にはそれを教えてくださらないのですか?」
「え?」
「オルフェルドくんには誰かに言えないほどの過去があって、けどそれから目を背けずに今まで頑張ってきたんですよね」
「·······」
「私は逃げ出したいくらいの過去からも目を背けずに今を生き抜こうとしてる人を蔑んだりしませんよ。だから、オルフェルドくんが良ければ私に教えてくれませんか。オルフェルドくんのことを」
「······!」
オルフェルドが奴隷であったと冬花は知ったら自分から離れていくのではないのか、そう考えていた自分をぶっ飛ばしたいくらいの衝撃をオルフェルドは受けた。なぜなら、それは冬花を信用していないことだから。
冬花はオルフェルドに恩を感じている。それは多大な恩だ。冬花は現にオルフェルドに命の恩人であると告げている。オルフェルドはそのことを思い出して自分の浅はかな考えを捨てた。それをしないでは冬花に失礼だからだ。
(自分はやはりバカだ。どうしてこうも疑心暗鬼になるんだ。世の中、理不尽で不条理で、自分に不都合なことしかないとそう思い込んでいたのか。世界はまだ俺に優しいと言うのに)
オルフェルドが見てきた世界はまだ小さなものだった。奴隷であった頃は行動に制限が課せられ、自由がなかった。それゆえ、このような誤解が生まれたのであろうか。だとすれば、それは不幸と言わずしてなんと言う。
エリナはオルフェルドのことを蔑むように見たことがあっただろうか。いや、ない。
冬花は自分のことを蔑むように見てくるだろうか。いや、ない!
周りを信じられずにオルフェルドが竜王となれる未来はない。人を信じ、頼り、助ける。それをしてやっと竜王となれるのだ。勘違いしてはいけない。自惚れてはならない。オルフェルドにはそこまでの能力はないのだから。
「俺が今回の件を終えて落ち着いた頃に冬花に話そうと思う。そのとき、真摯に冬花に聞いてほしい。俺の過去のことを」
逃げることをオルフェルドは認められていない。逃げればオルフェルドの恩師たるエリナに恥をかかせることになるのだから。そんなことできるわけもない。
オルフェルドは、オルフェルド=トゥサンは決して逃げたりなんかしない。
「はい、そのときを心待ちにしています」
冬花はそう言って微笑んだ。オルフェルドはその笑みにドキリとさせられた。エリナに対してもそうだが、オルフェルドの周りにはどうしてかこうも美しい女性がよく集まる。良いことなのか、悪いことなのかそれは分からないが。
「それでは、オルフェルドくん。お気をつけて」
「はい、行ってきます」
オルフェルドは冬花にお辞儀すると後ろを向き、歩き出した。冬花はそんなオルフェルドの後ろ姿を見ている。その冬花の顔は恋する乙女そのもので周りにいた男どもは見惚れている。冬花の母親、父親はそんな冬花の様子を微笑まし気に見ていた。
オルフェルドの背中を押してくれたのはエリナだけではない。冬花や【ヨコスガ帝国】でオルフェルドによって救われた国民たちもいる。竜との戦いはオルフェルド一人でのものではない。全ての国民とエリナ、冬花の支えがあるのだ。
「ダナスコスさん。人命救助、再開しましょう」
「はぁ、お前には毎度毎度、驚かされるな。その意識の切り替わり具合に。ほんとお前は羨ましい限りだ」
「····どういうことですか?」
ダナスコスは何も言わない。オルフェルドは?を頭に思い浮かべるが、ダナスコスはそんなオルフェルドの様子に呆れ果てる。
(お前は【ナガスティーナ王国】で奴隷として扱われてきたと言っていたが、今はそんなことを誰も気にしちゃいない。それはお前が叩き出してみせた実績によって覆いかぶされたからだ。そして、お前の背中を押してくれるエリナ=高橋と冬花=ナカムラの存在が大きいのだ。それに気づかず、ただ救うだけとは···。なんとも言えないものだ。まぁいい。人命救助を始めていこう。まだ10人行方が分かっていないのだからな)
ダナスコスはそう思い、兵士たちに指示を出していくのだった。
◇
【ダナスティーナ王国】にて。
上空は暗い何かで覆われていた。人々はその暗い空を見上げては
「何だ、あれは?」
そう呟いていた。
王宮では、門前に立つ強面の二人が国王のもとへと走っていた。
「ムルモンド国王閣下。ただいま伝令がありました。【ダナスティーナ王国】上空にて竜の存在を感知したとのことです!」
「な、なんだと!!」
【ダナスティーナ王国】は今、竜による襲撃を受けることになりそうであることにムルモンドは驚きの声を上げた。
周囲にいた護衛の人たちもそれを聞き、顔を青ざめている。事態は最悪そのものだ。
「ダナスコスたちはまだなのか?」
「はい。人命救助にはまだ時間がかかるとのことです」
「マズイ、国民たちにそれを知られれば混乱が起こる。いや、竜王による結界があるではないか。竜の襲撃も少し耐えうるかもしれん」
竜王による結界が弱まっていることを知らないムルモンドはそこで安心したように息を吐き出した。周囲にいた人たちもそれで安心したかのように冷や汗を拭っている。一人を除いて。
この場にいた一人、エリナ=高橋は竜王による結界が壊れる可能性を捨ててはいなかった。確かに竜王による結界が壊れることは信じたくないことだが、しかし、不足事態が起こらないとも限らない。もし、竜王の結界が壊れた際、どうするべきかエリナは思考を進める。
(オルフェルド様はこの場にはいない。人命救助に向かわれている。だから、オルフェルド様に頼ることは出来ない。とすると、私が、私達がどうにかしないといけない。けど、私には何が出来る?)
エリナは不安な気持ちを思い抱くのだった。
◇
マントを羽織った人物は、竜の背中の上から【ダナスティーナ王国】を見下ろしていた。そこには、黒い上空を不審に思っている国民たちがいた。が、何か行動に移そうとしている人はいない。
「危機感の欠如····か。これもおぞましき竜王によるものか。なんともクソッタレなことだな」
その人物は、近くで滞空している竜に指示を出した。それはすなわち、【ダナスティーナ王国】を襲撃しろということ。
【ダナスティーナ王国】目掛けて竜のブレスが迫った。
「ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」
爆発音が聞こえた。そしてすぐに人々による悲鳴が聞こえた。やっと気がついたのであろう。自分たちが竜による襲撃を受けているということに。
「さぁ、平和な世界を手に入れよう」
【ダナスティーナ王国】での竜の襲撃が遂に始まった。
◇
「人命救助、やっと終了です」
その中川の一言に周囲にいた兵士たちは雄叫びを上げた。確かに多くの死者は出てしまった。けど、被害をできうる限り小さく出来たことは事実だ。
オルフェルドは中川からのそのことを聞き、ふぅと息を吐き出した。これで今回の一件は終了。万事解決だ。
そう、思っていた。
「な、なんだと!!!!!!!」
ダナスコスによるその悲鳴じみた声を聞くまでは。
「ど、どうかしましたが、ダナスコスさん」
「【ダナスティーナ王国】が今、竜による襲撃を受けている」
「な······!」
オルフェルドはそれを聞き、
「どういうことですか、それは!」
【ダナスティーナ王国】にはエリナがいるのだ。自分の恩師であるエリナがいるのだ。
(どういうことだよ·····!)
オルフェルドは必死に考えようとするが、動揺のあまり考えは進まない。
(どうしてこんなことに!)
『それは、敵の罠に君たちが引っかかったからだよ』
その声は懐かしいものだった。
『その声、お前、竜王か!』
『やぁ、久しぶりだね』
『それよりさっきのことはどういうことだ?罠?どういうことだよ!』
『落ち着いてまずは話を聞いてくれ。今は襲撃は受けているけどまだ被害は出てない』
『早く説明してくれ』
『やっと落ち着いたかな?とにかく、迅速に説明していくよ。まず、竜を使役しているやつらは“竜神宗”と呼ばれる存在だ』
『竜神宗?』
(竜神宗は、確か竜を神に見立てて祀っていた奴等だったはず)
『やつらの計画に関してはまだ僕には分からないことだらけだけど、今回のことで分かったのは、【ナガスティナ王国】を滅ぼした後に【ダナスティーナ王国】を滅ぼす手はずになっていたみたいだ』
『なっ!』
『だけど、君のせいでその計画に狂いが生じた。そして、その元凶を【ヨコスガ帝国】に追いやり、邪魔がいない【ダナスティーナ王国】を今、滅ぼそうとしているのだと思う』
『クソっ!いや、だったら今から駆けつければ』
『ふふっ、落ち着いてるね。そう、君には今から駆けつけて“竜神宗”のやつらと戦ってほしい』
『言われるまでもなくやるよ』
オルフェルドは竜王とそう話をつけると、
「ダナスコスさん!」
「な、なんだ、オルフェルド」
「俺が今から【ダナスティーナ王国】に竜王の力を使って駆けつけます。ですから、ダナスコスさんたちは後を追うように来てください!」
「わ、分かった。だが、無理はするなよ」
「ええ、分かってます」
オルフェルドはそう言うと体に青い靄を展開し、そして
「そ、空を飛んだ·····」
オルフェルドは空を飛び、【ダナスティーナ王国】へと急いだ。
◇
「クソっ!竜王の結界がまだ壊れないだと。だが、ヒビは確実に広がっている·····いや、詰めが甘いな、竜王。お前の結界は穴だらけだ」
マントのその人物は竜に命令し、そして、
『しまった·····!』
『どうしたんだよ、竜王?』
『結界が遂に壊れた!』
『なっ!』
『クソっ!やつらにバレたか·······』
『バレたって何が?』
オルフェルドは空を飛びながら竜王に問う。竜王の結界が弱まっているという話は飛んでいる中で聞いた。なんでもあの結界は800年前に竜王が作ったものでその効力は年々、弱まっているそうだ。それもそうだ。800年間も効力が持続されるなどそんなチート紛いなことはありえない。竜王とて人間だ。それにもう竜王は死んでいる。魂だけ残っていたところで、力を授けることが出来たところでオルフェルドたちを助けるべく戦うことは出来ないのだ。なんたって、竜王は死んでいるのだから。
『もともと僕が作った結界は完璧なものじゃない。一部、穴があるんだ』
『なんで穴なんて······』
『完全に閉じれば僕の結界の場合、空気すら入らなくなるんだよ。完全な結界は確かに強い。けど、空気が入らないのであれば人は生きられない』
『·······!』
『その穴を狙われたみたいだ。想定した以上に結界が早く壊れた。もう少しペースを上げられるか?』
『当たり前だ!』
オルフェルドは超スピードで空を突き進んでいった。
◇
「結界が壊れたぞ!!」
竜王による結界が壊れたことで【ダナスティーナ王国】は混乱に満ちていた。人々は行く宛もなくただひたすら走るのみ。
エリナはそんな中、王宮の外で竜の様子を伺っていた。オルフェルドは未だ帰ってきておらず、竜に対処するすべがない。けど、オルフェルドの先生をしているのだとエリナは思い、こうして王宮の外にまで出てきた。
兵士たちは全員【ヨコスガ帝国】に行ってしまっており、戦力はもはや皆無に等しい。
(私は逃げない。逃げたら、オルフェルド様に顔を見せられないから!)
エリナはそうやって走っていくと、
「そこのお前」
「えっ?」
突如、エリナの目の前には竜の大群があった。その竜の大群は人々に襲いかかるのではなく、エリナ一人を取り囲むようにしている。
「何者だ?この騒動に対して恐怖することもなく、我々に立ち向かうなど·····。それともまさか、貴様、竜王か?」
「······」
エリナは顔面蒼白になり、手足は震えている。しかし、マントを羽織ったその人物はエリナを睨みつけている。
(どういうこと?竜王って何?どうして私がこんな目に!助けて!助け、オルフェルド様!)
エリナの目からは涙がこぼれそうだった。目をギュッとつぶったとき、
『二代目竜王という偉大な存在を育ててみせたエリナ=高橋はすごい人だって、証明してみせます!』
オルフェルドがエリナに向けて言ったことだ。オルフェルドはそれを確実にこなしてくれている。それに対してエリナはどうだ?竜が目の前に現れたことで怖気づいて。オルフェルドを育ててみせた偉大な人物なんて遠のくのではないのか?
(逃げるな、私はオルフェルド様の教師。教師が怖いからって理由で逃げて言い訳がない。私は!)
「私はエリナ=高橋!オルフェルド=トゥサン様専属の教師だ!」
「······!トゥサン?どういうことだ?トゥサン一族がまだ生きているのか?それはおかしい。やつらはあの処刑によって消えたはずだ。だが、生き残っている?まぁ、いい。今回で潰せば·····。だとすると、コイツは我々の脅威となりうるかもしれない、な。まぁ、某トゥサンを潰さねばならないが。だが、それはいい。コイツをとにかく消さねばな」
その人物は、竜に命令した。エリナを殺せ、と。
竜はエリナ目掛けてブレスを放った。
(オルフェルド様!)
エリナは目を閉じた。そして、静寂。
エリナは――――――――――――生きていた。
「どういう·····?」
エリナの目の前には一人の青年の姿があった。その青年はエリナがよく知っている人物であった。エリナは涙をながしながらその人物の名を呼んだ。
「オルフェルド、様」
「ただいま戻りました、エリナ先生」
オルフェルドはそう言ってエリナに笑みを浮かべ、
「すぐに邪魔者は排除しますので後ろで見ててください」
オルフェルドはそう言い放った。
「貴様、その力どこで手に入れた?」
マントの人物はオルフェルドにそう問うが、
「答えてやる義理があると思ったか、“竜神宗”」
「·······!どこでその名を」
「お前らは手を出してはならない存在に手を出した。覚悟はできてるのだろうな」
マントの人物は、オルフェルドから湧きだつ青い靄を見て、
「竜王はまだ生きていたのか。なるほど。“転生”と呼ばれるものがあるとは知らなかったが、ここらで消すとしよう」
「消す?消されるのはお前らだろ。俺の大切な人に手を出したんだ。死ぬ覚悟を決めろ」
「死ぬのはお前だ、竜王!」
そう言ってオルフェルドに竜がブレスを放った。しかし、
シュ。
一太刀の剣筋でそのブレスはかき消えた。そして、ブレスを放った竜はブシャと血を吹き出しながら絶命した。
「なっ!」
マントの人物は驚いたように声をあげた。オルフェルドはその間を見逃すことなく、周囲にいた竜をすべて切り捨てた。
「俺はお前らを許さない!死ぬ覚悟を決めろ!!!」
「クソッ、この化け物が!」
オルフェルドと竜神宗との戦いが始まった。
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