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「して、オルフェルド殿。そなたはどうしたい。この国の兵士として竜を倒していくか、はたまた我が国の国民として生きていくか」
「私としては兵士として生きていくことは正直、嫌です。ですが、この国には恩があります。私はその恩返しのために兵士として竜を倒していきます」
◇
オルフェルドは【ダナスティーナ王国】の兵士として生きていくことを決めた。自分が奴隷であったなどは全く関係なく、人々を救い、平和を手に入れる。オルフェルドの最大の目標であり、夢である。
それは竜王ですら成し得なかったことでオルフェルドの心の中にはほんとにそんなことが自分にできるのか?と不安があった。しかし、そんなオルフェルドの様子に気づいた中川、ダナスコスに肩を叩かれ、正気に戻った。
オルフェルドは昔は奴隷で頼る相手がいなかった。だが、今はそうではない。多くの仲間が、頼りがいのある仲間がいる。仲間がいるのならオルフェルド一人では成し得ないことを可能にできるかもしれない。できるか出来ないかではなく、やろうとする。それがことの始まりであり、それをやらなくては何も始まりはしない。
どちらにせよオルフェルド=トゥサンの物語はまだ始まったばかりだ。
◇
「オルフェルド!気を抜くな!気を抜けばお前は今の瞬間に首をはねられ、死ぬぞ!」
オルフェルドは叱責を受けた。
オルフェルドは今、ダナスコスと剣術の訓練をしていた。周りには兵士たちはいなく、いるのは中川とダナスコスの二人のみ。オルフェルドは汗を周囲に撒き散らしながらも必死に食らいつく。
訓練では、剣術、体術、体力作りなどかなり厳しいものであった。オルフェルドは奴隷であったこともあり、体力が普通の兵士より少なく、すぐに音を上げてしまっていた。オルフェルドの周りにいる兵士たちは難なく行っていることもオルフェルドはできない。オルフェルドは危機感に駆られた。これでは人々を救うなど夢もまた夢。平和などとてもではないが、叶えられない。訓練が終わったあともオルフェルドは独自のトレーニングを行い、数日でなんとか普通の兵士としての訓練を乗り越えられる程度にまではにはなった。それでもまだ物足りないと感じたオルフェルドはダナスコスと中川に訓練相手をしてほしいと願いでた。体術に関してはアマタカ家当主による虐待によりそれなりに身についており、体力に関しても数日の並ならぬ修練により余力があった。しかし、ついぞ剣術に関してはかなりの遅れが今もなおあった。そのことはダナスコスと中川も知っており、すぐに承諾してくれた。それからさらに数日が経ち、オルフェルドの剣術は、
「ふむ。訓練はここまでにしよう」
「はぁはぁはぁ………。ありがとうございました」
オルフェルドはダナスコスに向けてお辞儀をした。そして、すぐに倒れ込んだ。疲労困憊。今のオルフェルドの状態はまさにそれだ。立てるようになるのには少々時間を要しそうだ。
そんなオルフェルドの様子を見たダナスコスは、
「オルフェルド、お前の剣術は当初よりは良くなった。動き自体は最初からかなり良かったが、やはりここぞというときに体がこわばっているように思う。何がそうさせているかは分かっているつもりだが、自分でどうにかその癖を直してもらいたい」
「………」
ここぞというときに体が動かない。その感覚はオルフェルドも知っていたし、気づいていた。ここで剣を抜けば、相手を倒せる。しかし、いざ体を動かそうとしてもなぜか動かない。怖がっているのだろう。オルフェルドは人を殺したことなどない。普通の人であればなおさらだが。しかし、兵士になったからにはそういった人を殺さなくてはならない状況に陥ることもあるかもしれない。そのとき、いかに相手を瞬殺し、自分の命を守るか。それがどれだけ大切で重要なことなのかはダナスコスに耳がタコになるほど聞いている。オルフェルド自身も納得している。しているはずなのに躊躇してしまう。
これはいったいどうすれば良いのだろうか。
◇
オルフェルドは自室に戻るとシャワーを浴びた。このシャワーもここ【ダナスティーナ王国】に来てから初めてのことで水を自由に使えると聞いたときは喜びのあまり奇声を上げたものだ。それのせいで兵士たちから不審な目で見られたのだが。
シャワーからは温かな水がオルフェルドを包み込み、体の芯まで温めていく。オルフェルドはシャワーを浴びながらダナスコスに言われたことを考えていた。
自分が何に恐れを抱いているのか。
これが分かれば自ずと解決へと導けると思ったのだが、自分の恐れているものがなんなのか分からない。人を殺してしまうことに恐れているのだろうか。確かに人を殺すという行為に忌避感はある。
だが、今は訓練だ。
恐れを今抱いていては戦場ではどうなる?今のままではオルフェルドはただの木偶の坊だ。オルフェルドは木偶の坊になるために訓練をしているのではない。人々を救い、平和を手に入れたい。そのためには力がいる。とてつもないほどの力が。だが、今のオルフェルドではそんな力を到底手にすることは出来ない。覚悟は決めたはずなのに、いや、そもそもの覚悟が半端なものだったのだろうか。
「考えても分からない……な」
オルフェルドはシャワーを止めると窓ガラスで自分を見た。体はそれなりに出来上がっている。筋肉も普段の訓練により引き締まっており、過去に奴隷であったことを伺わせない。手にはマメが多くあり、ところどころ潰れている。剣を何度となく降り続けたことがよく分かる。
(あれだけの訓練をしているのに俺は何も成長していない………。才能はもとよりなかったというわけか……)
オルフェルドはシャワー室から出て着替えた。その服は今までの服とは違い、豪華なもの。清潔感があり、シワがない。そんな素晴らしいの一言である服を着ているオルフェルドの顔はやさぐれつつある。自分は竜を倒せる力を唯一持っている!なんて思い上がっていたのだろうか。アメとムチとはこのことだろう。
オルフェルドはベッドに倒れ込んだ。疲労感を感じているが、考えなくてはならないことが多くある。それも多すぎるレベルで。一つ一つ問題を解決しようとするとそこに新たな問題がオルフェルドを襲ってくる。この連鎖が最近続いており、オルフェルドを悩ませていた。状況は悪くなる一方である。
ダナスコスと中川もそんな状態になっていることを知っている。だが、こればかりはオルフェルド自身がどうにかしなくてはならない問題であると思い、助言を一切していない。苦渋の選択であるのはダナスコスと中川も感じている。助けてやりたいという気持ちも当然ながらある。それでも今後、兵士として生きていくのであれば自力でどうにか解決にまで持っていき、自分の自信へと繋げる。これが兵士として必須のことである。
悩みを持つのは当たり前である。持たない兵士はおそらくいないだろう。戦場に出れば自分は死ぬかもしれない。そのことを考えずにいられないからである。死ぬということを意識しない兵士は訓練で気を抜き、ダナスコスに怒鳴り散らされていることだろう。最悪、兵士を辞さねばならないかもしれない。兵士というものはそういうものなのだ。
オルフェルドは、天井を見上げながら思考する。
(自分には何が足りない?)
オルフェルドは奴隷として過ごしている間、自由に外へ出ることが出来ておらず、主に家の掃除や家事をしていた。兵士としての訓練関係はその間、何もしていなかった。
(剣術は明らかに遅れている。ダナスコスさんや中川さんに協力をお願いしている立場なのに実力は上がっていない。訓練が足りていないのか?)
訓練そのものは普通の兵士の倍以上をオルフェルドはこなしている。そのことを兵士たちから尊敬の目で見られているのだが、オルフェルド本人はそんなことに気づいていない。
(奴隷として生きてきた時間が無駄だったということか?しかし、体術や体力は奴隷として生きてきたことによって結構な余力がある。無駄ではないはずだ。人々の心に寄り添う上でも奴隷として生きてきたことは無駄なはずがない。だとしたら、俺が足りていないのは何だ?)
オルフェルドは更に思考を進める。
(ここに来るまで知らないことが多くあった。この国が奴隷制度がないこともここに来て初めて知った。それだけじゃない。この国は貿易が活発だ。食料も困っている人は見た感じ少なそうだ。俺はそんなこと知らなかった。………、そう考えると俺はもっと早く亡命すべきだったかもな………)
オルフェルドは、はぁとため息をついた。亡命してから一月以上経つが、色々なことをオルフェルドは経験した。それは今までしたことがないことのほうが多かった。
奴隷。これがオルフェルドを今もなお縛り付けているのだ。意識的にではなく無意識に。それはオルフェルドに感知させず、無意識にオルフェルドに足を止めさせるのだ。
奴隷であったという事実は消すことは出来ない。オルフェルド自身、そんなことはもう知っている。知った上でオルフェルドはどうしたいのか。
兵士として生き抜き、人々を救い、この国に恩を返す。
オルフェルドは兵士になると決意した瞬間にそう決めた。誰かに笑われたとしてもそれは絶対に曲げないと決めたはずだ。揺るぎない決意を固めたはずだ。なら、オルフェルドは何をしなくてはならないのか。
「いまの俺には剣術はもちろん、“知識”が足りない。この国のこともそして他の国のことも俺は全く知らない」
奴隷であった頃、世界史について勉強をする時間などなかった。そのため、一般知識すら理解がない。
「うしっ!明日から気を取り直して訓練に取り組み、そして勉学に励む!俺の兵士としての人生はまだ始まったばかりだからな!」
◇
「勉学がしたい?」
オルフェルドは決意表明ということでダナスコスと中川に勉学したい旨を伝えた。それにダナスコスは少し驚いたように声を上げた。中川は昨日のオルフェルドの醜態からの今日のたくましい姿に微笑んでいた。
ダナスコスは少し悩んだ後、
「ふむ。分かった。こちらで手配をしておこう。勉学に関してはエキスパートがこの国にはいるからな。オルフェルドの勉学にもプラスになることもあるはずだ」
「ありがとうございます!」
「ああ。だが、訓練には支障がないようにな。お前は剣術がかなり遅れているのだからな。ここらで追いつかなくては、な」
「は、はい。これからもよろしくおねがいします!」
それからオルフェルドの日常は変化した。午前中全ては兵士としての訓練を行い、午後3時間ほど勉学に励む。勉学を教えてくれる先生はなんでも国王からの指示によるものらしい。いつの間にと、オルフェルドは思ったが、それは考えるだけ無駄だと切り捨てた。先生はオルフェルドと同い年の女性であった。見た目からは少し幼く少女と思ってしまう。髪はながく、しかし、清潔感がある。よく手入れがされているのであろう。
「私はエリナ=高橋でございます。オルフェルド様の勉学のお助けをいたします。どうぞ、よろしくおねがいします」
オルフェルドはエリナに礼をされたのを見るや慌ててオルフェルドも礼を返す。そんなオルフェルドの様子を見たエリナは可愛らしく微笑むのであった。
エリナから教わる勉学の内容は数学に国語、理科、外来語と多種多様。オルフェルドはそれらを学んでいく中で勉学の楽しさを知った。特に世界史がオルフェルドの好きな科目となった。それはこの国にある図書館に入り浸り、ぶ厚い本を休みの時間に読む程度には。
世界史では竜王の現れが深く記されており、克明に画像も残されていた。地名も今では滅んでしまったが、 【コンゴルナ王国】というものがあったそうだ。
【コンゴルナ王国】
かつて竜王がいた時代、最も発展していた国だそうだ。農林水産業や工業はむろん、多くの国と交流し、多くの人々が混じり合う平和な国であったらしい。
しかし、そんな国にも転機を迎える。それは竜が襲ってきたのだ。それにより国の大半が崩壊し、多くの人々は離れていった。
竜王はそれを見かねて復興に力を貸した。竜王はかねてより平和な世界をと思っていた。そのための政治を行っており、【コンゴルナ王国】とはぜひとも手を取り合い、世界を変えていきたいと考えた。【コンゴルナ王国】国王は竜王の申し出を受け、即座にOKを出し、交流が始まった。始まってすぐにまた竜が攻めてきたのだが、それは竜王の手により竜は倒され、国は守られた。
ことは順調に進んでいるかに見えた。
しかし。
竜王が処刑されたことにより【コンゴルナ王国】は他国から宣戦布告を受け、滅びることとなった。竜王というまもりがない【コンゴルナ王国】は武力のない国であると他国から狙われたのだ。【コンゴルナ王国】は確かに平和に満ちた国であったが、それは武力というものを禁止していたがためのもの。他国から侵略を受ければなすすべなくやられるだけであった。結局、【コンゴルナ王国】は滅びた。
オルフェルドはそれを読み、【コンゴルナ王国】に対してやりきれなさを感じた。この時代にオルフェルドは生まれておらず、どうしようもないのは確かなのだが、オルフェルドとしてはこの時代に生きていたのなら自分はどうしていたのかを考えずにはいられなかった。【コンゴルナ王国】は【ナガスティナ王国】よりも良き国であったことは間違いないうえ、平和でありたいと考えていた国だ。そんな国が他国からの戦争、侵略になすすべなくやられたとくれば虚しさを感じてしまう。
オルフェルドはさらに本のページを捲る。そこには竜王のことが記されていた。【ダナスティーナ王国】の国王をしていたことや【ダナスティーナ王国】有数の学校で教壇に立ったとか。そのときの写真もあり、それらは本当であったことが分かり、疑う余地もない。
歴史の中でオルフェルドは勉強していく中、間違った事実があったりすることをオルフェルドに勉学を教えている先生から聞かされた。歴史書に載っていることもたまに違うことがあったりするらしく、写真などがあれば話は別なのだそうだが、特にない場合は事実無根のことであったりするようである。だが、オルフェルドが勉学をする際に使っている教科書にはそんな事実無根なことは書かれていないのだが。
その先には【ナガスティナ王国】についても書かれていた。そこには竜王を処刑した国であるとか、そんなことが深く記されている。この本も最新のものでないため、【ナガスティナ王国】が滅びたことまでは書かれていない。それはオルフェルドの使う教科書もである。奴隷制度を廃止していないことや滅びた旨は今後書かれる予定であるそうだが。
オルフェルドは本を元の場所へ戻し、王宮へと戻っていった。
◇
オルフェルドは夕食を食べていた。オルフェルドの周りにはダナスコスと中川がいてそれだけでなく国王ムルモンド=ダナスティーナもいた。ムルモンドはオルフェルドを一瞥するとすぐに夕食を食べ始めていた。オルフェルドは一瞬、ムルモンドにじっと見られたことに少し体が震えた。オルフェルドは王宮内で住ませてもらっている立場であり、オルフェルドの態度によってはすぐにでも追い出される可能性があった。そうなればオルフェルドが兵士として生きていくことが潰えることを意味する。それではオルフェルドがどれだけ努力したところで平和な世界を手にすることは不可能に近づいてしまう。
(何か俺はやってしまったのか?確かに訓練では未だに剣術で遅れがある。前のときより体は動くようになったものの“模擬戦”では負けてばかりだ。明日もこの調子だと負けっぱなしに終わる。どうすればよいのやらか)
模擬戦。それは兵士内で行われる戦場での戦いを想定したものである。訓練では体力作りや剣術や体術を主にやっているが、ときにこうした模擬戦を行っている。
オルフェルドは模擬戦を2回経験した。2回経験したものの勝率は0。全てにおいて負けている。最初は仕方がない面もあった。剣術がまだ不安たっぷりの状態でかつ体力がなかったのだ。
2回目ではある程度、剣術が完成に近づいている中で行われた。しかし、負けた。
なぜ負けたのかオルフェルドは思考を進めていくと土壇場の起点が自分にはないことが分かった。
戦場においては一瞬が勝敗を決する。気を抜けばもちろん、剣の振りの速さによって負けが確定することもある。模擬戦ではそこまでには至らないが、それでも手強い相手と当たった場合、それが重要であることはオルフェルドとて知っている。
知っているが、それがすぐに体の反応となって現れるとは限らないものである。体はまだ素早い反応ができるようになるほどオルフェルドの体は出来上がっていない。
(まだ俺は訓練不足だ。他の兵士たちに遅れを取らないように必死に頑張らないと)
オルフェルドはそう覚悟を決め、夕食を食べ始めるのだった。
◇
夕食を食べ終えたオルフェルドたちはゆったりと世間話を興じていた。話す内容は訓練でのことや勉学でのこと。ムルモンドはオルフェルドの話を聞き、嬉しそうに顔を緩ませていた。
ムルモンドはオルフェルドがこの国に亡命してきてから悩みを抱えていることをダナスコスと中川から聞いていた。訓練では剣術に遅れが生じており、オルフェルドから訓練後の稽古に付き合ってほしい旨を言われたということも。稽古を訓練後にやるということ自体は国王としては感心するものなのだが、当の本人であるオルフェルドの剣術の腕が何故か上がらない。ダナスコスと中川もかなりこれについて悩んでいた。
そんなところでオルフェルドが勉学がしたいと突然言ってきた。ムルモンドはそれを聞き、たいそうおったまげた。それと同時にオルフェルドが奴隷であったことを思い出した。オルフェルドの普段の様子からはとても奴隷であったなど伺わせず、ときよりその事実を忘れさせるのだ。礼儀も良いし、ほんとに奴隷であったのかを疑うレベルである。
ムルモンドは考えた。オルフェルドは奴隷であったがために誰もが知っている勉学に関することを知らないだろう。そうなるとオルフェルドには一人の教師をつけたほうがいい。しかし、その教師もかなりの腕前のものでなくてはならない。半端者をオルフェルドにつかせればオルフェルドはこの国から出ていく言ってしまう恐れがあるからだ。
ムルモンドは手元にある教師たちの経歴や性格を見ていき、今のオルフェルドに最適な人材を見極めていく。
(この者はいいかもしれん)
ムルモンドは手元にある紙を見てそう思った。オルフェルドの年とそう変わらず、勉学に熱心であるこの“少女”になら。
「ダナスコス!」
「は。何用でございますか?」
「この少女を連れてきてもらいたい」
ダナスコスはムルモンドが持つ紙を見た。そこには少女の写真が貼られていた。その少女は可愛らしく、年齢は20代前半といったところ。写真だけではそれほどしか分からない。
「この少女にオルフェルドの勉学を任せるのですか?」
「ああ、そのつもりだ。無論、オルフェルド殿がダメだと判断したのなら私の方で次の者を探すが」
ムルモンドは一度言葉を切り、
「その心配はおそらく不要であろうがな」
ムルモンドはそう言って自信あり気にニヤリ笑ってみせた。ダナスコスはそんなムルモンドの様子に苦笑する。
その後、オルフェルドと初顔合わせをし、うまく行っていることはオルフェルドの様子を見ていてよく分かった。エリナ自身もオルフェルドに勉学を教えることを楽しんでいるように見られた。
(いい傾向である。これならオルフェルド殿はすぐにでも知識を増やし、今後の訓練へ生かしてくれることだろう)
ムルモンドはそう思った。
◇
【ヨコスガ帝国】近辺。
そこは今は薄暗く、辺りは見通せない。そこには【ヨコスガ帝国】の兵士たちがいた。男が5人に女が3人。
この者たちは【ヨコスガ帝国】周辺の見回りをしているのだ。この見周りで不審人物を発見した場合、いかなる理由があろうとも逮捕され、拷問を受けることとなっている。
【ヨコスガ帝国】兵士としてこの見回りをしているこの8人は凄腕の兵士である。見回りは国王直々に命を受けるものでそこらの兵士では受けられない代物なのである。
見回りの命は日替わりで明日には別の8人が抜擢されるであろう。なぜ8人なのかは良く分からないが。
「ヨウスケ、今回も特になにもなさそうだな」
「そうだな。辺りは静かだし、盗賊も今はいないかもな」
8人の兵士のうちの二人がそう話しながら、見回りをしている。二人の近くにいる女3人も似たようなものだ。
この国王からの命としての見回りにはこんなことがあったりする。
国王直々に命を受けるというのはそれ相応の実績を残していると“国王”が認めていることを意味する。それは兵士たちにとって誉れあることで誇りである。この8人もその例外ではなく、命を受けた際には喜びを分かち合っていた。
だが。
命を受けてから数年経つとその感覚が少しずつ薄まってくる。命は面倒なものに変わり、最初は真剣にやっていたことも怠けだし、喋りながらやる始末。国王はそんなことを知らないが。この8人だけのことではない。この見回りの命を受けているすべての兵士がもれなくそうなっているのだ。
見回りをしている中で盗賊に会ったという話はついぞ聞かず、なんなら見回りなどいらないのではないのか?と思い始める兵士たちもいる。それを人は油断というのだ。
8人は上空に何かが空を飛んでいることに気づかない。8人の実力を鑑みると気付けるものなのだが、8人はこの命を真剣にやっておらず、空など見ているはずもなかった。
上空を飛ぶそれは8人の姿を見るとすぐさま離れていった。それは大きな体躯を持ち、翼をもっていた。それをみたのがオルフェルドであったなら竜だと即座に答えたであろう。8人はそんなことに気づかなかった。
【ヨコスガ帝国】はこれにより竜の襲撃を受けることになってしまった。
◇
私はエリナです。ムルモンド=ダナスティーナ国王階下からの命で【ダナスティーナ王国】を救ってみせたオルフェルド=トゥサン様の教師となりました。
オルフェルド様はそれはもうカッコよくて……、すみません。間違えました。間違えてないですけど、間違ってないですけど今のは聞かなかったことにしてください。これでは私がオルフェルド様にデレているみたいではないですか。私みたいな底辺の人間がオルフェルド様とそんな関係になれるはずがないのにです。
オルフェルド様は私の話をたいそう熱心に聞いてくださり、私としてもすごく嬉しかったです。特に世界史に興味がお有りのようでした。兵士としての訓練をしている以外の時間に図書館に赴き、本を読んでいる姿を私は見ました。あっ!これはあれですよ。ストーカー行為をしているわけではないです。たまたまオルフェルド様がいらっしゃただけで私はストーカーではありません。勘違いしないようにお願いしますね。
王宮内ではオルフェルド様に剣術をお教えしているダナスコス=森川様と中川武史様にお会いしました。お会いした際に勉学をしているオルフェルド様のご様子を私は聞かれ、オルフェルド様の勉学の熱心さと勉学をしているときのオルフェルド様のカッコよさを私めがご教授いたしました。なのに、なのにです!お二人は私の話を聞いたあと、苦笑いをしていたのです。これは許せないことです。オルフェルド様は素晴らしいお方なのに、私がどれだけ言葉を尽くしても足りないほどのお方なのにこのお二人は苦笑いを浮かべている。一体、お二人はオルフェルド様のことを見てくださっているのでしょうか。私はそのことが気になり、お二人にオルフェルド様が訓練しているところを見せてほしいと懇願しました。ダナスコス様は少し悩んでいました。しかし、中川様に『いいんじゃないか、別に。オルフェルドさんはエリナさんに見られているということでより訓練に勤しんでくれるかもしれないじゃないですか。それに現状のオルフェルドさんの状態を知っておくこともオルフェルドさんの教師の仕事の一環ですよ、きっとね』と言っていただけたのです。私はこれを聞き、中川様は素晴らしいお方だと思いました。オルフェルド様のことをよく考えていらっしゃることが明確に分かったのですから。
私はお二人についていきオルフェルド様の訓練している姿を見に行きました。私が来たとき、オルフェルド様は最初、戸惑っているご様子でした。それがほんとに可愛く………オホン、失礼。
それから素振りやランニング、体術。全てをオルフェルド様はそつなくこなしておられました。ほんとにカッコいい!ああ、カッコいい!
しかし、剣術の訓練に移ったとき、私は自分の目を疑いました。オルフェルド様が少し周りの兵士たちから遅れだしたのです。ダナスコス様からも叱責を受けていましたし、一体、どういうことでしょうか?体調が優れないのでしょうか。
兵士たちが訓練が終わって部屋に戻っていく中、オルフェルド様はお帰りになりません。私はオルフェルド様の元へ走っていこうとしました。しかし、
「エリナさん、オルフェルドさんの訓練の様子を見たいのであれば、これからを見届けてあげてください。彼は兵士たちに剣術で遅れを取っていることを自分で悟り、こうして僕らに追加の訓練をしてほしいと言ってきたのですから」
「そ、そんなことが………!」
私は中川様の話を聞き、驚嘆の声を出しました。
それからオルフェルド様はダナスコス様と剣術の訓練をしていました。オルフェルド様は何度倒されても立ち上がり、剣を振るっていました。オルフェルド様のその姿を私は忘れることはないでしょう。弱いからと言って逃げるのではなく、強くなろうと必死になって剣を振るっているオルフェルド様の姿を私は目に焼き付けました。その姿はカッコいいなんてそんな言葉では言い表せません。私はボーッと見惚れているかのようにオルフェルド様のお姿を見ていました。
訓練が終わり、オルフェルド様は倒れ込みました。中川様は私を見て微笑み、ダナスコス様の元へと歩いていかれました。私はいそいそとオルフェルド様の元へとかけより、
「オルフェルド様!大丈夫ですか!」
私は少し、いやかなり慌てたようにそうオルフェルド様に声をかけました。
「エリナ先生。すみません。こんな見苦しい姿をお見せして」
オルフェルド様はそれに申し訳なさげにそう私に謝ってきました。額からものすごい量の汗を流していて、ひどくお疲れであることは私にはすぐに分かりました。
私はオルフェルド様の背中を支え、ポケットの中からハンカチを取り出して、汗を拭いながら言いました。
「いいんですよ、別に。私はあなた様の先生なのですから」
私はエリナ。エリナ=高橋。オルフェルド=トゥサン様の先生。そして、オルフェルド様の心の支えとなりたいと願う一人の女だ。訓練後の疲れを癒やし、悩みを聞き。オルフェルド様の背中を押してあげ、いつまでも応援し続けていく一人の女。
私は明日もがんばります!オルフェルド様に負けないように。
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