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竜王伝説伝  作者: みずけんいち
第二章 迷宮編
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第9ページ目

長い期間が空いてしまいました。今後も気長にお待ちくださると助かります

 昨日のあれは何だったのだろうか。


 オルフェルドは考えてみたものの答えは出なかった。竜王とは会えたり会えなかったりといった状況であるため、竜王の情報を得ることができていない。おそらく竜王はまだ隠していることがあるはずだ。昨日、ダナスコスと中川とのやりとりの中にあった過去の竜たちを退け続けてきた秘策は何なのか。今より深刻であったと想像できる過去の竜との死闘の時代。一体、どうやっていたのか。


『竜王の力にも限界がある』


 竜王はそう言っていた。竜すべてを竜王が倒していたわけではない、ということは事実なのだろう。だとすれば一体――――――――――


『やあ、久しぶりだね』


 竜王の声が聞こえ、オルフェルドはため息をつきながら、


「毎回、突然なんだよお前は」

『神出鬼没というのも粋なものだろう?それでどうだい、調子のほどは』

「特に変化なしだな。そっちはどうなんだ?」

『それはどういう意味で?』

「言わなくてもわかるだろ」


 オルフェルドたちの方から竜神宗の情報を得ることはできない。すぐにでも【ダナスティーナ王国】に攻められればこの国も【ナガスティナ王国】のように滅ぶのみだ。情報収集に関してはオルフェルドが気にするまでもなくダナスコスや中川たちが集めていることだろう。しかし、だからといって何もせず、情報が来るまで待ち続けるのは二代目竜王としてどうなのか。少しでも多く敵の情報をつかみ、対策するべきなのではないのか。平穏な時間を過ごしている今だからこそ特にオルフェルドはそう感じた。今まで奴隷として人間としての扱いを受けていなかったためによけいにそう思うのかもしれない。平和であることは当たり前のようでいて実は地獄と紙一重であることをオルフェルドは理解している。


『わかってる上でそう言ったんだよ』

「それならよけいに(たち)が悪いだろ……」

『それもそうか。とりあえず、僕の方で掴んだ情報を言っていくよ。情報をどう扱うかは君の判断に任せる』

「了解した。それで?」


 情報を手に入れたらまずはダナスコスと中川と共有する。それから国王であるムルモンドに情報を伝える。初代竜王が掴んだ情報と聞けば有益なものであると判断がされるであろう。


(こいつがウソを言うとは思えないし、誤った情報を持ってくることもないだろ。裏取りもやってるだろうし)


『竜神宗は当分の間、攻めてこないと思う。前回の襲撃で竜王がいると敵側もわかったからね。そう簡単に国を攻め落とせないと判断したんだと思う』

「そうは言うけど俺はまだ兵士としては見習い以下のレベルだぞ」

『君自身の力というより竜王としての力を危険視しているんだと思うよ』


 竜王としての力。オルフェルドは竜王にそう言われ自分の体を見た。【ダナスティナ王国】に来た当初は華奢を通り越して棒切れみたいな体だった。風が吹けば飛ぶようなひ弱そのものだった。【ダナスティナ王国】に来てから食事を取り、訓練に励んできたこともあり体はそこそこにまで回復している。


【ダナスティナ王国】に来てもうすぐで1ヶ月。まだまだオルフェルドは未熟そのものだ。しかし、そんなオルフェルドに敵である竜神宗は危険視しているらしい。


(そこまでこの力はヤバいのか?)


 オルフェルドには竜王の力と言われても全くピンとこない。一度その力を使ってはいるが目の前の敵を倒すことに意識を全集中していたせいでよく覚えていないのが現状だ。


『あまりピンとこないかい?……まぁ、その力を〝真の意味〟で理解するのはまだまだ先のことだろうね』

「……どういうことだよ?」

『今はわからなくて構わないよ。それより竜神宗の情報だ

 竜神宗の連中は〝ダンジョン〟に行こうとしているようだ』

「ダンジョン?」


 聞き馴染みのない言葉にオルフェルドは頭に?を浮かべた。竜王はそんな反応をするであろうと最初からわかっていたかのように話を続けた。


『ダンジョンは竜以外の魔物が住む場所のことだ。ダンジョンの規模にもよるけど竜神宗が向かったのは結構、上級者向けのところかな。今の君たちにはあまりオススメしないかな』

「………一気に言われてよくわからないんだけど、ダンジョンとやらにいるってことだな?」

『そうだよ。それにしてもダンジョンかぁ………懐かしいね』


 竜王は空を見上げて過去に思いを馳せる。かつてあった平穏な日々を思い出しているのだろう。


 オルフェルドはそんな竜王を見て過去のすべてがお先真っ暗な景色ばかりではなかったのだなと思った。竜王は味方からの裏切りにあい処刑されたと聞いている。竜との戦いは今より熾烈を極めたことは想像に難くないし、その環境化で出会った仲間はかけがえのないものであったであろう。そんな仲間から裏切られたとあっては人間不信になっていてもおかしくはない。今こうして飄々としている姿を見ているとそんな壮絶な過去があるようには到底見えないが。


「………仲間たちと行ったのか?そのダンジョンに」

『そうだよ。竜は倒しても倒しても湧き出てきてね。僕一人ではとても倒しきれなかった。そんなときにダンジョンに行って戦力強化を図るのはどうだなんて意見が出て僕の知らぬ間にダンジョンに行っていたよ』

「それはつまりダンジョンで修行してたってこと?」

『………君たちはダンジョンで修行しようとしてるの?』

「いいや、ただ俺は昔、どうやって竜の襲撃をしのいでいたのかを知りたいだけだ」

『……そうだね。今の君たちは備えなければならないからね。でも、ダンジョンはあまりオススメしかねるかな』


 竜王は少し困ったように眉を寄せながらそう言った。竜王の癖なのか時々このような表情を浮かべる。かつて竜王として人々を守ってきた英雄として歩んできた険しい道のりをオルフェルドにも歩かせることに悩んでいるのだろう。


 オルフェルドは竜王からこの力を授かったときはまだ自覚していなかった。この力の本質を。しかし、力を実際に使い、竜神宗から危険視されているということ、この力によって今の平穏があるということ。それらからオルフェルドにも覚悟が決まった。訓練しているときオルフェルド自らが戦場の矢面に立ち、人々の平和を守るために戦うという決意を。


「竜王、一つだけ教えてくれ。そのダンジョンは危険なのか?」

『………危険だよ。さっき僕が知らない間にダンジョンに行っていたと言ったよね』

「………」


 このあとに続く言葉にオルフェルドは嫌な感じがした。竜王は少し間をおいて言った。


『兵士20人でダンジョンに潜り、無事帰ってきたのはたったの〝3人〟だった』

「………っ!」

『君もそうだけど、もともと我々は魔物と戦うために訓練をしているわけじゃない。その状態でダンジョンに入れば返り討ちにあう』

「で、でもお前たちはダンジョンで修行していたんだろ!」

『そうだよ。ただ、ダンジョンに入るということは死ぬことと同義だと考えていた。僕には竜王としての力がある。でも、兵士たちにはない。剣一本で魔物と戦わなくてはならない。その覚悟がなければダンジョンに入っても無駄死にするだけだ』

「……じゃあどうしろと」

『ダンジョンに向かうまでの魔物を倒して経験を積むことかな』

「……は?」


 魔物はダンジョン内にしかいないのではないのか?


『魔物はダンジョン以外にもいるよ。君はすでに戦っているはずだ。竜たちと』

「竜と戦って経験値積めと抜かすのかお前は」

『違うよ、竜はただの一例にすぎないよ。他にも色々いるよ。スライムとか』

「………聞いたことないな」

『それはダンジョンの周辺にしか生息していないからね。スライムは魔物の中でも弱い方だよ。見た目は結構かわいいんだけど油断すると()()()しかけるっていうね』

「えげつねぇことされるじゃねぇか!」

『それはそうだよ。なにせ魔物だからね』


 竜王は簡単にそう言ってのけた。


 竜王が言うスライムとはゼリー状の魔物である。主に顔に飛びつき、窒息死させようとしてくる。対処そのものは単純で、剣でスライムを形成している核を破壊すればよい。核が破壊されると形を保つことができなくなり、消滅する。


『兵士たちでも慣れれば数秒で倒せるようになる』

「スライムを早く倒せるようになればダンジョンに挑んでもいいのか?」

『それだけでは不安はあるけど初心者向けのダンジョンであれば油断しなければ大丈夫だと思うよ』


 竜王が言うにはダンジョンにいきなり挑んでも返り討ちにあう。だから、ダンジョンに入るために修行をしろと言っているのだ。


「随分と回りくどいな。竜神宗たちはダンジョンにもう入ってるんだろ?」

『そうだね。でも、君たちはまだその段階にない』

「スライムを倒せるようになるまでにどれくらいかかる」

『スライム自体を倒すのはそこまで難しくない。普段の鍛錬だけで十分だ。ただ、ダンジョンに入るってなると少し厳しい部分があるかな』

「竜王の力があってもか?」

『そう、そこだよ!ここで竜王の力が役立つのさ。竜王の力の中には他者の能力の底上げが可能なんだ』

「底上げ········」

『ああ、君自身はまだ使ったことがないだろうけど可能だよ。僕が生きてた頃は重宝していた』

「それがあるならすぐにでもダンジョンに挑めるんじゃねぇか?」


 ダンジョンに入るには修行が必要とは先程竜王が言ったばかりだ。しかし、それは兵士の力不足が原因らしい。ならば、竜王の力の一つであるその能力の底上げを行うことでダンジョンに挑んでも良いレベルにまで持っていけばよいのではないか。オルフェルドはそう思ったが、竜王が即座に否定した。『残念だけどそれは無理だよ』と。


『前にも言ったことだと思うけど、竜王の力には限界がある。そもそも人間が持っている能力としては手に余る力なんだよ。だから、他者の能力の底上げができるのも今の君だと2~3人が限度だと思う』

「2〜3人········。能力としてはあまり期待できないってことか」

『もし、ダンジョンで修行をすると決めたなら君自身も修練に励まないといけないよ。むしろ、兵士を死なせないためには君が前に出て戦わなくてはならない場面が増えてくると思う』

「俺が前に出て········か」

『そのあたりについては話し合っておいたほうがいい。ダンジョンで修行するのかどうか。もし、するのであればまずはスライム狩りだ』

「やっぱりそこは変わらないのか·······」


 ダンジョンで修行することの効果はかなり期待できるとオルフェルドは感じていた。しかし、ダンジョンでの修行の前にスライムという魔物で修練をする必要があるらしい。


『なに事もコツコツやるのがなんだかんだで一番いいんだよ』

「それもそうだな」


 オルフェルドは竜王から聞いた情報を頭に入れ込んだ。この情報は今後の方針にも大きく関わってくるはずだ。


『それじゃ、僕はそろそろ行くよ』

「ああ、情報いつもありがとう。必ず役立てる」

『それはそうだ。役立ててもらはなくては僕が困る』


 竜王はそう言うと姿を消した。オルフェルドは相変わらずな竜王の態度に思わず苦笑が漏れる。だが、すぐに意識を切り替え、まずはダナスコスと中川のもとへと向かっていった。


 ◇


 オルフェルドは兵士たちが常駐している寮へ向かって歩いている。オルフェルドが通る通路には何人ものメイドさんがいた。中川から聞いた話によるとかなりの凄腕集団であるらしい。オルフェルド一人などこてんぱんにやられること間違いなしだ。メイドさんの横を早歩きで通り過ぎほっと一息をついた。


(毎回メイドさんに会うたびに冷や汗をかいている気がする)


 オルフェルドは心の中でそんなことを思いながら歩いていると、前からダナスコスと中川が歩いてきた。


「オルフェルド、調子はどうだ?」


 ダナスコスが少し心配そうにそう聞いてきた。オルフェルドは昨日の自身の失態に思い当たり首を横にぶんぶん回しながら、


「大丈夫です!昨日は心配をおかけしてすみません!」

「大丈夫であればいいが········。それでどうした?病み上がりだろうから今日は休みでいいぞ」

「いえ、緊急でお二人に話したいことがありまして」

「緊急?」


 中川が首をかしげた。オルフェルドは中川の顔を見ながら頷くと、


「竜王と先程会いました。今後の方針についてお二人の意見を聞きたいと思っています」

「········ッ!」

「·········ッ!」


 二人は息を飲み込み、何も言わずに歩き出した。オルフェルドは二人の後を追って歩き出した。


 ◇


 二人が向かった先はムルモンドのいる王宮の一室だった。途中、メイドさんにダナスコスが話しかけ、言伝を頼んでいた。おそらく、そのときにオルフェルドが話した内容をムルモンドに伝えるよう頼んだのだろう。


 中に入ると横にずらりとメイドさんが並んで立っていた。そして、オルフェルドの目の前には長い机があり、その正面にムルモンドはいた。


「国王陛下の迅速な対応に感謝申し上げます」

「礼は良い。して、要件は?」

「私達もまだ詳しい話を聞いておりませんのでオルフェルドの方から話をしていただこうと」

「わかった、とりあえずダナスコス、中川、オルフェルド殿、座りたまえ」 


 ムルモンドからの許可を得てオルフェルド、ダナスコス、中川は席に着いた。そして、オルフェルドは先程竜王から聞いた話を三人に対して語った。三人の表情は話が進むに連れ険しくなっていった。


「オルフェルド殿の話から竜神宗からの襲撃はすぐには来ないことがわかった。して、ダナスコス。兵士の修練に関してはお前に一任しているが、どうだ?」

「·········正直、わからないとしか言いようがないです。竜王が言っていたように我々は魔物を討伐するべく修練しているわけではないのでなんともこの場では言えません」

「そうか··········しかし、竜神宗もダンジョンとやらで強化を図っているのであろう?ならば、兵士たちもダンジョンにて修練に励まねば次なる襲撃に対応できぬであろう」

「そこで重要になってくるのがオルフェルドさんが持つ竜王の兵士の強化になるわけですか」

「そうらしいのですが、私自身そのような能力を試したことがないためどうなるかはわかりません。竜王は特に言わなかったことですが、おそらく副作用はないだろうと思います」


 竜王の力による能力の底上げ。魅力的な言葉であるが、この能力によって兵士たちに何らかの不調をもたらすことがあるかもしれない。だが、当の竜王はそれについて何も言わなかった。何でもかんでも信じるのは良くないが、この能力については信用してみる価値はあるとオルフェルドは考えている。


「ただ、竜王が言わなかったこととして一つ懸念があります。どれだけの強化ができるのかという点が」


 竜王によると現在のオルフェルドに能力の強化を図れるのは2〜3人とのこと。今後、この能力を使っていくことでオルフェルドの強化できる限界人数は増えていくことが予測される。しかし、どれほど強化されるのかがわからない。


「それに関しては試してみる他ないだろう。俺と中川に試してみればいい」

「そうですよ。まずは僕らに試してみてください」

「それがよかろう。相手はメイドが務める」

「········そう、ですか」


 メイドさんが相手になると聞いてメイドとはなんだろうかと考えてしまったオルフェルドはすぐさまの返答ができなかった。オルフェルドの背中へ鋭い視線が向けられたような気がしてオルフェルドの体はピクリと震えた。


 すぐに能力を試そうと場所を修練場へと移した。ムルモンドも見学するらしく、物々しい雰囲気になっている。


 オルフェルドは竜王の力を解放するべく精神統一をしていた。


「オルフェルド、いつでもいいぞ」

「準備はできてます」


 ダナスコス、中川の声が聞こえ、オルフェルドは竜王の力を解放した。オルフェルドの体に青い靄が覆われる。


「·········ッ!これが竜王の力か」


 ムルモンドは初めて見る竜王の力にそう呟いた。メイドさんたちはすぐさまムルモンドを守るべく前に出た。


 オルフェルドはダナスコスと中川の能力の強化をするべく右腕を上げた。


(どうやってやるのかも聞いてなかったけどこうやるっぽいな)


 竜王の力の使い方を全く聞いていないオルフェルドだが、持ち前の感覚を研ぎ澄まして能力を発動した。


 変化は一瞬だった。


 ダナスコスは自身の体に青い靄がまとわりつくのを感じた。しかし、体に異常は見られない。


(これが竜王の力か。実際に目の当たりにしても人間の力とは思えないな)


 一方、中川もダナスコスと同じタイミングで体に青い靄がまとわりついていた。


(すごい!これが竜王の力か。襲撃のときにも見たけど竜王の力は禍々しさがない。オルフェルドさんはこの力を使って戦っていたのか)


 各々思うことはあったが、しかし、今回は自身の強化がどの程度なのか、またどれほど持続するのか。それを試すべくこの修練場へとやってきた。ダナスコスと中川は目的を思い出し、目の前に立つメイドさんに目を向けた。


「ダナスコス様、遠慮はいりませんよ」

「わかっている。この力がどの程度か知るための実験だからな!」


 ダナスコスはそう言うと足に力を入れ、地面を蹴った。すると、


 音速のスピードに匹敵する速さで駆け抜け、メイドさんを通り越して修練場の壁に激突した。


 ドゴーーーーーーーーーン!!!!!!!


 壁が壊れ、瓦礫が崩れる音がした。砂煙が舞い、目の前がかすみかかったかのように見えにくくなる。


 オルフェルドはダナスコスが壁に激突する瞬間までしっかりと見えていた。そのうえで思った。


(強化のされ方がえげつない!)


 オルフェルドは竜王の能力による強化と言っても今のオルフェルドの力では大したことがないのではないかと考えていた。だが、目の前の現象を見ると竜王の力を舐めていたとしか思えない。


 中川はただ目の前で起きた珍事に思考が真っ白になった。竜王の力を見くびっていたわけではないが、ここまでの強化がされるとは予想していなかった。


 周りのメイドさんたちも目の前のことに自身の仕事を忘れ、体を動かせずにいた。


「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


 ただ一人、ムルモンドを除いて。


 ◇


 再び先程の一室に戻ってきた。話し合う内容は先の実験のことだ。


「とりあえず、強化の度合いはわかった。普段の修練で試すことは不可能だということはまず言えるだろう」


 ダナスコスがまずそう言った。


 ダナスコスは壁に激突したにも関わらず無傷だった。竜王の力の一つだと思われる青い靄によってダナスコスは守られていたのであろう。


「···········まぁ、その··········そう、ですね」


 中川は普段の調子を取り戻せずにいた。先程の珍事にまだ頭が回っていないのだろう。


「しかし、なかなかおもしろいな。もう一度見てみたいぞ!」

「国王陛下、そのような発言はいかがかと」


 今までこの話し合いの場でメイドさんが発言したことはなかったが、さすがに今のムルモンドの発言には苦言を呈さずにはいられなかったようだ。そして、決まってオルフェルドを睨むのだ。余計なことをしてくれやがってと言わんばかりである。オルフェルドとしてもどれほど強化されるのか知らなかったのだ。竜王がわざと教えなかった説すらある。オルフェルドに向けられる視線が厳しくなっている現状に理不尽だ!!!!と叫びたくなるのも無理はない。


「この力を鍛えるためにはダンジョンに行かなくてはならないと俺は思う」


 ダナスコスの発言に今までの空気が変わった。ピリピリとした空気へと変化を遂げた。ダナスコスの言うダンジョンに挑むということは命を落とすかもしれないというリスクを知ってのもの。誰もが簡単には言えず、保留にしていたことにダナスコスは触れた。


「今後の襲撃において、すべてをオルフェルドに任せるわけには行かない。なんのために我々兵士がいるのかがわからなくなる」

「命をなくすリスクを背負ってまでやる意味はあるのか」

「間違いなくあると私はこの場で断言します。今後、襲撃が激化することが予測されます。その際にオルフェルド一人に竜を相手させるのは無責任であると考えます」

「無責任······か」


 ムルモンドは目を閉じて思考にふける。オルフェルド自身も考えてみる。今後、竜の襲撃が激化し、オルフェルド一人ですべての人々を守りきれるかどうか。


(絶対に無理だ。エリナ先生を危険な目にすでに合わせてしまってるんだ。俺一人じゃとても守りきれない)


「竜王の力に頼りきりという現状も良くないと考えます。兵士一人ひとりの能力の向上をより確かなものとするためにもダンジョンで修練を積むべきだと思います」

「············わかった」


 ムルモンドは眉間にシワを寄せ、考え込んだ末にダナスコスに返答した。これにより、ダンジョンにて修練をすることが決定した。


「しかし、兵士全員を、というわけにも行かないでしょう。命が危険にさらされる可能性があるわけですから」

「ああ、それも踏まえてまず兵士全員を集め、話をする。ダンジョンに行きたくない者には強制はしない。無理やり連れて行っても士気に関わる」


 士気が下がれば、ただでさえ危険であるとされるダンジョンでは命取りだ。中川の懸念をダナスコスは想定していた。


「ただ、すぐにはダンジョンには行かない。竜王の助言を参考にスライムという魔物の討伐から始める。ある程度の期間をおいてからダンジョンに挑む」

「【ダナスティーナ王国】周辺にダンジョンはあるのか?」


 ムルモンドの当たり前とも言える発言だ。ダンジョンで修練すると決めたもののそもそもダンジョンがなければ今までの話し合いは水泡に帰す。しかし、それには抜かりがなく調べ物をしていた中川が、


「あると思われますよ。【ダナスティーナ王国】を出て、東北東よりに迷宮があると書かれた書物がありました。この迷宮がおそらく」

「ダンジョンというわけか。周辺の危険度に関しては今後調べる必要があるだろう。偵察も必要だろうし」


 話し合いも佳境に入り、今後の方針を決めていく。


「まずは、兵士を集めダンジョン遠征に関して話をする。その後、ダンジョン周辺の状況を調べるため、ダンジョン近辺へ行く。その際はオルフェルド」

「わかっています」

「ならいい。オルフェルドと俺、中川。それから何人かのサポーターを連れて調べる」


 その後もダナスコスは話を続けていた。オルフェルドは方針が決まっていく様を見ながら思考にふける。このことをエリナと冬花に話さなければならないだろう。遠征は一日で終わるわけがない。数日かかるだろう。もしかすると数ヶ月になるのか?


(どれだけかかるか分からないかど二人なら大丈夫だろう)


 オルフェルドはそう結論づけてダナスコスの話に耳を傾ける。


「ダンジョンに挑む際には我々以外に兵士を数人連れて行く。大部隊で行っても統率が取れず危険だからな」

「それについては同意だね。人が多ければ多いほど安全な気がするけれども多ければいいってことでもないですし、それにオルフェルドさんの持つ能力にもあります」

「ああ、オルフェルドの能力には人数制限があると思われる。従って、大人数で行くことは不可能だ」

「兵士を危険な目にわかるとわかっていて送り出すほど我はバカではないぞ」

「ええ、ですから、安全面を鑑みても我々と兵士数人がベストであると考えます」

「··········わかった。決行はまだ決められまい。準備が進み次第、この場を設けよう」


 ムルモンドはそう言うと席を立ち、部屋から出ていった。メイドさんたちもずらずらとムルモンドのあとについていく。しばらくすると部屋の中にはオルフェルド、ダナスコス、中川の三人しかいなくなった。


「方針はだいたい固まったな。これから忙しくなるぞ」

「ですね。しかし、何もわからない状態よりはマシでしょう。手探りであっちこっち手を出していた昨日までより断然いいです」

「それもそうだ。それでオルフェルド、明日兵士を集めて話をするつもりだが、その場に来れそうか?」

「行けますよ、というか行きますよ」

「···········ほんとに大丈夫か?」


 ダナスコスはオルフェルドに疑いの目を向ける。オルフェルドにはなぜこんな目を向けられなければならないのかわからない。


「オルフェルドを疑うわけではまったくない。本当だ。まったく疑っていない。そのうえでもう一度聞くが、明日は大丈夫なのか?エリナや冬花とのデートがあるなどということはないだろうな?」


 めっちゃくちゃ疑われていた。口では疑っていないと言いながらオルフェルドをこれでもかと疑っていた。


「そんな予定はないですよ。あってもキャンセルですよ」

「それはダメだ!!!」

「ダメですよ、オルフェルドさん!!!」

「な、なんでそんな仲間はずれにするんですか!」

「ま、まさか··········ッ!オルフェルドは知らない、のか」

「·············知らないのでしょうね、この様子だと」


 ダナスコスと中川はお互いの顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。オルフェルドはそんな二人にどういうことか説明してくれと頼んだが、結局してくれなかった。


 昨日、冬花とデートの予定だったのがダナスコスと中川の登場によりご破産となったわけだが、オルフェルドにはそのことが記憶の彼方に行ってしまったようだ。それにより冬花からどうこいつらを潰してやろうかと言わんばかりの目を向けられ、エリナからは私とオルフェルド様の貴重な貴重な時間を奪いやがってと言った目を向けられことをダナスコスと中川は思い出した。


(ダンジョンに行く前に一悶着ありそうだな)


 ダナスコスの懸念は大当たりした。それはまだ少し先の話だ。

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次話以降もよろしくおねがいします!

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