怖そうな貴方
「ゆきこ、そろそろ着くわよー。」
「うん! ママ、お爺ちゃんってどんな人?」
「お父さんがどんな人か......。」
「うん?」
「ゆきこ、お爺ちゃんはね......。」
昔の話。私がまだ5歳の頃で、東京にいた頃の話。私はお爺ちゃんとはまだ会ったことがなくて。東京からお母さんの実家へ里帰りした時の話。つまりお爺ちゃんと初めて会った日よ。
車で数時間。5歳の子供にとっては退屈すぎる時間だったのもあり、私の気分は最悪だった。
「ゆきこー、着いたわよ。」
やっと着いたみたい。そう思って車を出る母の後ろに続いた。
「おー、よく来たわね〜。詩織も雪子もいらっしゃい。」
「ふんっ。」
「お父さんもお母さんもこの家も、相変わらずね〜。ゆきこー、こっちよ。」
車を降りて見えたのは、人の良さそうなシワシワと怖そうなシワシワだった。
「ひっ。」
「あらあら。怖がっちゃって〜、寂しいわ。でも詩織の小さい頃にそっくりねぇ。」
「えっ、うそ! ゆきこ、泣かない泣かない。怖くないわよー。お爺ちゃんとお婆ちゃんよ〜。」
耐えきれなくなった私は、家の駐車場でワンワンと大声で泣いてしまった。
ゴシッゴシッ
人目も気にせず暫く泣いているといつの間にか頭に何かの感覚がある。パパの手に似ているけど、それよりもずっとシワシワでずっと使い込まれた手。見上げると、そこにはさっきの怖そうなシワシワが居た。いや、横を向いて気恥ずかしそうに、それでも私が泣き止んで喜ぶように優しく頭を撫でてくれているお爺ちゃんの姿があった。
「ゆきこ、怖がらせて悪かったな。よく来てくれた。」
そう言って撫で続けてくれるお爺ちゃんは、誰よりも優しく見えた。
『ゆきこ、お爺ちゃんはね。本人には言えないけど、誰よりも優しい人だとママは思うかな。』
PS.後から聞いた話だが、お母さんも昔、泣いたらよく、お爺ちゃんに頭を撫でてもらってたらしい。