第六十話 WIN-WINの関係
「そ、その……お、お邪魔します……」
「やりなおし」
「へ?」
「今日から此処はエリサ、貴方の家でもあるのよ? おじゃまします、じゃなくて?」
「……た、ただいま帰りました」
「ん。宜しい」
王都にあるサルバート公爵の屋敷。その一室で、少しだけおどおどした風に足を踏み入れて『おじゃまします』なんていうエリサに、私の突っ込みが入る。素直に言い直したエリサに一人頷いていると、控えていたメアリも丁寧に頭を下げる。
「お帰りなさいませ、エリサ様。私はアリス様の侍女を務めております、メアリと申します。以後、何か必要なことが御座いましたら私にお申し付けくださいませ」
「さ、様!? そ、そんな! わ、私なんて様付けで呼んで貰える身分じゃないです!! え、エリサで! エリサで結構ですので! なんなら、庶民とかゴミとか犬とかでも!!」
「……そこまで卑屈になる事ないわよ、エリサ?」
「……いや、だって、メアリさん無茶苦茶美人じゃないですか……あんな人に様付けされて、傅かれてご奉仕なんかされた日には……」
「ご奉仕って。なに? 緊張でもするの?」
「違う世界の扉が開きます。戻って来れない感じで」
……おい。
「……そっち? っていうか結構雑食なのね、貴方」
「良いモノは良いので。私、BLも百合もノーマルもなんでもいけますんで。皆違って、皆良いんですよ!!」
ぐぐぐ、と擬音が付きそうな勢いで拳を握りしめるエリサ。まあ……うん。良いよ、エリサが良いならそれで。
「……後はまあ、動画投稿者していると色々あるんですよ。最近はポリコレとか、結構煩いんで。配慮が必要なんです、配慮が」
「ポリコレってなんだっけ? 聞いた事はあるけど……差別はダメとか、そんな感じだっけ?」
聞いた事はあるけど、具体的にどんなものかは良くは知らん。そんな私の疑問に、エリサはにっこりと笑って。
「魔女狩りですかね?」
「……おい」
「いや、勿論差別は良く無いんですけど……にしても、言う事もする事も制限、制限ですからね~。エンタメにポリコレ持ち込むなよ、とも思うんですけど……」
「……闇が深いな」
「まあ、そんな話は良いんですよ。それよりも……その、やっぱりこの扱いは……色々マズイです。こうもうちょっと雑に……というか、普通に扱って貰えませんか? こう、友達が家に遊びに来てるカンジで良いんですけど……」
「……って言ってるけど……メアリ?」
「それはご容赦頂ければ。エリサ様は『光魔法の使い手』に御座います。光魔法の使い手は国家から保護される存在です。そして、我がサルバート家にお越し頂いている以上、エリサ様は国家からのお預かりした、大事な『お客様』に御座います。その様なお客様のおもてなし、最上級でなければ」
「……そうなの?」
知らんかった。そんな事情があるの?
「はい。そして、光魔法の使い手を迎え入れることは当家に取っても名誉の事ですし」
なるほど。国家……というか、王家か? 王家から光魔法の保護と後見を依頼されるって云うのは名誉な事、というのはなんとなく分からないでもない。
「ですので……エリサ様? エリサ様のご来訪は当家に取ってもメリットのある話です。ですので、そこまで緊張されなくても結構です。堂々と為さって下さいませ」
……確かに。国に『恩』が売れるって考えればメリットは充分あるな。充分あるんだけど……
「その通りなんだろうけど、それって直接本人の前で言う?」
「本来は失礼な話でしょうが、エリサ様のご気性を鑑みるに、『同情だけで預かっている訳ではない』と、エリサ様が居る事で当家が得るメリットを最初にお話した方がお気を使われないかと思ったのですが……」
そう言って視線をエリサに向ける。メアリの視線を受け、エリサが頬をポリポリと掻いた。
「ええっと……まあ、はい。そう言って貰った方がちょっとは気が楽になります。WIN-WINの関係って云うか……ともかく、一方的に養われている訳ではない、と云うのは良いですね」
「……エリサがそう言うなら」
にしても……メアリ、この短い時間で良くエリサの気性を見抜いたな。流石、メアリと言うべきか、なんというべきか……スペック高すぎなんだよね、この子も。
「はい。そういう事ですのでエリサ様、存分にお寛ぎ下さいませ」
「……はい。はい、そうですね!! 分かりました!! それでは、全力で養われます!! これ以上ないぐらい、ゴロゴロして見せます!! 任せて下さい! 引き籠るのは得意中の得意なので!!」
「おい。なに堂々とダメ人間宣言してんのよ」
気を使うなとは言ったが、ゴロゴロしろとは言って無いだろうが。そもそもだな?
「働かざる者喰うべからずって言うでしょ? 貴方にも働いて貰います」
「働く、ですか? ええっと……掃除とか、お洗濯とか?」
「……アリス様。ご客人にその様な事は……」
「ん? ああ、違う違う」
エリサとメアリ、その二人の言葉に私は首を左右に振って。
「お父様に、会社を買って貰うの。社長は私で、副社長はエリサ。メアリにも手伝って貰うから、そのつもりで宜しく!」
屋敷中に、エリサの絶叫が響き渡った。メアリ? 普通だよ、普通。メアリがこんな事で声を――まあ、顏は引き攣ってたけど、珍しく。
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