第五話 このポンコツ王子を、スーパーダーリンに教育してみせますから!!
やっと一人目がタイトルに追いついた。
「……まあ、大体理由は分かった。ジーク」
「はい!」
陛下に名前を呼ばれて威勢よく返事をするジーク。
「……色々言いたい事はあるけど、基本的には君が悪いよ」
「な! なぜですか! この女が!」
「女性に、しかも婚約者であるアリス嬢に対して別の女性が良かった、などと失礼極まりないよ?」
「で、ですが! 私の本心です! こんな女、絶対に嫌です!」
「あら、気が合いますね殿下。私も殿下なんてイヤですから」
「なんだと!」
「なによ!」
「……言い争いをしない。そもそも二人の婚儀は王命であり、政略結婚だ。納得も行かない事もあるだろうけど……我慢しなさい」
「……はい」
「なぜ! なぜ私が我慢しなければいけないのですか、父上!! 私は王子ですよ!!」
「……はあ。もういい、下がりなさい。アリス嬢、ごめんね。悪いけどこのバカ息子、宜しく頼むよ。ああ、それと……ジークに対して敬語は要らないよ。育て方を間違えたか、我儘放題に育ったからね。君の様にはっきりジークに物申してくれる子は貴重だ」
「なっ! ち、父上!」
「はい! お任せください!!」
「……でも、流石にドロップキックはダメだよ?」
「……はい。流石に不敬ですから」
「そうじゃない。女の子だからだよ」
そう言って玉座から降りて私の頭を優しく撫でて笑顔を浮かべる陛下。は、はわわ! か、顏! お顔が近い!?
「……お淑やかに、とまでは言わないけど……可愛いレディのそんな姿は見たくないかな?」
「は、はひ!?」
「……なに顔を赤くしてるんだ、気持ち悪い」
「ジーク! 女の子にそんな事言ったらダメだよ!」
「ふん!」
陛下の言葉にそっぽを向くジーク。そんなジークに、陛下は疲れた様に目元を押さえた。
「……はぁ。もう良いよ。二人とも、下がりなさい」
玉座に戻る陛下に、私とジークは頭を下げた。
◆◇◆
「……ふん! なんで俺がこんな性悪女で我慢しなくちゃいけないんだ! 俺は王子だぞ!!」
玉座の間からの帰り道。別に一緒に帰りたい訳では無いが、一本道なのでしょうがなく私とジークは並んで歩く。こいつ、まだ言ってやがるか。
「はいはい。残念でしたね、殿下。でも許嫁は王命なんで、諦めて下さいね~。まあ、廃嫡になるの覚悟なら婚約破棄も出来るんじゃないですか?」
まあ、それも無理だろうけど。王国の存亡考えたら、婚約破棄なんか出来やしないし。
「……」
「どうしました、殿下? 急に黙って。ネジでも切れたんですか?」
不意に立ち止まって黙りこくった殿下に、首を捻る。と、殿下は不満そうにこちらを睨みつけて、ふんっとそっぽを向いた。
「……俺はゼンマイ仕掛けの人形ではない。ネジなど切れるか」
「それは冗談ですけど……ええっと、どうしました? 本気で廃嫡賭けて婚約、破棄します?」
「……廃嫡を賭けてなど……出来ないさ」
「……まあ、殿下は……『王子様』じゃ無くなったら存在価値ないですもんね」
俺様キャラなのに地位も財力も無くなったら、それって唯の迷惑な奴だし。
「お前は本当に俺を馬鹿にする天才だな!? なんだ? 俺には『王子』以外の――」
そこまで喋り、自嘲気味にふっと笑う。憂いを帯びたその笑いは、とても七歳児が出したとは思えないほど色気のあるものだった。
「――まあ、そうだろうな。『王子』でない俺に、価値など無いのだろう」
「……」
思わず息を呑むその表情に、私は引き込まれて――
「どうした? お前こそ急に黙り込んで? 私がこんな事を言いだすのは意外だとでも思ったのか?」
「あ、いや、そうじゃなくて。この語り、長いかなって。私、ちょっとお腹空いたんで。朝御飯、食べて無いし」
――など、いない。色気はあっても七歳児、全然、ドキッとはしない。私、陛下派だし。渋いおじ様、好きだし。
「……お前というヤツは……普通は『どうしたのですか?』ぐらいは聞くだろうが!! それがなんだ、腹が減ったって!!」
「いえ、興味がありませんし」
「持てよ!! 少しぐらい興味持てよ!! お前、俺の婚約者だろう!? 後で朝食ぐらいは食べさせてやるから! 王宮の料理長に言って、スペシャルメニューを用意してやるからっ!」
「……ごくり。はーい。有り難く聞かせてもらいまーす」
……まあ良いか。面倒くさいけど、聞いてあげよう。べ、別に朝食に釣られたワケじゃないからね!!
「……お前というヤツは……はぁ、まあ良い。お前、俺の母上を知っているか?」
「母上? 母上って……」
……ああ。
「陛下の前妻である……故リリアーナ王妃陛下ですね?」
「そうだ」
……思い出した。そうだ、そうだ。この王子様の御母さんであるリリアーナ様、若くして身罷られたんだった。
「……俺の母は病弱な方だが、大層美しい人でな。いつも儚げな微笑を浮かべている方だったが……三年前の流行病でコロリ、とな」
「……」
「……母は亡くなる前に俺に言ったんだ。『どうか、立派な国王になってくれ』と。病弱だった母は、それでも俺の事をいつも心配してくれていた。俺が、いつか立派な国王になって善政を布くことを夢に見ておられたので」
「……無理ゲーじゃないです、それ? 殿下が善政って」
お前、ネットでボロクソ叩かれてたんだぞ? 『このポンコツ王子が国のトップになったら国が亡びる』って。善政以前の問題だと思うんですけど?
「……はっきり言うんだな?」
「まあ……はい」
「……具体的に、どの辺りが問題だと思うのだ?」
「どの辺りって言うか……っていうか、そもそも殿下、勉強とかしてるんですか? 国王陛下になるに当たっての」
「……」
うわー……こいつ、あからさまに目を逸らしやがった。
「……サボりはダメですよ、殿下」
「さ、サボってる訳ではない! た、ただ……家庭教師も付いていないし……聞ける人間がいないんだ」
……は?
「……は?」
「わ、分かっている! 国王の血を引く人間であり、善政を布くと決めているのであれば自分で家庭教師になど頼る事なく、自身で学ぶ必要があるとは思っているのだが……どうにも、その……な」
慌てた様にそういう殿下。いや、そうじゃなくて!
「家庭教師がいない? なんで――ああ、アレですか? 殿下の我儘に愛想を尽かして?」
「ち、違うわっ! そ、そうではなく……その、父上の後妻が……」
「……ああ」
折り合いが悪いのか。
「……悪い方では無いのだ。ただ、やはり自分が腹を痛めて産んだ子は可愛かろうし……父上も、最近は弟のアレンにばかり構うしな」
「……殿下」
「……私ももう七歳だ。そもそも、王とは常に孤独な存在だしな。だからその様な事を言うべきでは無いのだが……」
……いや、それはおかしいだろう。今の話、殿下は何にも悪くはない。
「……殿下、陛下にそれは申し上げたのですか?」
「……言える訳が無かろう」
「なんで!!」
「それでは俺が弟に嫉妬している様に見えてしまう。ただでさえ、先妻の息子である俺だ。この王宮内では腫物扱いだしな」
そう言って自嘲気味に笑う殿下。少しだけ悲しそうで、それでも気丈に笑って見せる殿下の姿に。
「――行きましょう、殿下」
無性に、腹が立った。は? ネグレクトじゃん、それ。なにさ、『育て方を間違えた』って。そもそも、育ててもないじゃん、陛下!! そりゃ、この王子様、ポンコツになるに決まってんじゃん!! 誰にも教えて貰えなければ分かる訳ないじゃん!!
「いきましょ――って、おい!? て、手! 手を離せ!」
「手ぐらいで照れるな。乙女か」
決めた。
「い、行く? 行くってどこに!?」
そうだ。そもそも、殿下がこのまま大人になって何も知らないままに国王になればこの国は亡びる。そうなったら、公爵令嬢である私だって絶対、平和な暮らしなんて出来ない。
「どこに? 決まっているでしょう?」
……だから、これは私の平和の為でもあるんだ。でも、それ以上に。
「私の家です!!」
ちょっとだけ、情も湧いた。
「殿下のお勉強は……私が、教えます!!」
――このバカで可哀想な殿下の為に、コイツを何処の乙女ゲーに出しても恥ずかしくない、スーパーダーリンにしてやるんだっ!!
『面白かった!』『続きが気になる!』『アリスちゃん、がんば!』という方がおられましたらブクマ&評価の方を宜しくお願いします……励みになりますので、何卒!




