第三百八十三話 違う理由で頭痛くなってきた
「……確かに最近のアリスは忙しかったですものね。熱も仕方ないでしょうが……」
ジークの去った後、お見舞いという名目で遊びに――違うか、ちゃんとお見舞いに来てくれたロッテが、心持優しく、そしてなんだか申し訳無さそうな顔をしながらリンゴを剥いてくれていた。あの、リンゴはウサギさんでお願いします。
「ウサギさんって……まあ、イイですけど」
申し訳無さそうな顔から一転、今度は少しだけ呆れた顔をしながらリンゴをうさちゃんにしてくれるロッテ。なんというか……流石、ロッテ。凄い上手なウサギさんだ。
「上手だね、ロッテ」
「ありがとうございます、と言っておきましょうか。まあ、こんなものは手遊びみたいなものですが……こら、パティ! つまみ食いしない!」
ロッテの後ろからすっと伸びた手を『ぺしっ』と叩くロッテ。叩かれたパティは手の甲を摩りながら、舌をペロッと出して見せた。ええっと……
「……何しに来たの、パティ?」
「なにしに来たの? は酷くない? お見舞いだよ、お見舞い」
「……貴方のお見舞いって言うのはソファで寝転がってお菓子を食べて、リンゴをつまみ食いすることなの?」
「だってアリスの体調不良って、知恵熱じゃん」
そう。
最初はパティも『アリス! 大丈夫!?』と心配そうな顔で部屋を訪ねて来てくれたのだが……事情を聴くと、少しだけ呆れた顔で『なんだ、知恵熱か』と人の部屋のソファでごろんと寝転がってしまった。いや、知恵熱って。
「まあ、色々と考えてはいたけど……別に知恵熱じゃないわよ。っていうか、知恵熱って子供の掛かるものでしょ? 知恵熱なワケ無いじゃん」
失礼な話だ。
「そう? まあ、お疲れさん、アリス。大変だったね」
そう言ってロッテから許可を貰ってリンゴを食べるパティ。別にリンゴ一個でガタガタいうつもりは無いよ? 無いんだけどさ?
「……大変さの八割くらいはアンタらが私とエリサを売ってティアナ様の対応させたせいじゃない? 用事があるって断りやがって……友達甲斐の無い子達だよ、ホント」
おい、ロッテにパティ。目を逸らすな。私の目をちゃんと見なさいよね!!
「あ、あはは~。ま、まあともかくお疲れ、アリス!」
「目を見なさい、目を」
「そ、そう言えば! 先程、パティと一緒にティアナ様とマックス殿下に拝謁する機会がありまして! お二人、仲睦まじい様子で手を繋ぎ合っておられましたよ!!」
パティへのジト目に、フォローと――そして、自らの気まずさを誤魔化す様なロッテに、パティに向けていたジト目をロッテに向ける。
「そこに持っていくまでにどれだけ苦労したか……」
「……ご愁傷様です、というと他人事過ぎますか……でも、アリス? 一体、何をしたのですか? 『あの』ティアナ様が……その、なんと言いますか……」
「おバカになってたね~、ティアナ様」
「パティ! ……ですが、ええ、まあ。『シャルロッテ様、今まで色々とご迷惑をお掛けしましたね? まるで幼子の様にウジウジと……聞く方も大変だったでしょう?』と……」
「……びっくりしたね、あれ。その後、『ですが! これからの私は生まれ変わりました! これからの私は『ニュー・ティアナ』です!! 愛に生きますよ、私は!!』って言いだした時はどうしようかと思ったよ……」
「開いた口が塞がっていなかったですものね、パティ」
「それはロッテもでしょ? 侯爵令嬢がしちゃダメな顔をしてたし」
「……仕方ないでしょう、アレは」
「……まあね。まさかあの完璧な令嬢と言われたティアナ様が、マックス殿下の腕に縋り付いて……『ごろにゃん』する姿を見る日が来るとは」
「……不敬です、と注意したい所ですが……確かに、他に形容のしようが無いほどの……その、甘え様でしたね?」
「……見ちゃったか、二人も。あの砂糖を吐くような『あまあま』な二人を」
あの姿は衝撃だろうからな。ジークもびっくりしてたし……っていうか、王城でもあの態度なんだろうか、ティアナ様。それって、かなり不味いというか……
「……なんでしょう? 今、背筋にいやーな汗が流れたんですが」
「……奇遇だね、ロッテ。私も凄いイヤな予感がするよ。アリス、ティアナ様が全力であのティアナ様を王城でも出したら……」
「……怖い事言うの、やめてくれない?」
いや、なんか私もそんな気はするけど! ヤバい、頭痛くなってきたんですけど……これって熱のせいじゃないよね? 絶対、また別の面倒の問題の方だよね? 無いのか! 私に安息の時間みたいなもんは!!




