第二話 おバカな王子様には言葉責めで!
「ゲホ……ゴホ……き、貴様!? 何を考えている!! 第一王子に、て、手をあげて許されると思っているのか!?」
「はあ? 手なんかあげてませーん。足を出しただけでーす」
「へ、屁理屈を! 不敬だぞ!」
「どこが不敬だ、このボケナス。そもそも、婚約した初日に他所の女が良いとかどういう了見ですか、この野郎」
信じられんよ、マジで。幾ら俺様王子でも、もうちょっと分別があると思ったよ。
「じ、事実を言ったまでだ! 事実を言って何が悪いんだ!!」
「はぁ? 事実を言って何が悪い? アンタ、そんな事も分かんないの? 王子様なんでしょ? この国のトップになる人なんでしょ? そんなアンタが、思い付くままに喋って良いと思ってんの? なんか勘違いしてない、アンタ?」
「ど、どういう意味だ!! なぜ、俺が思い付くまま喋ってはいけないんだ! 俺は王子だぞ! なんで俺が我慢しなければいけないんだ!」
マジか、コイツ。ゲームの中でも馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど……此処までバカだったとは……先が思いやられる。
「はぁ……あのね? アンタは王子様なんでしょ? そんで、アンタは何時か国王陛下になるんだよね? 言ってみれば、最高権力者になるわけだ」
「そうだ! だから、俺が我慢する必要なんてない!!」
「アンタの言葉が、アンタの行動が、アンタの思い付きが、その全ては国家の『意思』になるんだよ? アンタのその、何にも考えて無い、脳みその代わりにスポンジでも詰まってんじゃ無いかって頭で考えも無しに飛び出した言葉が、この国の『意思』になるんだよ? そこの所、分かってんの、アンタ?」
「そ、それは……わ、分かってるに決まってる!!」
「はん! 分かってるんだったらあんな言葉、出て来るか!! 言っておくけどね? 相手がどう考えるか、これを言ったら相手が嫌な気持ちになるんじゃないかな、そう云った、人の事を思いやれない王に人が付いて来ると思ってんの? 民は宝だ、バカタレが!!」
「うぐぅ……」
私の言葉で、喉を詰まらせるジーク。どうだ、分かったか?
「……確かに、軽率であった事は認めよう。貴様の立場も考えず、私の意思の赴くままに喋った事は、謝罪してやる」
「……おろ?」
……なんだ。コイツ、ちゃんと分かって――
「だが、私はお前なんかよりリリーの方が良い!」
「まだ言うかこのクソガキが!!」
――分かって無かった。睨みつける私に、少しだけ焦った様にジークが言葉を継ぐ。
「す、少なくとも、リリーは私に足を出したりなんかしないぞ! その一点だけでも、お前に淑女たる資格はない!! そんな女、誰が妃に迎えたいと思うか!!」
い、痛いところを……で、でもさ!!
「わ、私だって出したくて出したわけじゃありませーん。アンタがあんまりにも失礼な事言うからでしょうが! ぶっ飛ばすぞ、クソガキが!!」
「既にぶっ飛ばされてるんだが!?」
「だまらっしゃい!! そもそもアンタね? 王子様でしょ!! 王子様なら王子様らしい態度を取れ!」
「な、なんだと! 俺の何処が王子らしくないというんだ!!」
「逆に何処に王子らしい要素があるんだよ! 威張るだけならアホでも出来るわ! そんなの、唯の我儘王子だろうが!!」
「あ、アホだと!? 俺の事をアホだと!! 俺の何処がアホだというのだ!」
「いや、アホじゃん。だってさ? アンタ、私の事好きでもなんでも無いんでしょ? ならこれって完全な政略結婚じゃん?」
「そうだ! 私は望まぬ――」
「私だってアンタみたいなアホ王子、プリーズダウンだよっ!!」
「ぷ、ぷりーず?」
「願い下げって意味だ!」
「――なっ! ね、願い下げだと!? お、王子だぞ! 俺はこの国の王子なんだぞ! 王子に対してなんてことを言うんだ、貴様は!! 民の事を考えるのは百歩譲って理解してやるが、願い下げなどと王子に言って良いと思っているのか!!」
「なーにが『王子に言って良いと思っているの!』だ、バカタレ。そもそもこの結婚、お互いにメリットがあるからする訳じゃん? 納得の行かない事だってあるだろうけど、ある程度我慢が必要なんじゃないの? だったらさ? いきなり相手の事を罵倒する態度ってどうよ? それが王者の振舞なの?」
「……」
「そんな王子が国の次期トップ? あーあ、残念。泥船だね、この国。きっと滅びるわよ!!」
「き、貴様……」
うぐぐぐ、と言わんばかりの表情を浮かべるジークだが、こちらも折れるつもりは無い。
「良い? 今、此処でアンタがした様なナめた態度、外交先で取って見なさいよ? 一発で国際問題待ったなしよ?」
「そ、外では上手くやる!」
「は! どうだか。今のアンタが私に取った態度見て、そんな事出来ると思うと思う?」
「お、俺は王子で、お前の家は公爵だ!」
顔を真っ赤にしてそう怒鳴るジーク。マジで言ってのか、コイツ。
「ふーん。じゃあ、スモル王国より小さな国に行ったら、そんな態度取るって事?」
「そ、そうは言ってない!」
「なんで? 同じ事じゃん。ようは自分よりも地位が低い奴はバカにするって事でしょ?」
「そ、それは……」
何も言えないのか、唇を噛みしめてこちらを睨みつけていたジークは。
「お、覚えてろ!! 父上に言いつけるからな!!」
そんなガキみたいな事を言って、私の部屋を後にした。はん! なーにが父上に言いつけるだ、バーカ。
……その後、少しだけ冷静になった私は『やべ……七歳児相手にやらかした』ってベッドに顔を埋めて足をバタバタさせたのだった。三十路間近の女のやることじゃねーよ……
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