第十五話 最初から好感度MAX。だから、こういう所だぞ、『わく学』。お前がダメな所は!!
待ちに待っては全然いないが、やって来ました第一回、『アリスちゃん家でお勉強大会』の前日。やたら張り切って準備をする専属メイドのメアリと。
「明日ですね、アリス様」
「……そうね。そうだけど……なんでいるの?」
私の前でにこやかにお茶を飲むリリー……リリアーナ・スワロフ。我が家の寄子であるスワロフ子爵家の長女で、『わく学』に置ける正統悪役令嬢である。なんだよ、正統悪役令嬢って。
「……冷たいですわ、アリス様……私とアリス様の仲ではありませんか。私だって一緒に勉強会、参加させて頂きたいと思いまして……こうしてお邪魔した次第です」
「……誰から聞いたのよ?」
「メアリ様です!」
「……メアリ」
「リリー様はアリス様、大好きですから。お呼びしないとと思いまして」
そう言いながら『明日着るドレスはどちらにしましょうか』と両手にドレスを持って部屋に入って来るメアリ。いや、メアリ? ノックぐらいしようよ。まあ、女同士だし良いっちゃ良いんだけどさ?
「そうです! 私、アリス様大好きですもの。一緒にお勉強会に参加させて下さい。ああ、メアリ様? そのドレスよりも、前々回のパーティーでアリス様が着られた赤いドレスが宜しいのでは? あのドレス、アリス様にとてもよくお似合いでしたもの」
「甘いです、リリー様。あのドレスは確かにアリス様によくお似合いですし、アリス様の魅力を一層引き立てますが……ですが、魅力的すぎますので」
「いけないのですか? アリス様の魅力を一層引き立てるならば、願ったりかなったりでは?」
「ちっちっち。相手は何処の馬の骨かも分からないクソガ――コホン、殿方ですよ? そんな殿方が二人です」
「……なるほど。アリス様の貞操の危機、ですね」
「そうです。ですので、今回のコンセプトは『非常に魅力的でありながら、そこはかとなく色気を出し、かと言って出し過ぎず相手に『待て』をさせる』ドレスです。恋愛は……愛された方が勝ちなのですよ?」
「流石です、メアリ様!」
そう言って目をキラキラさせるリリー。ちなみに、リリーが我が家のメイドであるメアリに様付け、敬語まで使っているのはご承知の通り、世界観がゆるゆるのわく学特有のもの――
「メアリ様に学ぶ事は多いです! 私も頑張って、早くアリス様の侍女として独り立ちしなければ!!」
「精進下さい、リリー様」
――ではない。単純に、メアリも我が家の寄子であるメロウェーズ男爵家の子女だからだ。よくある、『高位貴族の元に下の貴族の子女が行儀見習いに行く』という例のアレと、メアリがお嫁さんに行ったりで我が家から出るか、リリーと私が学園を卒業後はリリーが私付きの侍女になるからだ。要は師弟関係なのだ、この二人。っていうか、侍女として独り立ちってなんだよ。
「……っていうか、メアリ? 何処の馬の骨か分からないクソガキは失礼でしょう?」
「私は『クソガ』までしか言っておりません」
「言ってるようなもんでしょうが。仮にも王族と伯爵家の人間にそれは無いでしょう」
「王族だろうが伯爵だろうが関係ありません。私の可愛いアリス様に色目を使う人間など、許してはおけませんので」
「僭越ながら私もです、アリス様。このリリー、この命に代えてもアリス様をお守り致します」
「重いわ、二人とも」
……メアリは薄々分かってはいたが……なぜか、『わく学』の悪役令嬢たるリリーまで私にベッタリだ。この辺り、『わく学』本編では全然語られて無かった部分だし、なぜこんなにリリーが私に懐いているのかさっぱり分からんのだが……
「重くなんかありません! あの日、アリス様に救われて以来、私はアリス様に一生ついて行くと決めていましたから!」
「……」
そう言ってキラキラした瞳でこちらを見るリリー。これ、『いつ救ったっけ?』とか聞いたらダメな流れのヤツだよな~。っていうか『わく学』、マジでこういう所だぞ? モブキャラのアリスはともかく、悪役令嬢たるリリーの設定ぐらいはゲーム本編で語らなくちゃダメだろ? じゃないと色々感情移入出来ないんだよ! 実際、私だって『この悪役令嬢、スペックたけーな』ぐらいの感想しか思い浮かばんかったし。
「そうですね。リリー様は年齢からは考えられない程に努力をされていますし。それを『重い』と言ってしまわれては可哀想ですよ、アリス様」
「それはなんかごめん。ごめんだけど……ちなみに、どんな努力してるの、リリー?」
「当然、アリス様の侍女になる為の努力です。勉強、運動、美貌、何一つ欠かしたことはありませんわ!」
そう言って両手を可愛らしくぎゅっと握るリリーに、メアリが頷いて言葉を継ぐ。
「史学、修辞学、算術は学園の入学レベルまでは修めていますよね、リリー様」
「はい! 後はダンスやマナーもですね!」
「素晴らしいです、リリー様」
……私の侍女候補がハイスペックな件について。いや、学園の入学って十五歳からだろ? なんだよ、既に入学レべルって。
「いえ……私などまだまだです。メアリ様は五歳で修めたとお聞きしましたし……」
「……」
私の現侍女も超絶ハイスペックだった件について。っていうか……もしかしてリリーがハイスペックなのってアリスへの愛とメアリの教育の賜物なのか? 作品最大のライバルを育てたって意味じゃ、アリスも確かに悪役令嬢かも知れない。まあ、本人は結構ポンコツ令嬢なのだが……
「あ、そうです! 聞いて下さい、メアリ様!」
「どうされましたか、リリー様?」
メアリの問いかけに、華の咲くような綺麗で愛らしい笑みを浮かべて。
「先日、ようやく熊を一人で倒すことが出来ました! まあ、弓を使ってではありますが……これで、また一歩メイド道の頂を登る事が出来ました!」
「そうですか! それは素晴らしいですね。弓を使ってでも構いません。これで、アリス様付きの侍女としてのメイド道の頂に近付く事が出来ましたね」
「はい!」
「おい、ちょっと待て」
出て来た言葉と笑顔との温度差が半端ない。なんだ、熊を倒せたって!?
「アリス様付きの侍女たるもの、熊の一匹や二匹一人で仕留められなくてどうしますか」
「いや、その理屈はおかしくない!?」
私の言葉にメアリが小さくため息を吐く。な、なに? その、『この娘はなんも分かっちゃいねー』みたいな態度!
「はぁ……良いですか、アリス様? アリス様はサルバート公爵家の一人娘です。その御身は高貴なものです。侍女たるもの、いつ何時でもアリス様をお守りできる様に心身を鍛えなければなりません」
「いや、そりゃそうかも知れないけど……ああ、いや、待って? そういうときの為に護衛が居るんじゃないの?」
「男性の護衛がアリス様の寝室に入れますか?」
「そ、それは……まあ」
「そうです、アリス様! 男性の護衛を部屋に招き入れるなど、絶対に許しません! アリス様の可愛らしい寝顔は私のものです!」
「リリーはリリーでなんかおかしい!」
「そうです、リリー様。少なくとも今は私のものです。最近では旦那様でもアリス様の寝室にはお通ししていませんし」
「メアリの方がおかしかった!?」
「ともかく、アリス様の侍女たるもの、護衛を兼ねるものですので。ちなみに私も七歳の時には熊を仕留めていました。素手で」
「……すみません、アリス様。私は素手では猪までが限度です。でも、いつの日か必ず、素手で熊を仕留めてみせますので!!」
「待って。ねえ、本当に待って!」
その能力は絶対に侍女に要らない。っていうか、素手で熊や猪を仕留める貴族令嬢ってどうなのよ!
「……マジでこういう所だぞ、わく学」
『次は必ず、素手で仕留めてみせます!』と勢い込むリリーを半眼で見つめながら、やっぱりわく学ってクソゲーだよな~なんて、そんなしょうもない事を私は考えていた。
『面白かった!』『続きが気になる!』『アリスちゃん、がんば!』という方がおられましたらブクマ&評価の方を宜しくお願いします……励みになりますので、何卒!




