第十四話 何しに来たんですか、『殿下』? って聞いたら不機嫌になった『ジーク』
お父様から衝撃の『バッテル伯爵の息子、来るってよ?』という宣言から二日後。家にやって来たのはバッテル伯爵の次男であるラインハルト・バッテル――ではなく、ジーク殿下だった。
「……何しに来たんですか、殿下?」
「……お前な? 普通、王族の、しかも第一王子が訪ねて来ていきなり『何しに来たんですか?』は無いだろう?」
呆れた様にそう言って見せるジーク。おお、そーりー。
「失礼しました、殿下」
「……まあ良い。お前が失礼なのは今に始まった事では無いしな。よく考えれば、初手からドロップキックをかます様な女だ。それに比べれば全然失礼では無いだろう」
「あれは殿下にも非があったからですよ?」
「ああ、理解している。申し訳なかったな」
そう言って素直に頭を下げるジーク。うんうん、素直になってくれてママ、嬉しいよ? でもね?
「仮にも王太子ともあろう方が簡単に頭を下げるものではありませんよ? この世界、ナめられたら終わりです」
「筋者の世界ではないぞ? まあ……言っている事は間違ってはいないが。だが、許せ。お前は臣下では無いのだろう?」
「……まあ」
「大勢の臣下の前ではともかく、お前と二人きりの時ぐらいは許せ。俺だって、何時だって『王子様』は疲れる」
「……そういう事でしたら」
そう云う事なら、まあ、うん。でもさ? その台詞、どっかで聞いた事あるんだよな。ええっと、確か……
「……あ」
あ、これゲームの台詞だ。ヒロインの前で『お前の前だけだ。俺が王子の看板を降ろせるのは』とかなんとか、心を許してるっぽい事言うヤツだ、これ。微妙に臭い事言ってるな~って思ってたんだよな、うん。
「……それと、二つ訂正だ。俺は王子だが、王太子ではない」
「立太子の礼は?」
「まだだ」
「……ああ」
なんとなく、納得が行って頷く私にジークが嫌そうな顔を浮かべてこちらを見やる。なに?
「……誤解のない様に一応言っておくが、俺に問題があるから立太子出来ないという話ではないぞ? まだ年若いから立太子していないだけだ」
「……」
「思ってただろ、お前?」
「……てへぺろ」
某お菓子屋のイメージキャラクターの様にチロリと舌を出して誤魔化す私。いや……ごめん。でもさ? 初対面のジーク、ポンコツ王子様だったし。ゲームの中での印象もあるから余計に『ああ、こいつ中々後継ぎって認めて貰えて無いんだな~』とか思ってたよ。
「……くそ……ちょっと可愛いじゃないか、それ」
「はい?」
「な、なんでもない!! ともかく、俺もまだ七歳だしな。立太子の礼にも金が掛かる」
「一国の王子様がなんとみみっちい……」
「事実だ。だから……まあ、立太子の礼は先送りになっていた。本当に『俺』が国王になれるかどうか、まだ分からなかったからな」
そう言って苦笑を浮かべるジーク。その表情に殿下の苦労が見て取れた。
「……殿下は気付いておられたのですか? 王宮内に、その……」
「俺は聡いからな……と、言いたいところだが、あそこまであからさまにされれば阿呆でも気付くさ。俺ではなく、アレンを王にと望む勢力がある事ぐらい」
「……あからさまだったんですか?」
「いっそ清々しいくらいにな。まだ、物理的な危害が無かっただけマシだ」
……ああ、もう。そりゃ、ジークもポンコツになるわ! 幼い頃から大人の敵意に晒されれば、誰だってスれるよ!
「……まあ、それも先日までの話だ。俺とエカテリーナ様が……まあ、なんだ? こう……」
「仲良しになった?」
「……まあ、うん。そんな所だ」
「照れなくても良いのに」
赤くなって言い難そうにするジーク、ちょっと可愛いけど。
「て、照れではなく! コホン、ま、まあともかく……そのせいで王宮内は大混乱だ」
「それは……」
……性格が悪い事は百も承知、きっと面白い事になってるだろう。掌にベアリングでもついてんじゃねーかってくらいのアツい掌返しが見られるのだろう。今までジークを蔑ろにしてたヤツらが。なにそれ、面白そう。
「……悪い顔をしているぞ」
「親心です」
ママ的心情では面白く無いからな。精々、ジークに取り入る為に頑張りやがれ。けっけっけ!
「何が親心だ。別に私はお前に親になって欲しいのではなく……まあ、いい。そんな事があったから今日は詫びに来たんだ」
「詫び?」
「公爵から聞いて無いか? ラインハルトが一緒に学びに来ると」
「……ああ」
聞いてるけど……
「それは別に殿下のせいでは無いでしょう?」
「直接的には、な。だが、少なからずお前には迷惑を掛けるだろうから詫びに来たんだ。許せ、アリス」
「……良い心がけですね、殿下。はい、許します」
人に配意できる様になったのは花丸をあげよう、ジーク。まあ、皆に忖度ばっかりしてたら王としてはどうよ? という感じではあるのでバランスが必要だが、そこは『藤堂って美人じゃないのに八方美人だよな?』と言われ、『配意の鬼』として職場の潤滑油になっていた私が鍛えて上げようジャマイカ! いや、別に八方美人だったわけではないぞ? 後、美人じゃないって言って来た営業の加藤、マジで許すまじ。
「……純粋に逢いたかったのもあるがな」
「なにか言いました?」
「いや、なんでもない。それで、取り敢えずこれから何日かおきに来る事になると思う。俺と……ラインハルトが」
「分かりました。なんのお構いも出来ませんが……」
「お前が居れば充分だ」
「……そう言って頂けると……なんでしょう、ちょっと嬉しいです、殿下」
うん、少しばかり『ほっこり』する。そう思って笑う私に、殿下は少しだけ呆れた様な顔を浮かべて見せる。
「……二つ訂正、と言っただろう?」
「二つって……」
ああ、言ってましたね。一個は王太子じゃないで……あれ?
「殿下、もう一個は?」
「それだ」
……どれ?
「……言っただろう? 俺の事は殿下ではなく……ジークと呼べ、と」
そう言って頬を染めてそっぽを向くジークは……なんだろう、こう、モフりたくなるぐらい可愛かった。いいわ~、ジーク。愛玩動物みたい。
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