第十三話 一難去って、また一難。
ジーク様誘拐――誘拐? まあ、半分拉致ったのは間違いないが――アンド、エカテリーナ様来襲からお二人を王宮に返した三日後。
「……なにをしたんだ、アリス?」
所用で王宮に籠っていたお父様が三日ぶりに帰って来て早々、私の部屋でため息を吐きながらそんな事を言う。ええっと……
「……特にはなんにも」
「嘘を吐け。あのエカテリーナ様が私に頭を下げたぞ? 『ご息女には世話になった』と。しかも、笑いながら、だ。お前、一体何をしたらあのエカテリーナ様を笑わせる事が出来たのだ?」
「……そんなに珍しいんですか? エカテリーナ様が笑うって」
「『氷の美女』と呼ばれているからな、エカテリーナ様」
「……」
それは流石に無理があるんじゃないか? 氷の美女って……精々、美幼女、頑張って美少女くらいじゃね?
「……なにか不敬な事を考えていないか?」
「いいえ。エカテリーナ様、お美しかったな~って」
うん、嘘は言ってない。嘘は言ってないぞ、私。
「……まあ良い。殿下も何かしら憑き物が落ちた様な顔をしておられたし、仲睦まじい様子だった。これで懸案事項が一つ減った。何をしたか分からんが……よくやった、アリス」
そう言ってにこやかに笑うお父様。ええっと……
「懸案事項、とは?」
「お前が聞いても楽しい話ではないさ。そこは子供らしく喜んでおけ」
むぅ……そう言われると余計に気になるぞ?
「でも、気になります。私、殿下の婚約者なんですよね? なら、殿下に関係する事は聞いて置きたいです」
「……」
「……それに、お父様が何をしたかったのか……それも、気になります」
お父様は領地をもつ貴族ではあるが、同時に王宮内でも内務卿を務める貴族だ。言ってみれば江戸時代の大名が、幕府でも仕事してますよー、みたいな感じである。そして、殿下と私が結婚すれば、今度は王宮が私の『職場』になるんだ。まあ、より正確には後宮が職場になるんだが……知識として知っていても損はない。っていうか、今後私が平和に生きるためにも、今王宮内がどうなっているか知っておく必要はある。
「……ふむ」
「その……お父様のお仕事、気になるな~」
そう言って上目遣いでお父様を見やる。アレだ。『パパ、お仕事何してるの~?』と聞く子供作戦だ! そんな私の言葉に、お父様が腕を組んで中空を睨む。
「……そうだな。お前にも話をしておこうか。お前にも関係のない話では無いし。ただ、正直七歳児にかみ砕いて教える自信はない。分からなかったら、分からなかったで構わん。話半分で聞いておけ」
「はい!」
ふっふっふ! お父様、舐めて貰っては困ります。私、見た目は子供でも頭脳は大人なんです。毎週毎週事件に遭遇する、『むしろ一周回って犯人アイツなんじゃね?』と言われる某小学生と一緒なんです。お父様のお話だって、話半分どころか全部、理解できますよ!! そう思い笑みを浮かべる私に、お父様はコホンと一つ、間をおいて。
「――まず、王宮内での派閥についてだが」
「お父様!?」
「なんだ? ああ、『派閥』が分からなかったか?」
「いえ、そうではなくて……」
びっくりした。言葉の意味云々ではなく、七歳児に喋りかける話題がすげーハードじゃね? 私が望んだことではあるが、『パパ、お仕事どう?』って聞いて『いや、派閥がね?』とか云うお父さん、居るか!?
「……分からなかったら分からなったで構わんさ」
「そうじゃないですけど……す、すみません。話の腰を折りました」
一切寄せる気ないんですね、お父様。まあ、それで良いって私も言ったけどさ~。なんだろう? この世界の大人って皆ちょっと変わってるのかな? 流石、『わく学』。
「王宮内では第一王子であるジーク様、第二王子であるアレン様を押す派閥がある。まあ、ジーク様は七歳、アレン様に至ってはまだ三歳だ。派閥という程大したものではないが」
「はい」
「勢力的にはジーク様の派閥の方が強い。強いがしかし、勢いがあるのはアレン様の派閥だ」
「なんでですか?」
ジーク様は……亡くなられたとはいえ、歴とした正室であるリリアーナ様の子供で、しかも第一子だ。
「なんと言っても陛下の寵愛を一身に集めるエカテリーナ様がご存命だからな。陛下もエカテリーナ様もリリアーナ様の事を蔑ろにしたり、決して貶めたりはされないが……まあ、死人には口も、権力も無いからな」
「お父様!」
言い方!!
「すまん。まあ、そういう理由もあってアリス、お前にジーク王子の許嫁として白羽の矢が立った。我が家はスモル王国でも有数の公爵家、陛下とてジーク王子が可愛くない訳では無いからな。国内有数の貴族である我が家が後ろ盾になれば……という考えがあった」
「……それって逆に良くないんじゃないですか?」
「聡いな、アリス。勿論、それではアレン王子派とのパワーバランスが危うくなる。それでなくても我が家と王家の結びつきなど、他の貴族がどう考えるか。私自身も反対したが……エカテリーナ様がな」
「エカテリーナ様?」
「『ジーク殿下には愛情をもって接してくれる子が必要』と……まあ、そういう訳でお前が選ばれたという側面もある」
「……なるほど。でもそれじゃ、エカテリーナ様は……」
「……感情表現の上手い方では無いからな。個人的にはやきもきしていたが……まあ、ここ数日の殿下とエカテリーナ様を見ればよい風に転がったのだろうな」
そう言って息を吐くお父様。その後、じとっとした目を向けて来た。な、なに?
「理解できたか?」
「ええっと……まあ、はい」
「……」
「……お父様?」
「……子供に理解できるほど、簡単な話でも無かった筈だがな? アリス、私に何か隠している事があるか?」
やばっ!! お父様、なんか疑いの眼差しでこっち見てる!!
「そ、そんな事ありません! 難しくて分からない所もありましたけど……み、皆仲良くなって良かったな~ってお話ですよね!!」
ありす、ななちゃい! ……と、言わんばかりの私の言葉に、訝し気な表情を浮かべながらもお父様はため息をひとつ。
「……まあ、アリスが予想以上に賢いなら良い。頭が悪いよりはましだ」
「そ、そうです! 殿下とエカテリーナ様も仲良くなったんだし、良い事ばかりじゃないですか!!」
そ、そうだよ! 良い事ばっかりじゃん! 誰も損を――
「……そうとばかりも言えん」
――へ?
「……ジーク殿下の後ろ盾として我が家が選ばれた。それはアレン王子派の力を削ぐ……というよりは、これ以上力を付けさせない様にする為だったのだが……エカテリーナ様とジーク殿下が……なんというか、『仲良く』なっただろう?」
「……」
……ああ。なるほど。アレン派、今頃めっちゃ焦ってる訳か。って……あれ? お父様? なんでそんな顔、してるんです? こう、可哀想な子を見る様な……
「……近衛騎士団長の息子がな? ジーク殿下やアリスと同じ七歳なんだ」
「……はぁ」
「そして……近衛騎士団長はアレン派の有力貴族だった男だ」
「……」
……嫌な予感しかしない。
「それでな、アリス? お前、殿下に勉強を教えると言っていたな?」
「……はい」
「……近衛騎士団長な? 『我が家の息子も殿下やアリス嬢と同じ、七歳です。どうでしょう? 一緒に勉強をさせて貰えれば』と……」
……ああ、なるほど。
「……鞍替え?」
「……皆仲良くしたいんじゃないか、近衛騎士団長……ラウル・バッテル伯爵は」
そう言ってそっぽを向くお父様。
……え、まって? これ、結構面倒くさいんじゃないの?
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