第百十三話 神様、酷くないですか?
今回は別視点
※ばるる様にご指摘頂いた名前の件、訂正させていただきました。ばるる様、ありがとうございました。危なかった……知らなかったです。ドイツの街の名前かと思ってました
私の名前はエリーゼ・シャウヘッセと申します。王都の南、シャウヘッセ子爵領を治めているシャウヘッセ家の次女で、今年、この『王立スモル学園』に入学いたしました。私の家は王都に近いという事もあって、領地の大きさや爵位こそ大した事は無いも、比較的裕福に暮らしています。お父様、お母様は優しかったですし、お姉様もお兄様も『エリーは可愛いね?』と愛を持って接して下さっています。
スモル王国の下位貴族……いわゆる、子爵や男爵と云った爵位を持つ貴族は通常、『寄親』という侯爵や公爵の高位の貴族の傘下に加わります。子爵領や男爵領は領地も小さく、収入もさして多く無いので藩屏として高位の貴族に従属……とまでは言いませんが、近しい関係を結ぶ事が多いのですが……先程も申した通り、我が家は王都に近い領地であり、そこそこ裕福な家庭だった為、寄親を持たない一本立ちした珍しい子爵家です。
だから、私にはさして親しい貴族令息、貴族令嬢は居なかったりします。元来、外で遊んだりするよりも本を読んでいたりするのが好きな引っ込み思案な性格ですし……甘えかも知れませんが、末っ子という事もあって基本的にお姉様やお兄様が私の意を汲んで行動して下さっていたので、自分から誰かに話しかけるというのが得意ではありません。ですので、学園の入学が来た時は本当に心配しました。巧く出来るだろうか、友達は出来るだろうか、勉強にはついて行けるだろうか、と夜も眠れない程心配して。
――その心配が、現実の物になったのは入学式の時でした。恨みましたよ、神様を。
◇◆◇
「アリス様、アリス様!! 凄いですよ、此処!! 無茶苦茶ベッド、広いです!! どうです!? 今日あたり、一緒に寝ちゃいます!?」
「……寝ないわよ」
平民出身、ロートリゲン子爵家の家領騎士の娘であるアメリア・ロートリゲン様がそう言って、アリス・サルバート様の腕を引っ張ります。困った顔をしたまま、その腕を『ぺい!』と引き離すアリス様に、もう一人の女性が声を掛けます。
「……アリスさん、アリスさん? この後集合までちょっと休憩ですよね? 私、昨日新作のデザイン描いててちょっと寝不足で眠いので横になってますね? 集合時間来たら起こしてくれます?」
「良いけど……新作? そんなの作ってたの、エリサ?」
「はい! 今度はアリスさんに『ツンデレメイド』に挑戦して貰おうと思いまして!! しかもミニスカですよ、ミニスカ!! 良くないです!?」
「私のかよ!! 絶対着ないからね!!」
「え~? 良いじゃないですか!! ツンデレ貧乳メイドなんて需要高いですよ!」
「喧嘩売ってんの、エリサ!?」
アリス・サルバート様に声を掛けたのはエリサ・ロクサーヌ様。数年に一度現れる『光魔法の使い手』で、九歳の頃からサルバート公爵家でお世話になっているとかで、アリス・サルバート様とは懇意らしいです。だからか……『あの』アリス・サルバート様にも気安くお喋りされています。
そうです。『あの』アリス・サルバート様に、です。
「……と、ごめんなさいね、煩くして? 大丈夫だった? 確か……エリーゼ・シャウヘッセ様、ですわよね?」
「……へ? ひゃ、ひゃい!? だ、大丈夫です……」
ぼーっとお三方を見ている私に気付いたアリス・サルバート様が微笑みながらこちらに声を掛けて下さいます。釣り目がちでありながら、それでも美しいお顔のアリス様に思わず裏返った声が出てしまいました。は、恥ずかしい……
「ええっと……同じクラスだけど、自己紹介が出来て無かったわよね? 私の名前はアリス・サルバート。今日から三日、この宿舎で同部屋みたいだから……仲良くしましょうね、エリーゼ様?」
「ひゃ、ひゃい!! こちらこそ、よろしくお願いしましゅ……」
「……そんなに緊張しないで下さる? それとも……私、そんなに怖いかしら?」
冗談めかしてそういうアリス様に、思わず『縦』に振りそうになった首を意思の力で必死に押し留める。
「そ、そんなことないでしゅ!!」
そんな私の声と慌てた態勢に、アリス様の口元が苦笑に歪む。や、やってしまいました!! ご、ご不興を買ってしまったのでしょうか……そう思う私に、苦笑を微笑に変えて。
「そう? それじゃ、私の事、『アリス』って……呼び捨てにしてくれないかな?」
見惚れる様な笑顔を浮かべるアリス様。そんなアリス様に。
「――それだけは勘弁してください!!」
私は流れる様に土下座をして見せる。
「え、エリーゼ様!? ちょ、な、なんで土下座なんてしているんですか!! あ、頭を上げてください!!」
「……煩いですね~、アリスさん。何を――……アリスさん? 今日から三日間、ルームメイトになる女性に土下座をさせるのはどうかと思いますが……」
「ち、違うわよ! 別に私が土下座しろなんて言って無いわよ!!」
「……流石ですね、アリス様!! 初手から、どっちが『上』かを刷り込んだって事ですね? エリーゼ様を既に配下に加えた、と」
「ちょっと貴方は黙ってなさい、アメリア!! え、エリーゼ様? そ、その、頭を上げてくれると助かるのですけど……」
……無理です。無茶苦茶怖いです。だって、アリス様でしょ? 『アリス・サルバート』様でしょ?
「……え、エリーゼ様? そ、その……」
――あの『猛獣使い(ビースト・テイマー)』のアリス・サルバート様でしょ?
「……」
……ねえ、神様? 私、なにか悪い事をしましたか? なぜ、私は彼女と同じクラスで、宿舎まで同じなんでしょうか?
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