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第百二話 武器としてではなく、盾として


 入学式から開けて翌日。ベッドの上で体を起こした私はうーんと体を伸ばし、しょぼしょぼする目を擦りながら姿見の前に移動する。


「……凄いわね、この髪」


 寮生活とはいえ今日から一応は一人暮らし。自分の身だしなみぐらいは自分でしなくちゃいけない以上、寝癖でボサボサになった髪でも整えようかと思って姿見の前に立ってみたのはいいが、この『金髪縦ロール』のドリルには一糸乱れた所は無い。正直、これはかなり助かるのは助かるが……この辺、変な強制力が働いているよね、わく学。


「アリス様? 起きてらっしゃいますか?」


 毎朝、髪のセットをしないでいいのは助かるなんて思いながら、備え付きの水瓶の水で顔を洗っているとドアの外から掛かる声があった。リリーだ。


「開いてるよ~。どうぞ」


 ドアを開けて遠慮がちに部屋の中に入って来たのはリリー……と、アメリアだ。二人とも既に制服に着替えていた。


「おはようございます、アリス様」


「おはようございます、アリス様!!」


「リリーとアメリア? 早いね? どうしたの?」


「いえ、朝食のお誘いです。まだ早いですので、今なら食堂も然程混んではいないと聞いていますので」


「誰から?」


「メアリ様です。『貴族の朝は遅いですので。朝食は早めに行っておかないと、まるで芋を洗うような有様です』と」


 ……ああ。そっか、メアリ、此処のOGか。


「流石にその状態じゃ食べれない、か。それじゃ着替えるからちょっと待ってて」


 先達の言葉はしっかり聞いておくか。そう思い、私は自分のパジャマに手を掛けて。



「ちょ、あ、アリス様!? な、何してるんですか!?」



 顔を真っ赤に染めて両手で覆う……癖に、指の隙間からこっちをチラチラと窺うアメリア。ええっと……


「……なに?」


「『なに?』じゃ、ありません!! な、なんで此処でふ、服を脱ぐのですか!! 天国ですか!! 助かります!!」


「……何言ってるの、アメリア?」


「はっ!? つ、つい、本音が……ではなく!! そ、そんな人の目の前で、は、裸になるなど……だ、駄目です!!」


「……いや、駄目ですって……」


 いいじゃん、女同士だし。そう思いリリーを見やると、まるで菩薩の様な顔で一つ頷いて。


「アメリアさん……役得です」


「……天国ですか、此処は」


「そうですね……殆ど天国と言っても過言では無いでしょう」


「いや、過言だろう」


 何言ってるんだ、こいつら。っていうかさ?


「その……リリーもアメリアもだけどさ? 別に『様』付けで呼ばなくてもいいよ? 確かに私は公爵令嬢だし、リリーの寄親の家でもあるけどさ? ジークも言ってたけど、別にここでは対等な訳じゃない? そもそも、その……どういえば良いのか……こうさ? そんな『崇め奉る』っていうか……そういうの、止めない?」


 幼いころからリリーはこう……盲目的に私を崇拝している感がある。昨日出逢ったばかりだが、アメリアにしてもそういう節があるっぽいし……正直、ちょっとやりにくいのはやりにくい。


「……そういうのしてたらさ? こう、グループって言うか……『派閥』みたいなのが出来るって言うか……」


 なんか変なのに絡まれそうな気がするんだけど。そんな私の言葉に、リリーとアメリアは視線を合わせてパチクリと瞬き。


「……その……アリス様?」


「……なに、リリー?」


 少しだけ困った様に眉をひそめて。



「――アリス様、派閥を作るつもりは無いのですか?」



「……は、はい?」


 派閥を作るつもりは無いかって……え?


「……リリーはあるの? 派閥を作りたいって気持ち」


「大変申し訳御座いませんが……アリス様、私は『派閥』を作ろうとしていますよ? アリス・サルバート様を中心とした、『アリス派』を」


「……マジか。え? リリーってそんなに権力欲強かったっけ?」


 私の言葉にリリーは苦笑を浮かべて首を振る。


「全くない、というと嘘にはなりますが……そういう意味ではありません。概ね、理由は三つあります」


「……三つ?」


「恐れながらアリス様? アリス様はおそらくこの学園で一番、ないし二番目に有名な女生徒になります」


「……そうなの?」


「ええ。サルバート公爵家という高貴な家柄に、この学園の制服を作っている『サルバート印』の創業者です。加えて、次期国王陛下であるジーク様の婚約者です」


「……」


 ……おお。そう言われれば、確かに肩書だけは凄いかも知れん。


「そんなアリス様にはきっと、『悪意』が向けられるでしょう。直接的な事は流石に無いでしょうが……つまらない嫌がらせはきっとあります」


「……まあ、そうだろうね」


 色んな貴族がいるが、高位になればなるほど傲慢になる傾向にはあるしね。そりゃ、自分より目立つ存在は目障りだろう。


「そんな輩からアリス様を守る為に、『派閥』は絶対必要です」


 一息。




「――『アリス・サルバート』という人間を守る派閥……『盾』が。武器としてではなく、貴方を守るための盾が」




「……武器にもなりそうだけど、それ? しかも結構最終兵器っぽいけど」


「運用次第では。ですが、『最終兵器』というのは究極、最高の盾になりますので。使う、使わないのご判断はお任せしますが」


 抑止力ってヤツか。


「……アリス様が『群れ』を作らずに一人で居られたら、きっと悪意はアリス様に牙を向くでしょう。人間、弱いものには強く出来ておりますので。そんな悪意を跳ねのける為にも『盾』となる派閥は絶対に必要です」


「……」


「まあ、アリス様が一人で居ることなど無いでしょうが。少なくとも、私はずっとお側にいますので。どんな悪意からでも守って見せましょう」


 微笑んでそう云うリリー。そんなリリーに、慌てた様にアメリアが両手を挙げて『はーいはーい!!』と声を上げた。


「私もです!! 私もどんな悪意からでも守って見せます!!」


「……あんがと。でも別に、嫌がらせぐらいは別に……」


 そりゃ、されて嬉しい訳じゃないけどさ? それぐらいはまあ……そう思い、リリーを見やると、リリーはにっこりと笑って。




「……訂正しましょう。私が嫌です。私の大事なアリス様に害為す輩など……万死に値しますね」




「笑顔が怖いよ、リリー!?」


 あ、圧が凄い!!


「リリー様? リリー様が自らお手を汚す必要はないですよ? その時はこの私が」


「ふふふ、アメリアさん? 頼もしいですが……それは私の仕事ですよ?」


「むぅ……私だって『強い』ですよ?」


「ええ、勿論、存じ上げてますよ? ですが……私の楽しみを奪わないでくださいますか

?」


「えー! ズルいです!! 私だってアリス様に害を為す輩を成敗したいのに!」


「この役目は譲れませんね」


「――なに笑顔で物騒な会話してるのよ!! 戻ってこい、お前ら!!」


 なんだよ、この『アリス一家』みたいな雰囲気! っていうか、『こいつら』を派閥として迎えるって……い、いかん……頭痛がしてきたぞ、おい。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] アメリアの「私だって『強い』ですよ?」に対してリリーが認めている発言がありますが、ラインハルトより強かったら、「近衛騎士は強くない」と幼少のころのラインハルト自身の言葉が突き刺さりそう…
[一言] 派閥っていうから物々しいんであってだなあ ファンクラブなら
[一言] サルバート会系アリス組爆誕 あとジークらには女の争いに男が口だすとろくな事にならんてのを教えこんどかないと間違いなくろくな事しない
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