第百一話 派閥を作るのも貴族の大事なお仕事です!!
滞りなく入学式を終え、クラス発表を終えた夜。私達――私、エリサ、リリー、ジーク、エディ、ラインハルト、それにクリフトの七人は全員同じクラスになった。ちなみにこれは偶然でもなんでもなくて、『ジーク達はアリスと一緒のクラスにするべき』という理事長であるエカテリーナ様の鶴の一声で決まったクラス決めである。問題児を一堂に集めた、という訳では無いと心の底から信じたいが……『……その方が問題が起きた時に対処しやすい。きっと、アリスは何かするから』とのエカテリーナ様の弁と目を逸らした事により、その可能性は著しく高くなった。そんなに問題起こしてないんだけどな、最近は。
ちなみに、『熱狂的』と称して良い私のファンであるアメリアは隣のクラスになっており、涙を流しながら悔しがるアメリアと、心底ほっとした表情を浮かべたジークの姿が印象的だった、とだけ補足しておこう。
「……アリスさん? 良いです、お邪魔しても?」
「エリサ? 良いわよ」
食堂で食事をとって部屋で食休みをしていると扉の外から掛かる声があった。エリサだ。
「お邪魔しまーす……って、結構片付いていますね、アリスさん」
「まあ、そんなに荷物も無いしね」
貴族の、それも公爵令嬢の入寮だから荷物が沢山、と思われがちだが、私の場合は数点の私服と制服、替えの下着と筆記用具ぐらいのものだ。この学校、貴族学校の割には意外に質実剛健であり、華美なイベントは殆どない。一年通じてのイベントは精々、入学式と卒業式、それにデヴュタントぐらいのもんである。別に『寮内でも制服で暮らしなさい』みたいな校則も無いし、門限までは何をしても良いのでそこでお洒落に拘る子は色々と荷物をもってきているみたいだが、私はあんまり興味も無い。
「着飾るの嫌いですもんね、アリスさん」
「嫌いって訳じゃないけど……学校には勉強に来ている訳だしね。アクセサリーや服に拘っている場合じゃ無くない?」
「……洋服屋さんの言葉とは思えませんが」
「副業だし、アレ。本業は勉学よ、勉学」
学生でしょ、私達。
「……はあ。まあ、アリスさんなら必要はないかも知れませんね~」
「……どういう意味?」
私は着飾っても無駄だと? そう思う私に、『違う、違う』と手を振って見せるエリサ。んじゃ、なにさ?
「アリスさんみたいな考えの人ばっかりじゃないって事ですよ。人が三人集まれば『派閥』が出来るって言われますし」
「……ああ」
やっぱりあるのか、そういうのも。
「今日も私、声を掛けられましたし。『貴方、光魔法の使い手なんですって? どう? 今日、これから親交を深めませんこと?』って」
「へぇ~」
「ちなみにその後、『貴方、ドレスは持っているかしら?』って言われましたので、ドレスコードとかあるんじゃないですか?」
「……何しに来ているんだか」
「まあ、『派閥作り』も貴族の大事なお仕事でしょ? これも勉強ですよ、きっと」
……確かに。エリサの言う事には一理ある。一理あるが……
「……私、今日誰にも声掛けられて無いんだけど……」
なんでだ? エリサは誘ったのに、私は誘ってくれないなんて……仲間外れ、いくない!! 憤慨する私に、エリサが呆れた様にため息を吐く。
「……そりゃ、アリスさんに声を掛ける人なんている訳無いじゃないですか。何言ってるんですか、アリスさん」
「なんでさ!! 悪役みたいな底意地の悪そうな顔をしているからなのか!?」
悪役顔か!? この悪役顔が原因か!! 私だって友達欲しいぞ、おい!!
「……違いますよ。だってアリスさん、王太子であるジークさんの婚約者ですよ? 加えて、近衛騎士団長の息子であるラインハルトさん、宰相の息子であるエディさんの幼馴染で、社交界デヴューを果たしていないにも関わらず既に『スワロフ家の白百合』と言われたリリーさんの寄親でしょ? 『光魔法の使い手』である私の庇護者でもありますし」
「……そうだけど」
それが何さ!!
「……既にアリスさん、『派閥の頭領』と思われていますよ? 私に声かけて来たのだって、きっと派閥の切り崩し目的でしょうし。今の時点だったらきっと、最大派閥ですよ『アリス派』。人数的にも、権力的にも」
「……マジか」
……マジか。別に望んで無いのに私、既に『ラスボス感』あるって訳か……これ、友達作れねー奴じゃないですか?
「……ジーク達のせい?」
「そういう言い方は駄目です! 得難い友達でしょう、皆?」
「……はーい」
「それに……別にアリスさんの『派閥』に入りたい子もいますよ」
「……本当?」
別に派閥を作りたい訳じゃないけど……三年間、ジーク達だけしか友達がいないのもちょっと寂しい。学園祭とか皆で盛り上がりたいし。
「さっきも言いましたけど、ドレスコードある様なお茶会に毎回毎回呼ばれる様な派閥は嫌だって子もいますよ。毎回同じドレスだったら馬鹿にされるとか思うでしょ? でも、上は公爵から下は男爵まで、皆が皆そんな何着も何着もドレス持ってるワケないじゃないですか。お金だって掛かりますし」
「……まあね」
「そもそもアリスさん自体、貴族社会じゃちょっとは知られた『名士』でしょ?」
「名士って。『サルバート印』をしてるだけじゃん」
「……ですが、その『サルバート印』のお陰で既に派閥入りを熱望しそうな子もいますし」
「……まあね」
確かにアメリアは私が派閥とか作ったらすぐに派閥入りしそうである。
「……ちなみにエリサ、あの子は原作には……」
「出て来てませんね。そもそも、平民の子すら出て来てないじゃないですか、エリサ以外。アリスさんも知ってるでしょう?」
「……隠しキャラとかでは?」
「……」
「……な、なに?」
「いえ……『わく学』ですよ? そんな所にリソース割くと思います? 王太子の婚約者にセリフ二つしか付けなかったわく学ですよ? そんな所に力を入れている余力ないですよ、あの開発陣に」
呆れた様に肩を竦めるエリサ。その姿に『うぐぅ』と息が詰まる。詰まるが。
「で、でも! 逆に『わく学』だよ!? そう云う意味不明の所にリソース使いそうじゃない、わく学って!!」
『そういう所』へのわく学への信頼感は高いぞ、私!! なんか訳分かんない事するって!!
「……そ、そう言われればそうですが……で、でも大丈夫だと思います!! 『アメリア・ロートリゲン』なんてキャラクターは、私の知る限りでは出てきませんので」
「……ほんと?」
「はい。だから……まあ、アメリアさんのあの態度は、純粋にアリスさんの大ファンなんだと思いますよ? まあ、ある程度想像は付きますが。結構人気ですしね、『サルバート印』って」
「そ、そっか。それじゃ原作関係ない所でファンって事か」
そ、そうか。そう言う事なら、まあ、うん。良かった、とほっと胸をなでおろす。そんな私に、エリサはじとーっとした目を向けて来た。な、なんだよ?
「……いえ……むしろあんな『やべー子』が原作関係なくアリスさんのファンって方が心配じゃないですか? あの子、アリスさんの完全な信者みたいになってましたけど? アリスさんが『行け!』って言ったら敵対派閥とかに素手で乗り込んでいきそうですよ? 鉄砲玉かなんかです?」
「そんなつもりはない!!」
そんなつもりは無いけど……そう言われて見れば、そうかも。初日からどえらい濃いキャラにあったな、おい。
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