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第87話 大浮き球(前編)

第87話 大浮き球(前編)


 最近は、家にいることがほとんどない気がする。そうなると掃除などの家事が滞る。この間まで会社に行っていたが、そのときでも夜や朝、少しずつ進めていたからそこまで溜まることは基本的になかった。それならいっそG市に引っ越そうかとも思ったが、実は文松町は何だかんだ便利で(薄暗さと衰退しているさまは否定できないが)、引っ越しにはお金もかかるからもうしばらくはいようと思う。あと藍風さんがいるから。(多分)親しい知り合いがいるだけで大分楽だ。


 あとは、硬貨虫が家事をしてくれればよいのだが。トランスフォームしないだろうか。そんなことはないだろうが、酔っぱらった時にふと考える。



 普段よりも早く起きて朝食を食べた後、藍風さんとの依頼のために簡単な荷造りをしてから車に乗った。いつもの道を通って藍風さんを迎えに行き、家の前まで行くとすでに門の前で待っていた。少し暖かかったからだろう。良く見る登山服に暖かそうなジャンパーを着ていた。登山服と思っているが、正式名称は知らない。


 「おはようございます」

 助手席のドアを開けて藍風さんが車に乗り、荷物を後部座席に置いた。すっとするお菓子のような香りが車内に漂った。何かの果物味だったと思うがその名前が出てこない。


 「おはようございます。よろしくお願いします」


 「はい。よろしくお願いします」

 ふと藍風さんを見ると、ばっちり目が合った。近くだったからその瞳に私が映っているのが見えた。私の視力が異常なことと藍風さんの目がきれいなことが合わさったからだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 車を高速道路の入り口まで走らせながら、雑談をした。新学期はどうか、新生活?はどうか、そんな話題をきっかけに会話を始めた。


 「そう言えば、この間城山さんと江崎さんに会いましたよ」

 信号待ちの間、話が途切れふと思いついた話題を出してみた。


 「あ、翌日にそれ、聞きました。詩織ちゃんが変なこと聞いたそうですね」

 女子中学生の情報網?は思っているよりも濃い。話題の選択を失敗したか。

 「そう言えば、その、どこで2人と会ったのでしょうか。そのときは聞き忘れてしまってですね…」


 大丈夫だったようだ。しかし、話題を無理に広げてくれなくてもよいのに。気を遣わなくてよいのに。

 「ああ、あの橋の近くですよ。あの、コインランドリーとホテルがそばに建っている」


 「あの、私の家の反対にある橋ですか」


 「そうですね、文松中学校から見れば反対ですね。普段は通らないですが、諸用の帰りでたまたま通りかかった時に江崎さんに声をかけられまして」


 「普段は通らないのですか…。どんな用事だったのですか」


 「大した用事ではないですよ。役所やそういう所に行って手続きをしただけです」


 「そうですか。大人は色々難しいことで大変ですね」


 「まあ、たまにですよ」



 その後もふっと話していた。決して賑やかではなかったが、2人とも沈黙は苦でない。心地よささえある。高速道路に乗ってからは毎度のようにより静かになった。普段使わないから慣れていない。運転も特段好きではない。藍風さんは窓の外を見ていた。私は今回の依頼内容を思い出していた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 T県入前市の市街から外れた海辺の地区で、依頼者の浜本氏(女子高生)は奇妙なモノを目撃したという。


 それは始めは彼女の家から見える海の、沖の方に浮いていた。次に見たときにはもうなかったから何かの見間違えだと思っていた。しかしそれからは海を見ると、いつも見えるわけではないが変わらず浮いている。それに、だんだん近づいている。


 家族に言っても信じてもらえず、友達と一緒に見たときも、自分にしか見えていなかった。悩んだ末、学校の先生に相談したところ、協会に相談することを勧められた。


 それ、は数m大の丸くて黒と深緑の混ざり合った色のモノで、ちょうど球の端を切って浮かせたような形をしているという。彼女の依頼内容は正体を突き止めることと必要なら対処することであるが、私達がすることはそれの出現パターンや危険性、詳細な情報、可能なら正体の特定だ。もっと可能なら対応もするが、その大きさのものに船で無防備に近づくほど無謀ではない。要は、下調べだ。だから安い。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 高速道路を降りて、入前市に入ってから休憩がてら昼食をとった。海辺なのは端の方だから、市街は海産物が美味しいというわけではないらしかった。藍風さんと話して、そば屋に入った。私も藍風さんも同じ月見そばを食べた。


 再び車に乗って海辺に行くと、既にそれは浮いていた。『大浮き球』と便宜上呼ぶことにして、浜本氏と待ち合わせをしていた公園に向かった。


 浜本氏と依頼内容の確認を行ってから、一旦ホテルに行ってチェックインを済ませた。浜本氏は自分以外にも大浮き球が見える人がいたことにほっとした様子だった。その気持ちはわかる。

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