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第86話 切れ目

第86話 切れ目


 さて、ようやく退職した。有給休暇を取っていたから会社には行っていなかったが、一つの節目だ。本当は転職をするにしても準備する期間が欲しかった。あの仕事は楽しかったし誇りも持っていた。だから、問題が解決する方向に何度も持って行こうとしていた。無駄だったわけだが。


 一連の嫌がらせだけではなく、賞与に手を出された。あまりにも不公平であった。終いには呪われた。あの時藍風さんに会っていなかったら、全く分からなかったことだ。命を落としていた可能性さえある。


 これ以上書いても何にもならないから止めておく。


 そういったわけで、解放感、心残り、それから多少の不安が入り混じった気持ちである。不安というのは定職についていないことである。別の仕事を探すか、怪奇関連に専念するかで後者を選んだ。


 自営業のようなものだから、税金やら保険やらのことに詳しくなく、支部から色々と案内の資料を貰いながらも、なんとか手続きを終わらせた。緊急連絡先や何やらも変更しなくてはならず、代行サービスを利用しようかとも思ったが、藍風さんがなってくれるということで助かった。


 怪奇関連の知識は徐々に仕入れている。歴史もだ。支部の資料もそろそろ見ることができるようになりそうである。興味のあることは勉強していても楽しい。が頭に入るかは別だ。


 それから、自分の色をつけないと依頼を受けにくい。能力は特殊であるらしいが、それだけで仕事を増やすのは難しそうだ。科学的な手法(録音、録画、サーモグラフィなど)を用いて怪奇を探し出すことができるようにとも考えているが、初期投資が多く必要で、厳しい物がある。


 怪奇を攻撃する方法は今のところ物理的なやり方(と札)に頼っている。呪文を唱えたり、念じたりもしてみたが、効果がほとんどないか、さらには体中の力が抜けていくため向いていない気がする。なら腕っ節に自信があるかと言うと全くない。平均くらいかそれよりも下のようにも思う。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 藍風さんは学校が始まって平日は以前のように学業がある。連絡はちょくちょく取っているが、怪奇と関係ないことの方が多い。普段口数が多い方ではない割には結構やり取りをしているような気がする。


 みーさんは怪奇絡みの話もそうだが、協会(支部)とのやり取りでも世話になっている。それ以外はゲームの感想や情報が来ることが多い。自分もやってみようと思うこともあるが、ある程度の域になるまでのハードルは高いし、時間もあまりないから動画を流し見して満足している。


 ツァップさんとは日本語の練習に付き合うことがある。もう片言でごく簡単なことなら話せていると思う。アニメの力はすごい。もう日本になじんでいるようだ。


 弦間さんや嶽さんとは連絡を取ることは殆どない。二人とも忙しいのだろうし、嶽さんは電波の入るところにいないことがある。代わりに弟子の桾崎さんから連絡が来る。姪がいたらこんなものなのだろうか。


 硬貨虫は寒いからなのか動きが鈍い。と思ったらケースをガンガン叩いていることもある。よくわからない。餌?の種類で硬貨の形が変わるが、逆に同じ餌?を与えても完全に同じ硬貨を作るのは難しいようだ。岩原さんの世界の貨幣の流通はどうなっていたのだろうか。相当精密に管理されていたのだろうか。



 それから、あれ以来文松中学校には行っていないが、江崎さんと城山さんに道端で会った。


 「あ、こんにちは」「こんにちは」

 江崎さんに発見された。江崎さんはこちらに駆け寄ってきた。犬みたいな懐かれ方をしていると思う。それを小走りで城山さんが追いかけてきた。


 「こんにちは。お久しぶりですね」


 「そーですね。あ、今日は知都世ちゃん一緒じゃないんですか?」


 「?」


 「?」「?」


 全員の頭にはてなが浮かんだと思う。藍風さんが今日何をしているのかはわからない。多分学校帰りではないだろうか。時間帯的に。


 江崎さんの顔を見るとキョトンとしている。何も考えていないようだ。城山さんの方を見ると顔を赤くして目を反らされた。旧校舎での出来事を思い出したのだろうか。


 「今日は、一緒ではないですよ。何か用事があったのですか」


 「あれ?あ、用事はないです」


 その後は、少しの間立ち話をしてから別れた。とりとめない話だったが、それよりも、学校関係者に見つからずに良かったと思った。後々、そういえば入校許可証を持っているから、それを見せれば不審者ではないと証明できることに気づいた。



 夕食の豚カツは1枚で良かったと思う。2枚は多かった。他のおかずもあったのに。縁起を担いで食べ過ぎてしまった。

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