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第85話 奥の部屋

第85話 奥の部屋


 寒空の下、みーさんとやや早足で支部に向かった。覆面の花売りの人形を完全に封印するためだった。支部の明かりはすでに消えていたが、みーさんは鍵を持っていた。暖房は切れていてけれども、少し前まで誰かがいたからなのか、室内で風が当たらなくなったからなのか、少し暖かく感じた。


 みーさんは急いで暖房を入れて、それからケトルでお湯を沸かし始めた。私もコートを脱いで、ティーパックの準備をした。ソファに座り2人で一服して、部屋も体も暖かくなり、お茶を飲み終わったところでみーさんが準備をしに隣の部屋に行った。不特定多数に見せられない物もあるらしい。私も後片付けを済ませながら、合図を待ち、初めて隣の部屋に入った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 中には更に4か所入り口があった。向かって左には1部屋、右には3部屋、部屋の規模は手前から中、大、小と言ったところだろうか。扉間の間隔で何となくだ。突き当りには外への出口と思われる扉があったような痕跡が残っていた。その下には普通の消火器が置かれていた。消防法は大丈夫なのかと、少しだけ思った。他に気づいたことと言えば、窓がなかった。みーさんが手を振っている部屋に進み、中に入った。


 「お待たせしました」

 中は、色々な薬品?や物が仕舞ってある戸棚に、大きい作業台、流し台に、ガスバーナーや雑多な物が仕舞われたキャビネットが置かれている。ここも窓がない。右奥にもう一部屋ある。作業台の上には袋が2つ置いてある。


 「どうぞー。私の部屋じゃないけれどもねー。じゃあ、説明します」

 ほんの少し照れているようだ。無理に先生口調をしなくてもよいのに。


 「よろしくお願いします」


 「まず、先ほど回収した5つの物、人形、覆面2ピース、赤い花、青い花はそれぞれ別に封印します。入りそうな入れ物はこちらに準備してあります」

 作業台の下には様々な大きさや形の袋や容器が置いてあった。


 「封印の手法によって使う容器が違うんですね」


 「そうですねー。今回はまずこの袋を使います。袋自体は普通の丈夫なものですよ。赤い花からしますか。札を貼ったまま袋に入れて、後はこの粉を一緒に入れて口を堅く縛れば、はい、終わりです。後はタグをつけて、分かりやすくします」

 あっけない。


 「その、ここで開くのは危なくないのでしょうか」


 「その点は大丈夫ですよー。この事務所自体、様々な筋の方法で怪奇の類を制限していますから。動けても危害を加えることはできません。それに、隣の部屋には完全に処理されていない怪奇が溜まっていますよー」


 「いつも資料整理しているものですか」


 「そうです。青い花も同じだから説明は省略しますねー。その間に、次の流れでも。こうやって長期間の封印をされた怪奇はその情報や、実物の検証から、完全に封印するか、破壊するか、何かに使うか、あ、偶に逃がす場合もありますね、そんな方針が協会の方で立てられます。その難しさによってモノがあっちに行ったりこっちに行ったりです」

 みーさんの手はどんどん進み、青い花を入れた袋にはもうタグが取り付けられていた。


 「人によって得手不得手があるわけですか」


 「そうでねー。私はごく一般的なことしかしていないけれども、知都世ちゃんはモノによっては頼りになるし、ケイテは専門に近い物には強いし、色々ですねー」

 「次は、覆面の方ですね。これくらいの大きさならそれぞれ、この紙で巻いてしまいましょー。紙にはほら、呪文が書いてありますからしっかり巻いて、端をテープで貼れば、終わりですね。もう一方も同じです」


 「先ほどと何か違いはあるのでしょうか」


 「うーん…。正確にはあるんですけれども、このくらいなら気にする必要はないですねー。何が大事かと言いますと、体積と重さを減らすことです。輸送のコストもかかりますから。でも、安全第一ですよー。少し前に聖油をけちってトラックの中で怪奇が復活したなんてこともありましたからねー」

 聖油はキリスト教の祝別されたオリーブ油だったはずだ。それをけちったというのは浸漬に使う量を減らしすぎたということだろう。液体ならつい減らしがちになりそうだ。


 「そのときはどうなったのでしょうか」

 その後が気になる。


 「そのときは運良く専用のトラックだったし、聖油も効いていたから荷台の中でうずくまっていたんですねー。それをもう一度聖油に浸して一件落着だったそうですよー」

 「で、最後の人形ですが、これはもう一枚別の札を貼って、袋に入れます。粉も一緒に入れて、口を縛れば、終わりです」

 説明している間にもみーさんの手はてきぱきと進んで行った。


 「見学させてくれてありがとうございます」


 「大したものではないですよー。あ、終わったモノは一旦倉庫にしまって、レポートを出して協会の指示を仰ぎます。倉庫は反対の右側の部屋ですから、ここを出ましょう」


 倉庫にはコインロッカーのように大小さまざまな大きさの棚があった。幾つかはモノが入っていた。タグが表に取り付けられているから分かった。

 「ここ空いていますねー」

 みーさんは1つの棚を開けて中に持って来たモノを入れた。鍵がないようだ。


 「そういえばこれ、盗まれたりしないのでしょうか」

 ふとした疑問だ。


 「大丈夫ですよー。部外者はこちら側に入ってこられないですし、不要に持ち出しでもすればすぐにばれますから。色々と細工されているんですよー。私も詳しいことは知らないんですが。だから鍵をかける必要はそんなにないんですねー」

 怪奇と能力は知らないことばかりで奥が深そうだ。だから、下手に余計なことをしない方がよいと思う。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 後片付けをして支部を出たときにはだいぶ遅くなっていた。私達はそれぞれの帰路に就いた。文松駅から家に帰る途中、少し離れたコンビニで夕食を買った。電子レンジで温めている間に荷ほどきと就寝の準備を済ませた。


 夕食を食べ終わり、一段落してから眠ろうか思った時に、みーさんから連絡が来た。仕事のことかと思ったら、ス○ブラの新キャラについての感想だった。予想外で、さらに追加キャラが増えるから、今から待ち遠しくて仕方ないらしい。前の夜中から起きていた割に元気だと思ったが、そういえばみーさんは電車内でぐっすりと眠っていた。結構もたれかかられていたからだろう、一方の肩だけ重みが残っているような気がした。

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