第81話 綻び
第81話 綻び
ホテルは駅近くだったからすぐにたどり着いた。部屋に入って間もないうちにシャワーを浴びて汚れを落として、髪が完全に乾くのを待ちながら服を掛けていると懐に違和感を感じた。取り出すと拾った黒い木製の人形だった。
(どうしようか)
みーさんの言うように壊したからもう効果はないと思う。事実、あの空間から出ることができたわけだから。しかし何か不気味だ。
(みーさんに聞いてみようか)
もう寝ているだろう。あんなことがあった後だ。それに終わったことになっているわけだから、蒸し返すようでバツが悪い。
どうするかを考えたが結局持っていた札を貼り、布袋に入れて部屋の机の上に静置した。早く寝たかったというのもあった。
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私の夢の境界?結界?とにかく私の夢には綻びができてしまっている。だから、またも妙な夢を見た。それは、過去の記憶の節々に複数の黒い人型がその場にいた人物から溶けるように現れてきたものだった。紙芝居のように場面は次々切り替わっていき、やがて…。
目が覚めた。最悪の目覚めだった。持って来たペットボトルの水を飲んで少し頭を冷ました。少し冴え始めた頭で、ふと夢の内容と木製の人形のつながりが気になり、机に向かった。袋を開くと札には所々まだらの穴が開いていた。
(これがやはり原因か)
この木製の人形は札で封印できないほどの力があって、かつ私と相性の悪いもののようだ。幸か不幸か、二度寝するには時間が足りない。このまま起きていよう。
札の予備もまだあったから念のために貼り直して、できるだけそれを視界に入れないように、テレビのショッピング番組を流しながらスマホでネットサーフィンをした。体はまだ痛かった。
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朝食は恐ろしいほど粗末だった。無料バイキングとは言え、あれほどひどいものは初めて見た。食べ物がない土地でもないのに、コストカットの影響がここに来ているのか、と思った。他の系列店は並の物が出るから、笠登のが何かうまくいっていないのだろう。素泊まりでコンビニの何かを買って持ち込んだ方がましだった。とりあえず、食べられそうなものを集めて何とか腹に収めた。
みーさんと朝食?を食べているときに昨晩の出来事を話した。木製の人形がまだ封印しきれていないことに驚いているようだった。次は自分が預かると言ってくれたので袋ごと渡した。
笠登駅にはラッシュ少し前に着いた。人はまだまばらで、入場券を買ってホームに入ると風通しと屋根のせいで寒かった。待合室に入ってしばらく様子を見ることにした。みーさんは反対側のホームにいたが、やはり同じく寒かったようですぐに待合室に入っていた。
ラッシュが始まった。気温も高くなり始めたので、ホームに出て覆面の花売りを探した。このくらいの規模だと電車が来るのはまばらだからそのときだけ駅内が混雑するようだった。だから、人込みを嫌っている人たちは早めに来て待っていた。
その雑踏の中を全体が見渡せそうな位置に陣取り壁を背にしたり、人影が少ないときは歩いたりしながら探したが、残念なことに覆面の花売りは見つからなかった。別の怪奇は他の駅と同じように駅周辺にあったが。
その後、みーさんと昼食を近くのファミレスで済ませて、ホテルに戻って寝直した。木製の人形が近くになかったからなのか、みーさんが何かしたからなのか、夢を見ることもなく(見たことを覚えていないだけかもしれない)、深い眠りにつくことができた。
起きた後は、風呂に入って眠気を飛ばし、みーさんと夕食を食べに行った。中華料理屋で酒と料理を簡単に楽しんだ。話をするというよりも、点いていたテレビを見ながら2人で突っ込みを入れていた。ホテルに戻る前に2人ともコンビニに寄って翌日の朝食を買った。ホテルの朝食はコーヒーくらいしか美味しいものはなかった。
ホテルに戻ってからほんの少しゆっくりした後にSMSで朝の出来事を話した。みーさんも私も何も見つからなかったから何か他の要因があるのか、それともランダムなのか、データを貰って洗うという話になった。私も半分貰って解析、と行きたかったがスマホでは処理できる範囲を超えていた。みーさんにデータ洗いをお願いする代わりに、私は覆面の花売りが原因と思われる個々の死因を調べることにした。