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第78話 無名駅(前編)

第78話 無名駅(前編)


 起きる前に見ていた夢はとても長く、懐かしく感じた気がした。昔の思い出を辿って行ったようで、所々異なり少女、いや、女性がいたような気がする。すぐに記憶はおぼろげになっていき、数日後には何も覚えていないだろうが、淡い寂寥は残っていた。


 周りには私達を除いて誰もおらず。電気はどこから来ているのか不明だが車内は暖かいままだった。ボタンを押すと扉は普通に開いた。外は息が白くなるほど寒かった。


 「みーさん、スマホに電波来ていませんか。私のは圏外で…」

 すっかり忘れていたがスマホに目をやると案の定というか、電波が来ていなかった。


 「私のもだめですねー。これ、怪奇ですよ、きっと」

 みーさんは周囲を見渡して何かを調べている。所々触っているのは物の記憶を読んでいるのだと思う。


 「怪奇、というのは例の覆面の花売りでしょうか。話に聞いていたのとは違うようですが…」


 「うーん、どうとも言い切れないですが、多分別物ですねー」

 怪奇を感じられるようになってから、よくわからないモノに巻き込まれることが多いと思う。一応手の甲をつねったが、痛い。夢ではない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それから一通り電車内を調べて、電車はこちら側の物で、それ以外は向こう側の物ということが分かった。みーさんは無名の駅に着くまでの記憶はなんとか読み取れたが、どうやってここにたどり着いたかは分からなかった、と言っていた。


 ともかくこの空間から出なくてはならないが、どうしたものかと思案していると、不意に電気が消えた。空調も止まった。一か所扉を開けておいてよかった。できることも限られてきたので私達はホームに降りた。急に足元が消えたりすることもありうるから注意しながら足を付けたが杞憂だったようだ。


 ホームは寂れていて所々に亀裂が入っていた。電柱は木製で明かりはすでに消えていた。駅舎も昔の、それこそ木造で窓ガラスは割れており、路線図や切符売り場はなく、改札を通らなくても外に出ることができた。要するに、柵も何もなかった。


 駅舎の向こうにはU字型の下り坂があった。植生は、あまり詳しくはないが、N市から笠登市の間とそう変わらないようだった。空は曇っていて何も見えなかった。つまり、ここがどこなのかは全く分からなかった。


 みーさんにはヘッドライトを渡して、私はその辺にあった木をへし折って手に持つと私達は下り坂の向こうに下りて行った。見える範囲は普通の山のようで、唯一変わった所といえば、道の先に山状に積んである苔の生えた石があるくらいだった。


 「やっぱり、こういうとき上野さんは頼りになりますねー。周囲の偵察が要らないですから」


 「ありがとうございます。でも、全体が怪奇だと中々個々の判別が難しいですから、これ、集中力がいるんですね。それに、みーさんの能力も頼りになります。本当に魔法のようですね」

 読み取る能力(仮)はとんでもないと思う。探偵にでもなれば大儲けできそうだ。


 「まあ、そうなんですけれどねー。癖も強いのよ。ちなみに、上野さんには何か鍵がかかっているから薄く表面しか読めないですねー」

 とんでもないことを言ったような気がする。人の記憶、思考も読み取れるようなことを言っていたような、それに、私に鍵がかかっているというのは何だろうか。考え始めた私の顔を読んでかみーさんは補足をした。


 「あ、もちろん誰彼構わずやっていませんよー。上野さんに鍵がかかっているのに気づいたのはセキュリティの一環でやったときですね。こういうの、やりすぎると良くないですから、仕事以外ではあまり使わないですよ」

 彼女なりのポリシー?があるようだ。というか、私にかかっている鍵は何だ?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ようやく石の山に着いてからは私が警戒をして、その間にみーさんが周囲を調べた。外は冷えていて、少し風が吹いているから余計に寒かった。やがてみーさんが石から手を離すと立ち上がり、私の肩をツンと突いた。


 「上野さん、この辺に何か、黒い人型のモノがいます。迷い込む人を食べるようです。これがその中心のようですねー」


 「そうですか。この先の道はないですし、山を越えるわけにもいきませんね。線路を歩いてどちらかに行っても良いですが…」

 中心がわかっても、ここから出る方法は依然不明だ。


 「そうですねー。どうしたものですか…。と、思っていましたがどうやらお出ましのようです。気配がします」

 みーさんは周囲をキョロキョロと見ている。


 「どうしますか」


 「逃げます。私に戦闘力はありません」

 普段よりみーさんの声に緊張感がある。私も感覚を集中させて、いつ来ても良いようにする。そうして二人ともゆっくりと駅舎の方に歩いていく。


 途端に視界に黒い人型のモノが現れた。身長は1.8mくらいか。シルエットは人と変わらないが、筋肉の付きを感じない。みーさんの着けているヘッドライトが鈍く反射している。それだけではない。視界の外にも3体いる。囲まれている。


 (どうする…)

 電車に戻ったら助かるという保証もなければ、戻れるという保証もない。見たところ、動きは鈍い。しかし…


 「みーさん、前のを潰しますから走ってください。後から追います」

 私は運動ができる方ではないが、何とかなってほしいと思う。みーさんの返事を待たずに目の前のモノの胸目掛けて木を突き刺す。先端にはナイフを括りつけてあるが…。


 「キイィィィ!」

 それは甲高い声を出して身を捩った。抵抗なく刺さっていった。みーさんが駅舎に走っていくのが見える。一層動きが鈍くなったので一旦ナイフを抜いて足に突き刺す。


 「キュイィィィ!」「キィィ!」

 痛み?なのか刺された黒い人型が鳴くと、他のが呼応するように鳴き始める。何だか良くない気がする。刺し口からは赤黒い物が漏れている。ただの勘だが、構造は人と同じだ。動き方や庇い方が映像で見た物と同じだからだ。刺された人型は痙攣を始めている。


 (距離をとろう)

 駅舎の方に走りつつ、後方の確認をする。残りは3体だ。最初の1体は既に絶命しているようだ。この調子で片付けようか。その油断が良くなかった。後方に突然現れた人型に思い切りよく殴られた。とっさにかばったが激痛は免れられなかった。そのまま近くの草むらに倒れこんだ。

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