第73話 綾小路氏(前編)
第73話 綾小路氏(前編)
朝食後の話し合いは大して進まなかった。昨日の続きで昼食前後に藍風さんと例の地下室の出入り口を探すことにした。福間さんは福間さんで別の何かをするようだ。松本さんたち3人は誰かの部屋で何かしているようだ。大屋さんはしきりに森の中を回っているようだ。柴原さんの死後、ほとんどそうしている。
地下室の出入り口の中に棒に括りつけたスマホを突っ込み、セルフタイマーにして写真を撮ってみたところ、内部でもう一度曲がっていた。ということはもっと曲がりくねっているかもしれないため、単純に地下室の真上に出入口があるわけではないようだった。
とはいえ何もしないわけにもいかなかったので、ひとまず森の中を再び歩くことにした。
「上野さん、森は他の人も色々見ているから探しつくしていそうです。出入口があるならどうやって見つからないようにしているのだと思いますか」
藍風さんの言う通りだ。地下からだから地中に埋まっているのだろうか。
「何かの下にしておけば、見えないとおもいますが…。地面を手当たり次第に掘るわけにもいかないですよね。それに、地下は空気の流れがあったから、出入口はある程度地上から見えておかしくないはずです」
丁度横に大きな石があったから棒を下に入れて裏返してみる。普通の地面だ。ここではない。
「あ、もしかしたらですけれども。木の中を通っていたりしませんか」
メルヘンなことをいきなり言い始めたと思ったが、その可能性はないわけではない。枯れそうな気もするが。
それからは幹の太い木を叩きつつ、地面にある様々な物、石や倒木、背丈の低い茂みなどの下を探していった。だいたいの物の下には冬眠中?の昆虫がいてとても人間が頻繁に通っていたようには見えなかった。
洋館を中心に徐々に遠くに渦を描くように移動していくうちに、少し離れたところに枯れ木が立っているのが見えた。大きい。叩いてみると生木よりも音が大きい。枯れているからというのもあるだろうが。
「藍風さん、もしかしたらここかもしれません」
「本当ですか。なら、あるとしたら出入り口は木の上ですね」
そういわれると心なしか枯れ木は幹の太さの割には背が低い。枝も低い位置から出ているように見える。
「ああ、そうかもしれません。少し見てきます」
枯れ木に慎重に体重をかける。割れない。ゆっくりと上を目指して上っていく。ふと下を見ると心配そうな顔をした藍風さんがこちらを見上げている。中腹辺りに差し掛かり、木が2方向に分かれている所を覗くと、本当にあった。上手いこと蓋がしてある。藍風さんの勘は変に冴えていることがあるがこれも能力の一部のなのだろうか。
「藍風さん!ありました!」
下に伝えてから、蓋の中を覗くと、相当深かった。厄介だ。一旦下に降りよう。
「中はどうなっていたのですか」
地面に足が付いてすぐに藍風さんに聞かれた。
「簡単に言うと、カタカナのトの字に似た構造になっていました。そのまま降りるとかなり下に落ちてしまいます。命綱をつけて、適切な長さの縄梯子をつたって、トの字の2画目の方に移動しないと先に進めなくなっています」
「そうですか…。そこから入ってもどうなるかわからないですし、いずれにしても出口には着いていますので、入らなくてもよさそうです。この枯れ木の件は後で福間さんにも伝えませんか」
「賛成です」
一度洋館に戻って昼食をとり、それから仮眠をとることにした。その間に福間さんに出入口の件を伝えた。ちなみに、どうしても出入口が見つけたかったら(非正規の)出入口から発煙筒を投げ込んで煙の出どころを見ようと思っていた。そんなことをすれば全員に地下室のことがばれてしまうが。
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仮眠から起きて夕食を済ませた後、作戦を話し合った。こちらの進捗はあまりなかったが、何かしらは進めようとしていたようだった。その後、窓のからくりについて藍風さんと窓付近を調べたが、特にこれと言って何か見つかることはなかった。
そうこうしているうちに深夜になり、腐臭とともにゾンビが現れた。