第69話 きりがない(後編)
第69話 きりがない(後編)
大矢さんには悪いが、仕事は仕事でやらなくてはならないというのが全体の考えのようだ。このリスク込みでしている仕事だから、覚悟はしていたことだ。何が起こるかわからないから遺体を外に出すのは憚られた。しかし放っておけば腐る。一晩おいて何もなかったら協会が引き取りに来るということになった。少し時間を置いた後、昨晩分かったことを話し合った。
そこで分かった、決めたことは次の通りだった。
・ゾンビが道具(長い柄の鎌のようなもの)を使ってきた。より一層の警戒をする。
・その道具は朝になっても消えなかった。つまり、どこかで作られたものを持って来たということだ。
・周囲の森の中には儀式に使うような陣や媒体は見つからなかった。これは全員が様々な方法で確認している。
・室内は少なくとも自分たちに見えた範囲には何も見当たらなかった。詳しく調べる予定。
柴原さんの件があったために、時間をかけて調査することはできていなかった。私と藍風さんは私の部屋に戻り、そこから建物内を調べることにした。雨が降っていたから外を出歩く気は起きなかった。
「藍風さん、依頼をキャンセルするつもりはありますか」
部屋の中を漁りながら聞く。私は机の引き出しを抜いて調べ、藍風さんはベッドを調べている。
「もし、これ以上酷くなれば考えた方がよいです。ただ、そういうことを繰り返すと受けられる依頼が減ります」
藍風さんがなぜ怪奇の対応をしているのかは不明だが、こだわっているようだから、依頼を受けていたいのだと思う。
「そう言う仕組みですか。私は藍風さんがそうしたいなら合わせます。いつでも言ってください」
「はい…。ありがとうございます」
少しほっとしたように聞こえたのは私も実はキャンセルしたいとどこかで思っているからだろうか。
私の部屋には何もなさそうだった。一旦荷物をまとめてもらって、続いて藍風さんの部屋に向かった。わざわざ入ることはなかったが、気まずいものが見つかったら恥ずかしい。レイアウトは私の部屋と同じで、壁にかけてある絵が違うくらいだった。リンゴのような香りが漂っていた。
同じように机の引き出しを抜いて調べていると窓の外から何かが聞こえた。藍風さんも見えて気づいたようだった。
「上野さん、あれ、松本さんと飯塚さんです」
雨なのにわざわざ森の中で木を傘にして何かをしている。耳を澄ませるが、雨音や他の雑音が多くて内容は聞き取れない。話しているということがわかるくらいだ。
「聞き取れませんが、何か深刻な話をしているようです。手元は葉の陰になって見えませんね」
「何か解決に繋がるものでも見つかったという感じではないですか」
「はい、むしろ、本多さんがいない所を見ると、逃げる準備をしている可能性さえあります。意見が割れたのかもしれません」
少し様子を見ていたがすぐに洋館の中に別々に戻っていった。それから再び藍風さんの部屋を調べたが、やはり何も見つからなかった。
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一通り終わったところで昼食をとりにいった。居間を通った時、大屋さんがずっと柴原さんを見ていたのが見えた。福間さんが気を遣って食べ物を持って行っていたのが見えた。食後に仮眠をとった。藍風さんの残り香が布団からかすかに漂っていた。
夕食後に再び作戦を立てて夜中に備えた。昨晩と同じことをすることとなった。私と藍風さんが窓から外を見て、大屋さんが柴原さんを見て、他は外でゾンビと対峙しつつ、周りを調べるという予定になった。
腐臭が濃くなって、ゾンビが現れると交戦が始まった。
(今のところ、道具を持っているゾンビはいないか…)
本多さんが棒で殴っている。福間さんは、あれは鉈か。
試すことは決めてある。後は合図があるのを待つだけだ。入れ替わりで視界には松本さんと飯塚さんが現れる。
「今だ!頼む!」
松本さんの声がトランシーバーから聞こえる。それに合わせて少しの間目を閉じる。再び開くとゾンビは消えていた。
しかし、そのあとすぐにゾンビは森から現れた。雨で視界が悪く、足元も悪いということで途中で引き上げてその夜は終わった。まだ試すことあったがその余裕もないようだった。
柴原さんは朝になってもそのままで、協会の人が受け取りに来た。大屋さんはついて行くことはなく洋館に残った。むしろ、一層意欲的になったようだった。