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第68話 きりがない(中編)

第68話 きりがない(中編)


 私と藍風さんは室内に残って2階の窓からそれぞれ外を見ている。柴原さんと大屋さんは1階の窓から外を見ている。残りの松本さん、飯塚さん、本多さん、福間さんは外に出ている。作戦はまずシンプルに室内の4人が同じ方向を見て、その範囲で3人が待機、ゾンビが出たら迎撃や捕獲を試みる。残りの1人は視界外の探索だ。私と藍風さんの仕事はあくまでも観測だ。


 急にかすかな腐臭がし始めた。誰も気づいていない。


 「ゾンビの臭いがします!気を付けてください!」

 トランシーバーを通して伝える。私の視界にいる松本さんと本多さんが持っている棒を構えた。腐臭は濃くなっていく。


 奥の森からゾンビが現れた。視界から湧くのではないようだ。早速交戦が始まった。打撃音が聞こえる。藍風さんか下の二人の視界でも始まったようだ。音が複数から聞こえる。


 「そろそろ窓から離れて!」

 本多さんの声がトランシーバー越しに聞こえる。言われた通りに窓から離れて後ろを向く。それからやや遅れて、音と臭いが消えた。一旦はこれで終わりか。


 小休憩の後、再び窓の外を見る。先ほどと同じだ。腐臭がして、それから森の奥から現れる。しばらく経って外の人から終了の合図がかかった。家の中にいれば今のところ害はないから、交代で一人見張りを立てて一旦眠ることにした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌朝、朝食を食べ終わった後に昨夜分かったことを報告し合った。別に仲良しの共同体ではないから一緒に食事をとるわけではない。何となく3人で来た松本さんたちは居間によくいるが、私と藍風さんは私の部屋にいることが多い。


 そこで分かった、決めたことは次の通りだった。

 ・ゾンビは近くで見るとやはり腐った人の死体で、これからもゾンビと呼ぶ

 ・臭いは強烈だが、姿が消えると臭いも消える。マスクをした方がよい。

 ・森の奥から現れるが、どうも唐突に森の中に出現しているようだ。

 ・老若男女様々なゾンビがいる。現れている個体は違うようだ。

 ・窓からの視界外から見ても姿は現れる。外で適当なところを見てもゾンビは出てこない。(福間さんが試した)

 ・鏡越しに窓を見てもゾンビは出てこないし、その姿は映らない。(柴原さんが試した)

 ・カメラやビデオにも映らない。(大屋さんが試した)

 ・明るい所に引かれやすいが、窓から明かりが漏れなくても現れる。(藍風さんが試した)

 ・戦った感覚では意志がない。戦い慣れているなら手こずることはない。

 ・朝になると動いているゾンビも動かなくなったゾンビも消える。



 情報を交換した後で、藍風さんと私は部屋に戻った。


 「今まで受けた依頼とは少し毛色が違います。どう思いますか」


 「うーん、やはり何か原因があると思います。封印していたのが解放されたとか、儀式が起こったとか、色々あります」

 藍風さんは顎に細い指をあてて首をわずかに傾け、少し上を見ながら言った。


 「そうなると原因が何でどこにあるかですね。それからゾンビの性質も手掛かりになりそうです」


 「はい。まず、森の中を探しに行きませんか」


 私達は一階に降りて、玄関から外に向かった。寒かったが暑いよりはましだろう。腐臭が強くなりそうだからだ。森の中に入ると薄暗かった。私には関係ないが。館の周りの森を周った。地面は柔らかく、死体を埋めることは可能そうだった。木や植物は取り立てて特別な物はなく、近所とそう変わらなかった。冬だからだろうか、虫や小動物はいなかった。鳥は高い所にいたが、哺乳類は見つけられなかった。石でできた構造物もなく、地面に魔法陣のようなものもなかった。綾小路氏の話では日中でも腐臭がしたそうだが、それらしいものは感じなかった。



 森から戻り、昼食をとってから仮眠をとった。交代制にはなっていないが、誰かしら起きてはいるだろうという考えだ。この辺りは松本さんにやるならきちんとやってほしいと思った。


 それから夕食後に作戦を立てて夜中に備えた。昨晩とは逆の窓から見る予定になっていた。1階にはそちら側に窓がないから、私達と大屋さんが2階で外を見て、残りは外でゾンビと対峙したり、周りを調べるという予定だった。


 夜中、配置について待っていると再びかすかに腐臭がし始めた。トランシーバーで連絡を取り、臨戦態勢になる。交戦音が聞こえる。


 (今日はどうしようか)

 視界の中では飯塚さんと本多さんが戦っている。というよりも一方的に叩きのめしている。動かなくなったゾンビが積み重なっていく。そのときだった。


 「うわっ!」

 大声が響いた。柴原さんだ。すぐに飯塚さんがそちらに向かって走っているのが見える。


 「窓から離れてくれ!」

 トランシーバーから飯塚さんの声が聞こえる。予定とは違うが、言われた通りにする。一階が騒がしい。中に戻ってきたようだ。


 「下に集まってくれ!」

 何事だろうか。藍風さんと廊下で会って、一緒に降りて行くと、そこには柴原さんの死体があった。


 「やられた。道具を使ってきた」

 飯塚さんがつぶやいた。大屋さんが悔しそうな表情をしている。覚悟していたとはいえ実際目の当たりにするとやはり違うようだ。黙祷を全員で捧げてから、福間さんが口を開いた。


 「それで、柴原さんのご遺体はどうしますか?縛った方が良いと思います?」

 それはそうだが、誰も口を開けない中で率先していってくれるのは助かる。大屋さんがすぐに口を開く。


 「そんなことを言っている場合じゃ、うん、そうだな、感染しないと言ってもどうなるかわからない。柱に縛っておく。今日は俺が見ておく」

 大屋さんは縛り付けるのも一人でやると言って、その後もずっと見つめていた。

 

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