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第67話 きりがない(前編)

第67話 きりがない(前編)


 人間とサルを分けるものは何なのかというと、手っ取り早いのは有性生殖ができるかどうかだと思う。他にも種の分類は色々あった、はずだ。そんなことを朝の頭で考えながら朝食を食べた。それは今回藍風さんと一緒に受ける依頼と関係があるからだと思う。


 食後、数日分の出かける準備をして藍風さんの家に向かった。祝日だからか道がいつもよりも混んでいた。門の前に着いたときには藍風さんは既に外で待っていた。登山服風の格好にジャンパーを着ていた。私も似たような恰好だった。藍風さんが車に乗り込むと落ち着く香りが広がった。


 「あけましておめでとうございます」

 藍風さんの声は高く透き通っていた。里帰りしたような気分になったのは前の雪国の記憶と重なったからだろうか。


 「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。それでは行きますか」

 車を高速道路に向かわせる。


 「上野さんはお正月に何かしましたか」


 「初詣に行って神社で神様のような怪奇に絡まれて、初夢から石ころのような怪奇が出てきてと言った感じでした、藍風さんはどうでしたか」

 自然と怪奇の話になったが、事実それが占めるウエイトは大きかった。


 「私は、普通です。友達、城山さんと江崎さんと初詣に出かけて、あとはだいたいテレビを見ながら炬燵にいました。それよりも、夢から出てきた怪奇は気になりますね。家の中には護符がありましたよね」


 「そうなんです。だから怪奇は普通は入れないはずでした」


 「結局どうなったのですか」


 「全部捕まえて、というか拾って袋に入れて置いたらいつの間にか消えていました」


 「よかったです。それよりも何かあったら呼んでください」

 少し怒られた。心配してくれることがありがたい。油断していたと思われても仕方ない。


 その後は元の話に戻り、高速道路に乗ってからはお互いに静かになった。今回の目的地、Q県の山中に向かった。冬休みであったということと、やや特殊な依頼内容だったので地区をまたいで仕事をすることになった。高速に乗るといつも考えるのは依頼内容だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 Q県の地沢町山中深くにある洋館は依頼者の綾小路氏の所有物だ。元々は親戚が所有していたが、その親戚亡き後は半年に一回程度、別荘として使う程度のものだ。


 前回の夏に行ったときのことだった。掃除は業者に頼んでいたはずなのに、何だかかすかに腐敗臭がした。そのときは風に乗ってどこかの田畑から流れてきたのかと思ったそうだ。


 綾小路氏が夜中にふと目を覚ますと、外がざわついていて、腐敗臭が濃くなっていた。窓から覗くとそこには数人の人影が見えた。動きが緩慢で、目的も不明に見えた。家族は起きていなかった。外の街灯を室内から点けると、見えたものはゾンビだったという。それらは明かりのついた街灯に集って攻撃し始めた。綾小路氏は声を潜めて夜明けまで隠れ、陽が昇ってゾンビがいなくなったのを見たらすぐ家族と一緒に洋館から逃げ出した。というのが始めの話だ。


 依頼を受けた地区の霊能力者は洋館の周りを調べた。しかし、何かが這い出たような後があるだけで他には分からなかった。近所には人家はなく、一番近い所に話を聞くも、そんなものは知らないということだった。同じように洋館に籠ると夜中にゾンビが現れた。外に出て倒そうとすると姿がなかった。再び洋館に戻るとゾンビはいた。もう一人呼んで試したところ、窓から見てもらっているうちはその範囲にゾンビが現れるということが分かった。ただ、きりがなかった。


 感染能力はないそうだが(噛みつかれてもただ怪我をしただけだった。腐っているから抗生物質を多量に投与されたが)、それで毎夜現れるのは不自然だ。攻撃性も高く、一人死んだ。そこで依頼者と話して一旦依頼は打ち切りとなった。


 今回は複数の地区から一度に人を集めて、解決するという作戦になっていた。そんなことができる依頼料ということは、その洋館にはそれだけの価値があるということだろう。私達がするのはゾンビ退治の方ではなくて、どこに原因があるかを探すこと、あるいはこの現象を終わらせることだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 Q県についた私達はそこで遅めの昼食を食べた。同じ定食を頼んだ。それから地沢町へ向かい、途中から舗装の荒れた山道を進み、暗くなり始める前に洋館へたどり着いた。私達は最後だったようで、他の地区からは6人来ていた。壮年の男性の松本さんと飯塚さん、その二人と同じ地区の線の細い女性の本多さん、別の地区からは老年の男性の柴原さんと若い男性の大屋さん、さらに別の地区から、若い女性の福間さんだ。お互いに自己紹介をして(6人は既にしていたが再度してくれた)、部屋に行ってそれぞれが準備をした。


 藍風さんは私の部屋に来ていた(部屋は別々だが、用のないときにはこちらに来ていた)。まず館を捜索した。客間が2階に10部屋、それぞれにユニットバスがついていた。階段を下りると居間とカウンターキッチン、バーのように高級そうな酒が並んでいた。洗面所と洗濯機、それからトイレは玄関の近くにあった。駐車場は館の中にあって、外に出なくても乗り降りできるようになっていた。見取り図通りだった。


 外も一周回ってみたが、ごく普通の外観だった。外側の、森の方を調べようとも思ったが、やめておいた。何かあって夜中になってからでは遅いからだった。館の中には当面の備蓄があったので、それで夕食をとった。お互いの素性を聞くよりもこの怪奇についての考察、既知の情報の交換だった。話している中で松本さんがリーダーとなっていったようだ。特に私も藍風さんも不満はなかった。食後、部屋に戻って仮眠をとり、そして、夜中になった。

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