第66話 初夢
第66話 初夢
私の夢は例の幽霊の呪いのせいでセキュリティが若干ガバになっているようだ。護符のおかげで家の中に怪奇が入ることは基本的にない。護身用の護符も持ち歩いているから、低級の物は近づいては来ない。それなのに今朝起きたら家の中に小さい怪奇が複数湧いていた。夢の中で見たモノと同じだった。
夢の始めはいつも通りの明晰夢だった。何となく歩いてふと振り返るといつの間にか景色が変わっていた。夕方の田舎の集落だった。
(何だ…、これは…)
見た感じ、相当古い建物のようだ。昔見た大河ドラマの記憶だろうか。設定は江戸時代だろうか。周囲には誰もいない。ノスタルジックな雰囲気だ。
思うがままに散策していく。水車、茅葺き屋根、井戸、よくここまでリアルにできていると思う。深層の記憶は奥が深い。楽しくなってくる。そんな中、一番大きい家を見つけた。
(せっかくだから、入ってみるか…)
入り口で場面が変わったり、目が覚めたりすることもあるが、今回はすんなりと入ることができた。靴を脱がず土間から奥の座敷へ入る。囲炉裏の火が何故か付いていて、暖かかった。
「おかしい…」
夢の中で感じる感覚にしては火も、暖かさもリアルすぎる。また呪われたのだろうか。家から出ようとしたときに奥の襖が勝手に開いた。そこには7×7の棚があった。引き出しが勝手に開いて、1つ1つの棚から潰れた丸餅のような形の白黒斑の怪奇が現れた。大きさもその位だ。
(逃げろ)
変なモノに出会ったら逃げる。それが力のない者の鉄則だと思う。家から飛び出して、夢から覚めようと試みと、上手く行った。
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(もう朝か)
普段の起床時間より少し早い。二度寝をする気も起きず、水を飲もうと起き上がると夢の中の怪奇が現実に現れていた。
(逃げろ)
家の鍵を掴んで慌てて表に出る。寒い。台所にも、玄関にもある。
「これも夢だろうか」
掌を見て、思い切りつねって見てもはっきり痛いだけだ。現実だ。
(どうしようか)
家に戻る。それは何をするわけでもなく、ただ、あるようだ。動いていない。無害そうだが、夢から出てくるあたりが危険な気配を漂わせている。少し考えた末に、菜箸を持ってきてつまんでみる。グニっとした感触があって掴みあげることができた。それは何の反応も示さない。ただ、あるだけだ。
「集めよう」
私は一旦それを無視して軽く朝食をとり、それからビニール袋にそれを集め始めた。数を数えながら家じゅうを探し回った。本棚の裏なんかはいい方で、しまってあるスーツのポケットに入っていたりもした。探し続けてようやく残りの1つとなった。49個ある前提だが。
(どこだ)
そろそろ昼食の時間だ。一旦切り上げても良いが、それも癪だ。どこにもない。探せるところは探したと思う。あの大きさのものがあるところ…。
小一時間探しても見つからなかった。諦めて一旦昼食をとろうとタッパーを取り出す。電子レンジに入れてから食べようと思ってふたを開けると…。
「あった」
食べ物の中に混ざっていた。本当に餅が入っているようだ。洗ってから菜箸で掴み、袋に入れて口を縛る。
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タッパーの中身は食べられるかわからなかったから、食べ物に申し訳ないが捨てた。昼食後も一通りもう一度探したがやはり49個しかなかったようだ。後で誰かに聞いてみようと思っていたが、いつの間にか袋の中身は消えていた。護符の効力が出たのか、元の場所に帰ったのか分からない。再び家に散らばったことはなさそうだった。その後夕食をとって、勉強している間、特に何も起こらなかった。
この件は詳しい人に聞いたほうが良いだろう。自分らしい初夢ではあったが、これがいつでも起こるようならおちおち寝てもいられない。