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第7話 添九島(中編)

少しグロいかもしれないので、苦手な方は避けてください。

第7話 添九島(中編)


 学校は日曜日ということで誰もいないように見えた。部活動や休出の教員もいないのだろうか。車を近くの空き地に停めて、私達は学校の周囲を一周することにした。小さいながらも、校舎は2階建てで比較的新しく、清掃が行き届いているように見えた。


 「上野さん何か見えますかー」


 「特別なものは感じないですね。むしろこの島には本土より少ないようです。いないならともかくですが」


 「うーん。上野さんはそこにないと感じることができないんでしょうか。自分は嫌な気がひしひしと感じるんです。特に、1階のあの辺りですね」

 窓越しに教室、職員室、倉庫と書かれたプレートが見えた。廊下には誰もいなかった。校舎を半周して部屋側から見てもやはり誰もいなかった。


 「中に入れればいいんですけど、この位置からだとあの辺りというくらいしか分からないですねー。昨日見た民家にいた学生もですけど、なんか分散しているような気がするんです。まあ神社に先に行って、明日何とかして学校に入りましょうか」



 九宝島で買ってきたパンと水を軒下で摂って一休憩した後(人の車の中で食べるのは軽トラでも悪いだろう)、学校を出て私達は島唯一の神社に向かった。おそらく昔は何かを祀っていたのだろうが、今では村の集会所とお祭りの場になっているようだった。神社近くに着いた頃には激しい雨が降っていた。車に乗ったまま集中して見ても特別なモノはいなかった。しかしー


 「あれ見て。ミラー越しに」

 みーさんが左のサイドミラーを指さした。神社の脇の林にこちらに見えないよう、ビニール傘を指した老人が数人立っている。


 「みーさんも気づきましたか」


 「自分は偶然です。村長さんも言っていたけど、やっぱりきな臭くなってきましたね。それにここはやっぱり車越しでも悪い気がする」


 「ここで下りないのがかえって不自然かもしれません。どうしますか」


 「賛成。直接触れないとわからないこともあるしねー」


 私達が車を降りて神社に近づくと、老人たちは慌てて裏に停めてあっただろう車へ乗り、反対側へ行った。轍の後は往路も新しかったので雨が激しくなってから車で来たのだろう。神社の周囲にはやはり特別なモノはなく、みーさんの他に誰もいないようだった。


 「上野さん。見つけました」

 みーさんが気持ち悪そうな顔でこちらに向かってきて、「見てみますか」と聞いた。やはり専門家は着眼点が違うと思った。私が「はい」と答えるとみーさんは私を隅に連れていった。柔らかく温かい手が雨で冷たくなった周囲の中で優しかった。しかし連れていかれた先には何もない。思わず辺りを見回してしまった。


 「言っていたか忘れたんですけど、自分が見つけたのはここに残留している記憶です。神社にはやっぱりこういうものは留まりやすいですねー」

 そういってみーさんは私の手を握った。再び柔らかい感触がした後におぞましい景色が私の脳内をかけていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そこは夕暮れ時の今さっきまでいた神社で、時代はそう変わらないようであったが、見える家々が一昔前のものであった。そこには1人の女性と9人の子供がいた。女性の年は30代くらいだろうか、おだやかで素朴な顔つきをしているが目は虚ろだった。女性は何をすることもなく、そのままボーっと立ちつくしていた。9人の子供たちは同じくらいの年で、こちらも男女問わず虚ろな目で遠くを見つめていた。不意に女性が緩慢に動き始めた。


 神社の階段下から袋持ってきた女性はそこから鉈を取り出した。そしてそのまま1人目の男子の頭を叩き割った。脳髄と鮮紅色が辺りに広がり、隣の女の子にかかった。1人目は抵抗することもなくそのまま倒れ、ピク、ピクと痙攣して、やがて止まった。その間、誰も動かなかった。


 その次に女性は先ほど血糊を浴びた子の腹を服越しに鉈で割いた。女子は両手を水平にして微動だにしていなかった。腸と子宮が引きずり出され、その内容物が辺りにまき散らされ、中にいたであろう寄生虫が蠢いていた。周囲には悪臭が立ち込めたが女子が倒れて動かなくなるまで皆動かなかった。


 3人目は眼鏡をかけた女子で、大きい釘を額にあてられ、そのまま金槌で打ち付けられた。そのまま倒れて地面に流れているものに沈んだが、顔をしかめることもなく空を見つめていた。女性が女子の頭の隣に横座りなり、そのまま釘を打ち付けた。一撃ごとに両手足がビクン、と動いていた。釘が見えなくなってようやく女性は金槌を落として立ち上がった。


 4人目と5人目はどちらも男子で、女性が取り出した縄をお互いの首にかけて締め付けた。どちらもお互いの後ろを見つめ、やがてズボンが黒ずみ、地面にしみこんだところで縄がほどけ両方とも仰向けになった。


 6人目はおさげの女子で、女性に頭頂と顎をつかまれ反時計回りに回された。ゴキリ、と音が鳴り、半回転したところで女性にもたれかかった。女性はそのままの体勢で虚空を見つめていたが、やがて次に移った。女子は無造作に崩れた。


 7人目は太った男子だった。軽い力で胸を押され、抵抗も受け身も取らずに後頭部を打つ鈍い音がした。女性は近くにあった幼児ほどの岩を持ち上げると、男子の頭で手を離した。グジュッ、と岩の下から聞こえた。


 8人目の女子は胸をあらわにされ、再び取り出された鉈で胸骨沿いに開かれた。女性はその中に手を突っ込み、血管をちぎって心臓を取り出した。空洞に血だまりができて、女子の白い服にしみこんでいった。女性は心臓を握ったまま両手をだらりと垂らし、その鼓動が止まるまでどこかを見つめていた。


 最後の男子はそれまで流れたものがしみ込んだ土を口と鼻に詰められた。男子は瞬きもせず棒立ちしていたが顔が青くなり、すぐに崩れ落ちた。


 それから女性は袋から包丁を取り出し自分の胸に突き立て、力なくうつぶせに倒れた。血の海が広がった。


 そして、朝日が昇るころ、死体は数人の村人に片付けられた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 私は吐き気を覚えた。みーさんは「大丈夫?」とこちらを心配していた。


 「やっぱりこの島は狂っていますね。4つ前までしか見られなかったけど、おそらく43年間隔で9人の子供と1人の女性が同じ目に合っていました。もう用はないので、村長の家に戻りましょう」

 大賛成だった。一刻も早く離れたかった。車に急いで戻り、そこを離れた。あれが今年も起こるだろう。


 「間隔と人数は同じだったんですけど、手順は毎回違っていたので、神社ですることに意味があるんだと思うんです。4つ前は全員で燃えていましたし」

 みーさんが道中に説明した。あれを何度も体験してすぐに素面になれるのはタフだと思った。


 「神社を村長に頼んで塞いでもらいましょうか。それに今年も起こるなら、同じ役割の女性がいるはずです」


 「神社を塞ぐか、その女性を見つけて何とかするかですね。学校で気がぼやけていたのは生徒の他に今年の女性役が教員なのかもしれないです。ただ―」


 みーさんは顔をしかめた。普段明るい彼女が珍しいと思った。


 「村民が協力するか、ですよね」

 慎重な対応が要りそうだ。



 村長宅の離れに着いた時には雨は止み、先に見た景色のような夕焼け空になっていた。ひとまず着替えを済ませて汗を流した後、みーさんと私はリビングで話をする手筈だった。しかし誰かが不在中に入った痕跡があった。盗聴器と聞き耳はないようだったが、何があるのかわからない。やむなく横になっているふりをして布団をかぶり、スマホのSMS(7sup)で連絡を取ることにした。


 『少なくとも老人1人は入っていますね。好意的に考えれば掃除をしてくれたのかもしれませんが』

 私は離れから昨日よりも明らかに濃い老人の臭いを感じていた。


 『自分のトランクは老婆が開けようとしていましたよ。鍵を壊してまで開けなかったのが気味が悪いね』

 トランクの記憶をみーさんは見たようだ。


 『普通の人なら表面上波風立たないのでしょうが、私達には通じないということですね。過去に現場にいた人もいるでしょうし、村長に相談するのも危険でしょうか』


 『ひとまず待ちます。協会にはこの件を調べてもらうように連絡しましたので、そちらを待って、明日に学校に行ってからにします』


 『承知しました』


 『なので、今日は警戒しつつ、普通にふるまいましょう』


 やりとりが済んでから、私達はリビングに集まり、不自然なくらいにテレビの内容について話していた。夕食を村長の嫁が昨日と同じく持ってきた。ごはんにみそ汁、サンマの塩焼きにポテトサラダと青菜のおひたしだった。村長の嫁は初日と変わらず笑顔で対応していた。



 青菜のおひたしには腐ったごみの汁が混ぜてあった。みーさんは嫁の仕業のように読めた、と言った。他の食事も食べる気がせず、砕いて便所に流し、持ってきた保存食を摂った。さすがにこのまま不用心でいられるはずもなく、交代で眠っているふりをして見張ることにした。幸い何もなかったが寝不足だ。

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